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アメリカ分断に加担した「カエルのペペ」、アスキーアートの「モナー」と共通点

2021年03月12日 10:31  弁護士ドットコム

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アメリカのコミック『ボーイズ・クラブ』に登場するキャラクター、カエルのペペは「feels good man」(気持ちいいぜ)とつぶやく姿が、ネットで人気を博して、日本でもキャラクターグッズが販売されるほどになった。


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しかし、2015年ごろから突然、ご機嫌なキャラのはずの彼は、オルトライト(アメリカの極右勢力)から祭り上げられて社会現象になってしまう。そして、ADL(名誉毀損防止同盟)から「ヘイトシンボル」として正式認定されるほど、ヘイターとして暴走していく。



マンガのキャラクターから極悪なネットミームとして、数奇な運命をたどったペペのドキュメンタリー映画『フィールズ・グッド・マン』が3月12日から日本で公開される。



原作者のマット・フューリーと、ペペを救い出そうとする『ボーイズ・クラブ』のキャラクターも登場する同作は、米サンダンス映画祭2020で審査員特別賞新人賞を受賞した。



なぜ、ペペは差別主義者の象徴にされてしまったのか。監督のアーサー・ジョーンズとプロデューサーのジョルジオ・アンジェリーニにペペの苦難と映画について語ってもらった。(ライター・碓氷連太郎)



●ペペの負け犬っぽい点がアメリカのネトウヨに響いた



――監督とプロデューサーはもともと、原作者のマット・フューリーと友人だったとうかがいました。ハッピーなはずのペペが、トランプやナチスを支持するようになっていくのを見て、何を思いましたか?



アーサー・ジョーンズ(以下、アーサー):マットとは、映画を作る前から知り合いで、彼と出会う前から『ボーイズ・クラブ』のファンでした。共通の知人を通じて知り合うことができたのですが、映画やアート、音楽の趣味が合ったのですぐに仲良くなりました。



だから2015年ごろにネット上で、白人至上主義的なペペの二次創作が出てきたときは、とても驚いたんですね。おそらくマットのことも、ペペの本来の姿も知らずに作られたのではないかと思って、とても戸惑いました。でも、それは一時的なもので、いずれ落ち着くだろうと当時は考えていました。



ジョルジオ・アンジェリーニ(以下、ジョルジオ):ペペにその後起きることは前例がなかったので、マット自身もまったく予期していなかったことだし、僕たちもオルトライトのシンボルになるとは思っていなかったです。



パンクやヒップホップの文化の中で生きていた僕たちにとっては、アートやキャラクターが二次創作を経て、別の姿に転用されていくのはよくあることだったので、最初はそれと同じ感覚で捉えていたに過ぎませんでした。



――2015年ごろからペペはオルトライトのアイコンとして祭り上げられ、2016年米大統領選挙の際にはアメリカ版「2ちゃんねる」の「4chan」で、ヘイターの象徴として大拡散していきます。なぜ、ペペはオルトライトたちに選ばれたと思いますか?



ジョルジオ:『ボーイズ・クラブ』を好きなオタクっぽい人が、ペペをネット上で転用していたと思うのですが、『ボーイズ・クラブ』自身がいわゆるアメリカの超消費文化を批判している部分があって、そういう部分に親近感を持っている人が、ペペを利用していったと思います。



ペペはちょっと社会から外れた、いわゆる負け犬っぽいカエルという設定なので、自分を投影した人たちによって拡散されていったのだと思います。この作品を作る前はペペは彼らに偶然選ばれたと思っていましたが、映画を作っていくうちに、ちゃんと理由があったのだと感じるようになりました。



アーサー:ペペはセサミストリートなどに登場するマペッツ(人形)に何となく似ているので、マペッツに親しんでいる世代に響いたのではないでしょうか。1980年代のおもちゃを彷彿させるキャラクターなので親近感がわきます。あとは、見た目が少しキモイ感じですよね。内面に葛藤や不安を抱いている人たちが、ペペのちょっとキモいところを自分に通ずるものがあると感じたのだと思っています。





●ペペと「モナー」には、多くの共通点がある

――愛すべきカエルがヘイターに変貌していく中、マットはペペの葬式を開いて、彼を葬ろうとしました。そうすることで悪辣な二次使用が止むと、マットは思っていたのですか?



アーサー:ペペの葬式は、彼のいら立ちの表現だったと思います。マットは、20代のときにペペを創作しましたが、別の作品をいくつも手掛けていたので、彼にとって、ペペは何年も前に死んでいるのも同然でした。あのシーンに対する人々の反応がとても面白くて、誰もがキャラクターは永遠に生き続けるものだと認識しているのだなと思いました。



ジョルジオ:葬式を開いたのは、マットの助けを求める声だったと思います。左側からは戦うべきだと言われ、右側からはペペを僕たちから奪うなと批判されていました。あらゆる方向から攻められていたマットは、尽くす手段がなかった。そこでペペを殺すことによって、助けを求めたというのが彼の気持ちだったと思います。



――日本では「2ちゃんねる」が立ち上がった時期、アスキーアートの「モナー」という猫のキャラクターが生まれました。モナーは投稿者が改変できるために、惨殺や性暴力表現に利用されることもありました。だから、ペペの変容を見ていて、モナーを思い出しました。



アーサー:モナーについては、それほど詳しくありませんが、なんとなく知っていました。両者に共通点はすごくあると思っています。そもそも『4chan』は、2ちゃんねるから派生して、アメリカのティーンエイジャー(10代)が日本の情報を得るために作ったものです。



それぞれのユーザーがいずれの国でもニートと呼ばれる人や、日本ではネトウヨ、アメリカではオルトライトが多いという意味でも、とても似ていると思います。だから日本の方がこの映画をどのように感じて、どのような意見を持つかということにとても興味があります。



●アメリカの現状を知ってほしい



――葬式を開いて取り返すどころか、ますますペペが暴走していく中で、マットは正面から戦うことを決意します。それは彼にとっては、勇気のいることだったのでしょうか?



アーサー:マットは争いごとを嫌う人間なので、法に訴えることはとても勇気が必要でした。また、アメリカでは、大きな会社と契約していないアーティストが、著作権を守るために弁護士を雇うのは難しいのが現状です。しかし、あまりにもペペのイメージが悪化してしまったので、弁護士たちが無料で立ち上がってくれました。それは誰も予期していなかった展開でした。



――マット自身は、トランプ支持者をどう見ていたのでしょうか?



ジョルジオ:マットは政治には関心がなく、いわゆる平和主義的なヒッピーだったので、トランプ支持者とはこれまで、まったく関わりがない人生でした。



――では、2人はトランプ政権が誕生してからのアメリカに対して、どのような思いを抱いていましたか?



アーサー:アメリカは分裂しつつあり、それに加担してきたのが、SNSだと思っています。ネット上で対立が生まれれば生まれるほど、ソーシャルメディアを運営している企業にとってはビジネスにつながっていく。SNSはあえて、人々の感情に訴える作戦をとっていると思うんですね。だから、アメリカでも、SNSについては、何かしらの規制が必要で、フェイクニュースや誤った情報をいかにコントロールしていくかが大切になっていると思います。



ジョルジオ:この4、5年間、物事が変わらなさすぎる、人々が変える方法を知らないのではないかという懸念を持っていました。この映画を見た人がマットに共感して、今まで政治に対して傍観していたけれど、参加することがいかに大事か、自らの力で社会を動かすことがいかに大切なのかということを感じ取っていただければと思います。



――香港では一転して、ペペは民主化運動のシンボルになりました。



ジョルジオ:あれは僕たちにとってすごい驚きでした。映画を作り始めた段階では、「トランプは永遠に大統領ではないし、物事は常に変わっていく」というエンディングにしようと思っていたのですが、サンダンス映画祭に出品する2週間前の朝、起きたら香港での出来事がニュースで流れていて、そこにペペがいました。だから、映画でも、香港のシーンを付け足しています。予期していなかった偶然の出来事ですが、マットが願っていたことが香港で起きたのです。



――ペペを知らない人も知っている人も、日本の観客にはどこをぜひ見てほしいと思っていますか?



アーサー:まずはアメリカの現状を知ってほしいし、本来あるべき姿のペペを好きになってほしい。そしてアニメーションの面白さを褒めてほしいし、インターネットは現実ではないということを改めて知ってほしいです。オルトライトとネトウヨ、4chanと2ちゃんねるには、どんな関連性があるのかということを考えながら見てください。あとは、いつかマットの個展を日本で開いて、彼を招待してほしいですね。



ジョルジオ:アメリカ人は普段忘れがちですが、アメリカの政治や社会が他国に与える影響はとても大きいものです。ペペを通して、今回改めてそれを感じました。ペペに起きたことはとてもレアなケースですが、ペペだけではなくて、広い視点でペペの周りで起きたことに目を向けて自分で考えていくために作品を見ていただけたらと思います。



●フィールズ・グッド・マン

2021年3月12日(金)よりユーロスペース、新宿シネマカリテにて、ほか全国順次公開
https://feelsgoodmanfilm.jp/