トップへ

構造を一新! トヨタ新型「ミライ」の進化を試乗で実感

2021年03月12日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)「ミライ」がフルモデルチェンジを経て2世代目となった。水素で走る未来のクルマとして登場したミライだが、新型はパッケージングを一新し、駆動方式は後輪駆動に変わった。公道で試乗してみると、パドルが欲しくなるほどスポーティーなクルマに進化していて驚いた。

○パッケージングの源流は2015年にあり

新型ミライを旧型と比べると、まず前輪駆動車から後輪駆動車へ転換したことがトピックになる。

旧型では水素と酸素を化学反応させて電気を作り出す燃料電池スタックを前席下、水素タンクを後席下とトランク床下、電気を貯めておくバッテリーを後席とトランクの間に置き、フロントにあるモーターで前輪を駆動していた。

ところが新型では、燃料電池スタックはフロントに移され、水素タンクはセンタートンネルにも置くことで3本になり、バッテリーはニッケル水素からリチウムイオンになって小型化され、その下の後輪の位置にモーターを配している。

実はこのパッケージング、今回が初めての登場ではない。2015年の東京モーターショーに、レクサス「LF-FCコンセプト」として似たものが出展されていた。

違いとして、LF-FCコンセプトは水素タンクが2本で、前輪にもモーターを組み込んだ4WDだったのだが、フロントに燃料電池スタック、センタートンネルと後席下に水素タンク、後席とトランクの間にバッテリーを置くレイアウトは新型ミライと共通していた。

モーターショーに出展された時には次期「LS」といわれたLF-FCコンセプト。確かに、現行LSのスタイリングはLF-FCに似ているものの、FCVのパワートレインがそのLSよりも先に、ミライに積まれた理由は明らかではない。

まだFCVの普及やインフラ整備は発展途上であり、グローバルなプレミアムブランドであるレクサスでの展開は時期尚早という判断があった一方で、近い将来、エコカーの選択肢のひとつに成長する可能性が高いことから、まずはミライを進化させるという結論になったのかもしれない。

○スポーツセダンと呼びたくなる走り

新たなパッケージングを獲得したことで、ミライの走りはどう変わったのか。公道でじっくり試乗してみた。

FCVはタンクに詰めた水素と空気中の酸素を化学反応させて水と電気を生み出し、その電気でモーターを駆動させて走行する。ただし、そのままでは燃料電池の発電量をこまめに変えなければならず効率が悪いので、発生した電気を貯めるバッテリーも用意する。

加速の印象は電気自動車(EV)に似ていて、静かでスムーズ。耳をすませばモーター以外に燃料電池スタックが発する音も聞こえるが、ボリュームは抑えられている。交通の流れに沿って走る限りはほとんど無音で、高級感がある。

車両重量は2トン弱もあるが、モーターは最高出力134kW、最大トルク300Nmの動力性能を持つ。トルクは自然吸気エンジンでいえば3L級だし、モーターは超低回転から最大トルクを発するので、踏めばかなり速い。

ただし、レスポンスは一部の電動車ほど鋭くはない。これはFCVだからというよりも、トヨタならではのチューニングであると理解した。逆にいえば穏やかで、唐突感がない加速である。

乗り心地は快適だ。車体の重さのおかげもあって重厚感があるし、鋭いショックもしっとりと受け止める。数あるトヨタ車の中でも良好な部類に入るだろう。

幅を広くした代わりに高さを抑えたボディ、長いホイールベース、前後重量配分50:50というスペックが、走りを良くしていることを実感した。なかでも、注目したいのはハンドリングだ。意のままに向きを変える新型ミライの動きは、大きな車体を忘れさせてくれるほどの完成度。コーナーでの安定感も高く、ペースを上げても落ち着き払っている。エンジン車に比べて重心が低いことも、その印象を盛り上げる。

ドライブモードに「エコ」や「ノーマル」とともに「スポーツ」モードがあるのも納得だ。パドルシフトが欲しいと思ってしまうほど、新型ミライはスポーティーなクルマだった。

○未来を信じて買うのもあり?

ミライを愛車にするにあたって気になるのは、水素ステーションが少ないことだ。トヨタのウェブサイトでは、2021年3月3日現在で全国に約130カ所とある。しかも、24時間営業のステーションはゼロで、筆者が利用した移動式ステーションは営業時間が9時から15時までだった。充填作業を行えるのが、国家資格と一定の経験年数を持つ保安監督者のもとで教育・訓練を受けた従業員に限られていることが影響している。

ただし経済産業省では、ガソリンのようにユーザーがセルフで水素を充填できるよう規制緩和を進めている。これが現実になれば、営業時間の延長も期待できる。つまりは国を挙げての水素社会推進が動き始めているというわけで、こうした「未来」を信じてミライに乗るという考えはあると思う。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)