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放置駐車の違反金、貸したレンタカー会社が負担「逃げ得を許すのはおかしい」怒りの控訴

2021年03月15日 10:22  弁護士ドットコム

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レンタカーを借りた者が払わなかった放置違反金は、貸し出したレンタカー会社が払うべきーー。そのような判決が先ごろ、岡山地裁であった。


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岡山市のレンタカー会社が、放置違反金納付命令の取り消しを求めて、裁判を起こしていたが、請求は棄却された。



裁判の争点は2つ。違反金支払いの責を問われるレンタカーの「使用者」は誰か。そして、警察は運転者を特定する努力をするべきか。



訴えた社長も、業界団体も、「おかしな制度で、逃げ得を許すことになる判決」と話す。



また、法改正時に、業界団体と警察の間で結ばれた「約束」が守られていないという。



社長は控訴して、制度のおかしさを問い続ける。(ニュース編集部・塚田賢慎)



●こんな駐車違反だった

岡山地裁は2月16日、岡山市のレンタカー会社が、放置違反金納付命令の取り消しを求めていた裁判で、原告の請求を棄却した。



2020年7月15日に提訴していたのは、吉備キビレンタカーの社長・湯浅健さん。



同社は、2020年1月7日、男性客に、同日から2月6日まで1カ月の期間、「わ」ナンバーのレンタカー(軽自動車)を3万40円で貸し出した。



1月25日午後0時15分、岡山市中区の交差点に止められている車を警察が発見。運転者の姿はなく、エンジンキーは抜かれていた。警察は道路交通法第44条1号に違反しているとして、確認標章をフロントガラスに貼り付け、放置駐車違反情報連絡票を同社にファクスした。



また、県公安委員会は、2月10日、同社に弁明通知書を送付し、3月13日には、放置違反金1万8000円の納付命令をおこなった。



これに対して、同社は、4月8日、公安委に、(1)1月25日当時、車を利用客に貸していたこと、(2)前記のファクスを受けた同社が、利用客に連絡したところ「駐車違反を取り下げてもらうように話が付いた」という旨を伝えられたことなどを記載した弁明書を提出した。



●今回の処分は適法か? 2つの争点と判決のポイントは

裁判で、原告は、自らは放置車両の「使用者」(道交法第51条の4第4項)にあたらないなどとして、放置違反金納付命令は違法であると主張し、取り消しを求めていた。



判決は、原告であるレンタカー会社を放置車両の「使用者」と認め、請求を棄却している。



裁判では、以下の2つが争点となった。



(1つめの争点)同社が同法51条の4第4項の「使用者」にあたるか



(2つめの争点)警察(公安委員会)が運転者である利用客の責任を追求することなく、納付命令をおこなったことが適法か



●レンタカー会社は、貸し出した車の使用者なのか

1つ目の争点は、裁判でどのように扱われたか。裁判で争われている「使用者」とは、同法51条の4第4項の条文に出てくるものだ。




《前項の規定による報告を受けた公安委員会は、当該報告に係る車両を放置車両と認めるときは、当該車両の使用者に対し、放置違反金の納付を命ずることができる。》




裁判所は「使用者」とは、放置車両の権原を有し、車両の運行を支配し、管理する者だと指摘している。



そのうえで、借受人に利用期間や返却などを指定するレンタカー業者はこれに該当し、さらに車両を貸し出すことで社会的便益を享受しているのだから、車両が適切に運行されることを管理すべき責任があるとして、レンタカー業者が「使用者」だと判断した。



レンタカー会社側は、実際に運転している借受人が「使用者」であり、駐車違反当時、会社側は車両を使用できなかったのだから、「使用者」には当たらないと主張したが退けられてしまった。



●警察はなぜ運転者特定に努めなくてよいのか

2つ目の争点について、原告は、このように主張する。




「駐車違反の責任は、レンタカー会社よりもまず、運転者が負うべき。警察や公安委は、原告の責任を追及するより先に、まず原告に尋ねるなどして、運転者を特定し、運転者である利用客の責任を追及すべきだった。」(編集部要約)




判決は、放置違反金納付命令制度が、「警察資源をより重大、悪質な警察事象に投入すべきものと考えられ、違法駐車の取締りに投入できる警察資源に限界があるという問題」を背景として、新設されたと指摘。



その背景や、設立趣旨を踏まえれば、




《効率的かつ合理的に違法駐車を抑止するものとして新設されたという立法の趣旨および経緯からすれば、法が、警察等がコストをかけて運転者の特定、呼出し等をおこなうことを放置違反金納付命令の要件としているものと解釈することはできない。



したがって、法の規定および解釈上、被告において、本件納付命令をおこなうに先立って、レンタカー業者である原告に尋ねるなどして運転者を特定し、運転者の責任を追及すべきであったということはできず、本件納付命令は適法である。》(判決引用)




このように結論づけた。



●法改正の背景は

放置違反金制度の導入にあたり、道交法改正案が審査された2004年4月の参議院内閣委員会では、警察庁交通局長が参考人として出席。今回のようなレンタカーの「使用者」の責任追及についても議論されている。



まず、放置車両の使用者責任の拡充は、(1)良好な駐車秩序を確立する(2)警察力の合理的配分という2つの課題に対応するためのものだ。



警察の人的リソースを、より悪質な犯罪に割けるようにすることが目的だった。



局長は、レンタカーの「使用者」とは、「レンタカー会社」にあるとした。一方、「借受人、運転者がレンタカーを使用して(…)、駐車違反をし、放置駐車違反をし、反則金を支払わなかったというような場合には、使用者であるレンタカー会社が責任を持つということにはなります」と答えた。



委員の参議員からは、「要するに、使用者責任が問われるのは運転者の責任が追及できないという場合に限るということでしょうか」などと再三にわたる質問と確認がなされ、局長は「そうでございます」と回答し、次のようにも発言している。



《当然にこれはモラルハザードを生じさせないためにも運転者を捕まえる努力をすべきである、まずはすべきであると、こう考えております。



ただ、なかなか現実問題といたしましては、現在の取締り力の不足から逃げ得を許しておる大変残念な事態を出来しておりますので、この部分をカバーするために今回の法改正をお願いしているものでございます》



●レンタカー協会「結局のところ、逃げ得を許しています」

さて、警察庁が主張する逃げ得をさせないための法改正は、うまくいったと言えるのだろうか。



一般社団法人「全国レンタカー協会」は、レンタカー事業者を「使用者」とした判決について、「運転者(借受人)と事業者とは賃貸契約の関係でしかない。事業者が借受人を管理していることはないと思います。いったん貸し出しをしてしまえば、実際に運行支配をしているのは借り主ですので、理屈にあわないと思います」とする。



「不思議でおかしな制度だと思っています。出頭せず、支払わずにレンタカー事業者が違反金を負担するようなケースですと、本人に交通反則の点数がつかない。



結局のところ、交通反則制度のなかで対応していないので、借主の逃げ得になっていると思います。



この判決によって、どうせ出頭しなくても、レンタカー事業者が払うからいいや、という考えが一人歩きされたら困ります」



協会によれば、レンタカーの事業者数は全国1万2031社で、うち協会加盟の事業者は2843社。また、レンタカーの車両総数は75万7321台(2019年3月末)。そのうち、会員事業者の車両数は42万1911台(2019年12月)。会員の車両数は全体の55.7%(2019年12月末時点)となる。



協会加盟のレンタカー事業者が借受人の駐車違反金を支払ったのは、2011年6月以降のデータのうち、もっとも多い期間で、2011年11月~2012年5月末の446件。もっとも少ないのは、2020年6月~11月末までの半年間で149件。外出自粛の影響と考えられる。



なお、吉備キビレンタカーは協会に非加盟である。



●警察との約束が反故にされている

「実は制度ができましたときに、警察庁と運用についての協議をしております。レンタカー協会加盟の事業者は、車両の後ろに、店舗への連絡先を貼ります。放置車両を見つけた場合、警察は店舗に通報してください。通報を受けた店舗は、借受人に出頭をうながします」(レンタカー協会)



先の議事録をみても、警察庁の交通局長が触れている。



《ただ、私どもは、レンタカー会社とも、業界とも話をしまして、なるべく相互に、お互いに連絡をし合うと。これは、現在でも放置駐車違反の運転者の特定に当たりましてレンタカー会社の御協力を得ているところでございますので、今後ともそういった緊密な連携は取らせていただきたいなと、こう考えているところでございます。》



「その通報をまずはくださいというふうになってまして、それが来ないケースもあります。そうすると、レンタカー事業者は、出頭をうながす機会をほぼほぼ失ってしまう。そうこうしているうちに、事業者にいきなり納付命令だけがくるということになります」(レンタカー協会)





この約束事は、協会と警察庁との間のもので、吉備キビレンタカーは協会に加盟していない。



「この制度は、協会への加盟・非加盟に関係なく、レンタカー業者にとって、有利不利というのがいいのかわかりませんが、うまい仕組みだと思っていません」(レンタカー協会)



貸し出しの際に、あらかじめ違反金1万8000円を客からデポジット方式で回収し、何事もなければ返却するやりかたで、この問題は解決できるかもしれないが、「それはサービスとしてどうなのか、難しい問題です」



●レンタカーを貸した社長は「おかしな話」

湯浅社長は2月26日、控訴した。



「警察や公安委は、車検証の使用者欄に記載ある者を『使用者』であると都合よく解釈している。車検証の使用者は『道路運送車両法』の下で規定されているもので、今回の道路交通法でいうところの使用者とは根本的に違う。従って賃貸住宅で住人が大麻を栽培していたら、大家が責任を問われるようなもので、おかしな話です」





社長は自動車整備業も手がけ、依頼者に代車を貸し出すこともよくあるが、違法駐車の使用者責任を問われたことは一度もないという。



「わナンバーであれば、罰金の取りっぱぐれがない。警察の恣意的な運用を感じます」



レンタカー会社は、貸し出しにあたって、利用者の連絡先や住所を把握している。違反金を支払った後で、会社から利用者に請求することは「理論上」は可能だ。



だが、実際のところ、応じる利用者ばかりではないという。



「督促をしても電話に出なかったり、出てものらりくらりかわされて、まともに応対してくれません。ビジネスや観光で、国内外問わず、遠方からのお客さんもいます。そのような人の自宅に行くことは現実的ではありませんし、近場だとしても、労力と金額が見合いません」



そのような事情から、レンタカー会社は泣き寝入りするしかなく、警察や公安委が利用者から違反金を取るべきだと湯浅社長は主張する。



●レンタカー業者は常にリスクを抱えている

北海道のレンタカー会社顧問を務める川上弁護士は、判決について「確かに現行制度の元では、放置違反金納付命令を出す前に、運転者の特定行為や呼び出しを事前に行うことまで警察等に義務付けられていると考えることはなかなか難しく、形式的に考えるならば地裁判決のような結論になってしまうのも致し方ない側面はあります」とみる。



一方で、適切な運用を期待もしている。



「他方、この事例に限らず、レンタカー業者が、車両の借主が引き起こした様々なトラブルに関する責任を一方的に負わされる事例は少なくなく、レンタカー業者は常にリスクを抱えながら車両を貸しているという印象です。



本件に関しては、警察等の側の運用の改善で解決する問題にも思えます。高裁、最高裁判決を待たずとも適切な運用がなされていくことを望みます」




【取材協力弁護士】
川上 大雅(かわかみ・たいが)弁護士
1980年札幌市生まれ,2008年弁護士登録。2014年より札幌北商標法律事務所を開設。著作権・商標権など知的財産権を中心に扱うが、様々な中小企業のトラブルにも対応している。
事務所名:札幌北商標法律事務所
事務所URL:https://www.satsukita-law.jp/