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自衛隊のエリート集団「空挺レンジャー」 OBに「ヘビも食べる」過酷訓練の実態を聞く

2021年03月14日 07:30  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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自分の「時間」を30分単位でチケットとして売買できる「タイムチケット」。プログラミングや写真撮影などのスキルを売りにしてチケットを販売している人も多く、なかには普段あまり接点のないユニークな経歴を持つ人たちもチケットを販売している。

自衛隊の中でも精鋭中の精鋭と言われている空挺レンジャーのOBであるTomoさんもタイムチケットに出品中だ。今回はそんなTomoさんにレンジャー訓練の実態や自衛隊での経験などをうかがった。

「体力調整」で1日8時間、肉体を追い込む


岡山県出身のTomoさんは高校卒業し、18歳で陸上自衛隊に入隊。普通科連隊で1年半所属した後、千葉県の第一空挺団で約9年間勤務した。空挺レンジャー課程を修了したのは入隊から6年経った24歳のときだ。

レンジャー隊員は有事の際、敵の後方にパラシュートやヘリコプターで降下し、敵の通信施設や食料などの物資の貯蔵施設を破壊、敵の指揮官などへの奇襲作戦を行う。

味方の支援が得られない敵勢力圏での活動が想定されるため、偵察部隊や普通科の歩兵隊員の中でもトップクラスの能力を持つ隊員がレンジャー訓練を受ける。陸上自衛隊の中でもレンジャー資格を持つ隊員は1割にも満たないとされている。

「基本的にレンジャー訓練は志願制ですが、自分のいた第一空挺団はパラシュート部隊ということで、特にレンジャー資格が必要とされる部隊。第一空挺団である程度の年数が経ったタイミングで、自分もレンジャー訓練を受けることになりました」

レンジャー隊員の志願者は「学生:と呼ばれ相部屋で共同生活をしながら、2ヶ月半の過酷な訓練を受ける。前半の約1か月間の『体力調整』という訓練で、隊員は「13時から20時、21時くらいまで肉体的にひたすら追い込まれる」そうだ。

「『体力調整』では腕立て伏せなどの筋トレや障害走、小銃を含めて5?6キロの装備で10キロほど走る『ハイポート』という訓練が行われます。午前中は爆破や格闘技の訓練、夜は夜で武器の手入れなどがあり、2?3時間くらいの睡眠時間がずっと続く感じでした」

一日一食で山中を歩き回る最終訓練

「訓練の前半では『生存自活』というサバイバル訓練もあり、ヘビや鶏を捌いて食べることもありました。ヘビは固くて骨も多いし、美味しくはないですね。塩の味しかしなかったです」

こうした訓練を乗り越えた隊員は約40キロの装備を身につけ、山中で全6回の実戦を想定した訓練に挑む。偵察や襲撃をして離脱、帰還するまでの想定任務を遂行するという訓練で、これがレンジャー資格を得る上で最大の関門となる。

「最初は2日間ですが、1日ずつ伸びていくかたちで最終的には5日間にわたる想定任務を行います。自分たちで作戦を立て、その間、ほぼ寝ずに山中で過ごすことになります。食料は一日一食。水も1日900ミリリットルほどに制限された状態で、精神的にもかなりキツい訓練です」

フィジカル面だけでなく精神力でも強靭さを求められるレンジャー隊員。空挺レンジャーの場合、訓練を受ける隊員のうち7~8割が合格する。

「ケガで訓練中止になる隊員もいますし、どれだけ身体を鍛えていても、後半の訓練で力を発揮できずリタイアする人もいます。5日間くらいの長丁場だとメンタルコントロールは重要です。自分も本当にヤセ我慢というか、空元気で乗り切ったという感じでした」

レンジャー訓練には冬の北海道で行う冬季レンジャー課程や幹部レンジャー訓練もあり、それらの訓練を渡り歩くツワモノもいるというから驚きである。

「お金を積まれても二度とレンジャー訓練はやりたくないという人もいますが、わりと楽しかったという人もなかにはいて。意外と自分も嫌いなほうではなかったですね」

レンジャー隊員の転職先は?

現在、レンジャー隊員による常設部隊は九州の駐屯地に存在するのみで、多くの隊員は資格取得後、所属する各部隊での勤務に戻ることになる。仮に情勢が不安定になった場合などに、レンジャー隊員による部隊を一時的に編成するといった運用が想定されているらしい。

「レンジャー資格を取ってからは第一空挺団での演習でも、必然的にキツい役割を振られることも増えますが、給料が上がることはありません。九州のレンジャー部隊にいくと少し手当がつくんですけど。資格取った年のボーナスの判定が少し良くなるくらいですね」

レンジャー訓練の指導役である助教の経歴もあり、自衛隊員としてエリート街道を歩んでいたTomoさんだが、入隊から11年目で陸上自衛隊を退職。その後、東京消防庁のポンプ隊で消防士として2年間勤務し、現在は造園会社で職人として働いている。

「自衛隊は定年が54歳と早く、一般的な隊員はだいたい10年ごとに全国転勤もあるので、30歳手前のタイミングで転職し、自力で稼げるようになりたいと思いました。自衛隊は上下関係が厳しく人間関係も大変で。いま考えたらよくやっていたなと思います(笑)」

レンジャー資格を持ちながら転職する隊員は比較的少ないそうだが、自衛隊での勤務は慣れると毎年似たようなサイクルになるらしく、「最後の方はモチベーション的にもしんどくなった」という。

「自衛隊を退職する際は口頭で情報の取り扱いや天下りに関する注意などもひと通り受けた」とのことだが、レンジャーOBはどんな業界や職種へ転職することが多いのだろうか?

「普通に会社で事務をやる人もいますが、体力を活かした仕事に行く人がやはり多いです。レンジャーの同期はジムのパーソナルトレーナーやっていますね。まだ転職したばかりで技術的なことはまだまだですが、自分も体力面では評価してもらっているかなと思います」

そんなTomoさんはタイムチケットで自衛隊員向けのキャリア相談や公務員試験に関する相談も受け付けている。

「消防に転職したとき『レンジャーって何やるの?』とよく聞かれて、こうした経歴に興味を持つ人も多いのかなと実感しました。公務員は潰しが効かないイメージも強く、転職で悩む人も多い。自分の経験が少しでも貢献できたらいいなと思っています」