2021年03月17日 10:01 リアルサウンド
女優・大野いとの3冊目の写真集『mellow』が2月26日に発売された。前作から5年の月日を経て制作された本作は、25歳、女優デビュー10周年の節目に、初ランジェリーを披露した記念すべき写真集となっている。
「大野いとちゃん、こんなに大人っぽかったっけ?」写真集を見て、率直に抱いた感想だ。2010年、大野いとがティーン向けファッション誌『Seventeen』の専属モデルとしてデビューした当時、筆者は同誌を購読していたため、もっと幼くてあどけないイメージが強くあった。しかし本作に写る大野いとは、落ち着きがあって、想像以上に大人びていた。15歳から25歳。大人になっていて当然だ。ページをめくるたび、大野いとの柔らかさに触れられたような気がして、一冊まるまる読み終えた後、手をギュッと握りあったかのような安心感を覚えた。
■10年の成熟
冒頭、何もせず部屋のなかで過ごしているだけの静かな写真が並ぶ。口元がほとんど開かれていないため、大野いとの声は聞こえてこない。乱れる前髪。鼻に合うピント。何を考え、何を感じているのか。その想いは掴みきれないものの、じわじわ縮まる距離感に、少しずつ大野いとの現在を理解していく。昔から変わらない柔らかな表情と、今まで知らなかった凛々しさの共存。今の大野いとを確かめるように見つめている折、グッと近い距離で笑顔が見られて、その人懐っこさに癒される。
ゆるやかに流れる時間のなかで、改めて感じるのは、10年という年月を駆け抜けた立派な脚力と精神力。多感な10代から、自立を求められる20代。ほんわかした印象のある大野いとだが、澄んだ瞳は穏やかでありながら、鋭さと深みを兼ね備えているようにも見える。タイトル「mellow」には「熟した」「豊か」といった意味がある。世間的に見た25歳は、成熟にはまだ程遠い年齢かもしれないが、彼女なりの足取りで歩んできた10年は、のんびり歩いていられるほど、単純な道のりではなかったはずだ。まさに「mellow」な大野いと。静かな佇まいから、いろんな景色を見て、いろんな感情を抱いた、豊かな10年間だったことが伺える。
■写真集を出す意味
大野いとのチャームポイントと言えば、スラリと長い美脚だろう。『第12回 クラリーノ美脚大賞2014』のティーン部門を受賞した実績のあるその脚は、パッと見で目を引くほどの華やかさがある。隠しきれない強い武器。けれど本作では、その長い脚をも含め、大野いとの存在そのものに寄っているのが印象的だ。
白色のレオタード。まさに、美脚を見せるに相応しい衣装であるにも関わらず、口元や胸元、瞳、臀部など、自然の光に照らされながら贅沢に大野いとを切り取っている。もちろん、長い脚を活かしたカットもあるのだが、なるべく素肌に近い質感のまま、脚以外のパーツも惜しみなく寄って撮られているところに、デビュー10周年の節目に写真集をリリースすることの意味を思う。
続く、ブルーとレッドのストライプ柄のビビッドな衣装を着たカットでは、よりナチュラルな笑顔を見せており、丸い瞳が滑らかな弧を描いている。明るい色味の衣装に気分が釣られたのか、何より楽しそうな表情が見られてうれしい。このカットを境に、大野いとのテンションも上がっているような気がする。雨降りのなか傘を差して、飛んで、笑って。今の楽しさを全力で表現しているようなピュアさに、生きるパワーが漲っている。25歳、女優デビュー10周年。これらはひとつの節目であるが、ひとつの通過点でもある。これからもっと熟していく。本作は、生きる彼女の人生の記録なんだと実感する。
■未来まで続くぬくもり
落ち葉とともに、赤いドレスでフィナーレを飾る。満開の花や生茂る緑色の葉に比べると、落ち葉はどこか物悲しい印象があるが、マイペースに笑う大野いとと踊るように舞う落ち葉が、日々を自由に楽しむことの大切さを全身で伝えてくれている。新型コロナで自粛生活が続くなか、制限されてしまったことに目が行きがちになって、今を流れる日常を非日常と捉えるようになってしまっていた。狭い世界が息苦しい。何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなり、脳が行き詰まる。それでも、あらゆるものに触れて、あらゆる景色を見て、何でもない時間を特別なものにしながら日々を重ねることで、豊さを得ることができるかもしれない。全てを肯定することは難しいけれど、全てを否定する必要もないのではないか。風の吹くまま季節を感じ、身に纏う布の素材に触れ、今を生きる肌を撫でる。そんなふうにして、毎日をオリジナルにしていけたら、未来がもっと充実したものになるはずだ。大野いとの自由な笑顔から、そんなメッセージを感じた。
最後は、白のスウェットにデニムを合わせたラフなコーディネートで街を歩く。ここまで見てきた写真は全て夢だったのではないかと錯覚するほど、平凡で日常的な光景が広がっているが、手元には、一冊を通して触れた大野いとのぬくもりが、感触としてじんわり残っている。本作に大野いと自身の言葉は一切記されていないものの、写真から伝わる彼女の温度が何よりもの説得力を持って、その場その場の感情を記してくれている。何かと不安な情報に心が左右される昨今だけれど、確かなぬくもりを握りしめて、明日へと続く横断歩道を楽しい足取りで渡れば、きっと大丈夫。日常的な風景が、写真集から伝わるぬくもりを、ずっと先の未来まで運んでくれている。そのあまりのあたたかさに、日常のなかで見失いがちになっていた豊さに気づかされた気がする。
■とり
日々グラビアに勇気と希望をもらって生きており、 グラビアを熱くドラマチックに語るのが趣味。 読んだ後に心が豊かになるような文章を心がけています。 好物はカレーとサーモンです。