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なめた指で図書館の本めくる高齢者「ペロリスト」がヤバい…コロナ禍で高まる不快感

2021年03月12日 10:31  弁護士ドットコム

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3月2日放送のNHK「おはよう日本」(関東甲信越)で、図書館が電子書籍を貸し出すサービス「電子図書館」を紹介するコーナーがありました。この中で、そのサービスが、本のページをめくろうとして指をなめる「ペロリスト」対策になることを示唆するような場面が目を引きました。


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番組によると、電子図書館はコロナ禍で増えています。東京都千代田区のとある図書館では、一回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月の貸し出し実績が、前年の6倍にあたる約2500冊だったといいます。



この図書館で電子書籍を貸し出すサービスに関する講習会に参加した人の感想も紹介されました。その中の一人が、「(紙の本は)いろんな方が触ったり、めくるたびに指をなめたりとか思うと、あまり自分では気持ちはよくない」と話していました。



●本のページをめくるために指をなめる「ペロリスト」

誰かが指をなめて、紙などをめくろうとしているところを見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。



指を「ペロッ」となめる主な理由は、指先を湿らせるためです。指先が乾燥していると、紙をめくったり、ビニール袋を開けたりするのに苦労します。一般的に、年齢を重ねると乾燥しやすくなると言われており、その苦労を体感したことのある人も少なくないはずです。



コロナ禍の今は見かけないかもしれませんが、スーパーマーケットなどでは、購入した物を詰める作業台(サッカー台)に濡れたタオルなどを設置して、利用客が指先を湿らせることができるようにしているところもあります。



会社で書類を多く取り扱う部署では、「指サック」を使う人もいるでしょうが、読書の際に指サックを使う人はあまり見かけません。



それでも紙をめくれないとイライラしてしまうもの。つい手近なところにある水分で済まそうと「ペロッ」としてしまうのかもしれません。



しかし、不特定多数の人が利用する図書館の本に「ペロッ」とされては、目撃した人は不快に感じるでしょう。コロナ禍で衛生意識が高まっている中、「絶対に許せない」という人もいるかもしれません。



図書館で借りた本のページを自分でなめた指でめくる行為(ペロリスト)は、法的に問題ないのでしょうか。また、止める方法などはあるのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞いた。



●汚れがひどければ、弁償させられる可能性も

——「ペロリスト」に対しては何か犯罪が成立するのでしょうか。



なめた指でページをめくる行為が何らかの犯罪に該当する可能性があるとすれば、器物損壊罪(刑法261条)になります。



判例によれば、「損壊」には、物質的に物を壊す場合のほか、「事実上または感情上そのものを本来の目的に供することができない状態にさせる場合」が含まれるとされています。過去の裁判例では、この考え方に基づいて、鍋や徳利(とっくり)に放尿する行為について、器物損壊罪の成立が認められました。



ただし、この事例との比較においても、指をなめてページをめくる程度では「損壊」には当たらないと思われます。



——犯罪は成立しないとしても、本を汚す行為だと思うのですが、弁償させられることなどはあり得るのでしょうか。



たとえば、手に着色するような物を食べた後すぐに、何度も指をなめてページをめくるような場合など、指をなめてページをめくることによって、本の汚損がひどくなり、とても貸し出しができない状態にしてしまったときには、民事上の責任が発生して、弁償させられる可能性は否定できません。



本の貸し出しは、図書館との契約に基づくものであり、借りる側は、本を汚損しないという義務を負うことになります。その義務に反して、本を汚損したことになるので、弁償させられるのです。



ただ、図書館側が汚損に気づいたタイミングによっては、汚損した人物を特定することが困難です。結局、弁償させることができないという事態も少なくないと思います。



また、貸し出しできないほどの汚損にまでは至らないのであれば、基本的に「ページをめくるときに指をなめない」というのはマナーの問題であり、法的な責任追及ができるものではないでしょう。



●本を貸す側も借りる側も安心できる体制づくりを

——図書館側が「なめた指でページをめくる行為」をやめさせる方法はあるのでしょうか。



図書館側としては、たとえば「指をなめてページをめくる行為を現認した場合には、以後その人に対しては本の貸し出しをおこなわない」などのルールを作り、これを周知徹底することで、ある程度防止することが可能なのではないかと思います。



——利用時のルールを設けて対応するということですね。



先ほども述べたとおり、本来であれば、「ページをめくるときに指をなめない」というのはマナーの問題で、本を借りる人の良心にゆだねられるべきことのように思えます。



ですが、衛生に対する意識が高まっている昨今においては、単にマナーの問題で処理するにも限界があるのかもしれません。また、図書館が、先に述べたようなルールを作ることによって、利用者が安心して本を借りることができるということもあるかもしれません。



現実的には、絶対的な効果が得られるような対応をすることはなかなか難しいところですが、本を貸す側も借りる側も安心できるような体制づくりが必要ではないかと思います。




【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。東京弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)を経て、2014年10月開業。2018年11月から弁護士法人北千住パブリック法律事務所(東京都足立区千住)。刑事事件、離婚事件、不当請求事件などを得意としています。
事務所名:北千住パブリック法律事務所
事務所URL:http://www.kp-law.jp/