2021年03月17日 18:41 弁護士ドットコム
同性同士の法律婚が認められないのは憲法に違反するとして、北海道の同性カップル3組6人が国を相手取り損害賠償を求めた訴訟で、札幌地裁(武部知子裁判長)は3月17日、原告の請求は棄却したものの、「法の下の平等」を定めた憲法14条に反すると判断した。
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この訴訟は、東京や大阪など、全国5つの地裁で争われている一連の同性婚訴訟の一つで、違憲が判断されたのは、国内で初めて。提訴から2年間、懸命な訴えを続けてきた原告団も、それを支えてきた弁護団も喜びの涙にあふれた。
この訴訟で、国側は「憲法は同性婚を想定していない」と反論。「子どもを産み育てるための共同生活を送る関係に対し、法的保護を与えることが婚姻制度の目的」などとして、差別ではないと主張していた。
結婚のあり方を根底から見直した画期的判決といえる。「実質的な原告側の勝訴」と評価され、ほかの地裁で進められている訴訟や国会での議論にも影響を与えそうだ。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)
「憲法14条に違反する」
武部裁判長が判決を述べた瞬間、「法廷では誰も話してないはずなのに、違憲という言葉が出たとき、空気が動いた気がしました。一生、忘れられない瞬間です」。こう語るのは、傍聴していた原告のひとり、北海道帯広市内の会社員、たかしさん(40代、仮名)だ。
この日の判決後、原告団と弁護団は、札幌市内で記者会見を開き、判決への思いを語った。冒頭で、請求が棄却されたことが述べられると、意気消沈したが、一気に空気が変わった。弁護団も原告団も泣いていたという。
この訴訟で、国側は「憲法は同性婚を想定していない」という主張をひたすら繰り返してきた。それに真っ向から「自分たちはここにいる」と声を上げてきたのが、原告団だった。原告たちは法廷に立ち、自身の人生や思いを懸命に伝えた。
「判決文の中に、自分たちの姿かたちが現れていると思いました」と振り返るのは、帯広市内の公立学校教諭、国見亮佑さん(40代、仮名)。本人尋問に立った原告の一人だ。
「裁判長は、ひとつひとつ言葉を確かめるように、判決を述べていました。自分が尋問のときに法廷の真ん中で投げかけた思いへの答えをもらったような気がしました」
また、同じく原告の女性で、札幌市内の会社員、Eさん(20代)も、「この判決は、命に関わる問題です」と話す。
「当事者の多くは、思春期に自分の性的指向に気づき、これから明るい人生の選択肢があるはずなのに、同性と結婚できないということで、未来への希望が絶たれます。
自分が存在していいのかという根源的な問題を抱え、結婚ができないことで、生きることすら迷ってしまうような、そんな人たちがこの国にはまだまだいます。そういう人たちに、生きる希望を与えるすばらしい判決だったと思います」(Eさん)
「高く評価できる判決」
弁護団の綱森史泰弁護士は、判決についてこう総括した。
「現在の民法は、同性カップルの婚姻を認めていません。異性愛者のカップルは希望すれば結婚できるという選択肢があるにもかかわらず、同性愛者のカップルには選択肢がなく、法律上、区別がされている。憲法14条では、合理的な理由がない区別を禁止してますが、裁判所はこれに反していると判断しました」
判決では、性的指向は「自らの意思にかかわらず決定される個人の性質であるといえ、性別、人種などと同様のもの」として、「このような事柄にもとづく区別取り扱いが合理的根拠を有するか否かの検討は、慎重にされなければならない」と指摘した。
その上で、性的指向は人の意思によって選択したり、変更したりできないものであることから、「異性愛者と同性愛者の間で、婚姻によって生じる法的利益は等しく得られると解するのが相当」と結論している。
また、憲法24条については、制定当時の戦後初期、「同性愛は精神疾患であるとされ、同性婚は許されないもの」と解されていたと指摘。また「両性」という男女を想起させる言葉を用いていることから、「異性婚について定めたものである」として違憲判断をしていない。
一方で、婚姻制度について「明治民法でも子を残すことのみが婚姻の目的ではないと考えられていた」として、「子の有無にかかわらず夫婦の共同生活の保護も重要な目的」と指摘、「憲法24条は同性カップルの法的保護を否定するものではない」とも述べている。
今後、原告側は控訴を予定している。弁護団のメンバーで、自身がセクシャルマイノリティ当事者でもある加藤丈晴弁護士は、次のように語った。
「私も同性愛者の一人として、感銘を受けました。判決を聞いて、目頭が熱くなった。こみあげるものがありました」
一方で、弁護団は即日、声明を発表して、「憲法14条に違反するとの判断は画期的」としながらも、「国会の責任を認めなかった点は、法律婚の制定を待つ多くの同性カップルの権利実現を先延ばしするものであり、残念な思いも拭い去れない」とした。
同性愛者は長らく、結婚できないだけでなく、異性愛者よりも劣っているとして扱われ、尊厳を傷つけられてきたと指摘。加藤弁護士は「法改正に一刻の猶予もないです。今回の判決では、国の立法不作為は認められていません。今後、控訴して立法に向けた働きかけをしたい」と話した。
原告のたかしさんも「この判決がゴールではない。大事な一歩だったと思いますが、これが二歩、三歩と進んでいかなければいけないと思います」と語った。