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夫に押し倒されて「殺すぞ」と怒鳴られた…「1度の暴力」でも恐怖は消えず、離婚を決意

2021年03月11日 10:21  弁護士ドットコム

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「たった1度」の暴力であったとしても、人のこころに大きな傷を残すことはあります。そして、このことが原因で離婚を考えたという人たちもいます。


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弁護士ドットコムにも、夫に暴力を振るわれたことがキッカケで離婚を検討しているという女性から、相談が寄せられています。



相談者は夫と喧嘩の末に「出ていけ!」と怒鳴られたため、生後2カ月の子どもを連れて出ていこうとしました。すると、夫に押し倒され、「殺すぞ」と言われたそうです。これまで夫は怒鳴ったり、物に八つ当たりしたことはあったものの、手を出してきたことはそのときが初めてだったといいます。



その事件以来、相談者は夫に恐怖心を抱くようになりました。愛情も冷めてしまい、離婚を真剣に検討しています。



夫は離婚を拒否しているとのことですが、裁判所は「1度の暴力」でも、離婚を認めるのでしょうか。増田勝洋弁護士の解説をお届けします。



●「一回だけの暴力」でも離婚が認められた裁判例も

ーー相談者のように、暴力を受けたことが「1度だけ」だったとしても、裁判所は離婚を認めることはあるのでしょうか。



一般論として、殴る蹴るといった身体的な暴力が、民法上の離婚原因の一つ「婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたることは、明白です。



日常的に暴力が繰り返されているようなケースであれば、離婚が認められるのは当然ですが、一回だけの暴力でも、離婚を認めた裁判例があります。



夫が心身耗弱の状態で、妻を殴打し、傷害を与えたことが一回だけあったという事案で、相手に将来の暴行を予想させ恐怖心を抱かせて、同居を困難にさせた場合には、離婚原因にあたると判断されたのです(福井地判1956年8月27日)。





今回のケースは、夫婦喧嘩の最中に夫が妻を押し倒したということですので、紹介した裁判例とは、殴打も、相手にけがを負わせたなどの傷害結果もない点で状況が異なるといえます。



しかし、近年はDVが社会問題となり、被害者の保護が重視されています。離婚原因にあたるかどうか判断するにあたっても、客観的にみてケガがあるかといった傷害結果の有無だけではなく、暴力をふるわれた側の立場に立って考えるべきでしょう。 



裁判所が、離婚を認めるべきか判断する際は、暴力によって被害者の精神がどれだけ傷ついたか、どれだけ恐怖心を抱いたかという観点が重要視されます。



たとえ一回でも、また、たとえカッとなるような事情があったとしても、妻を押し倒して「殺すぞ」と脅すような行為は、相手方に恐怖心を抱かせる行為として、離婚原因に十分あたりうると考えられるでしょう。



●「家庭内の出来事」は、外部の人間には想像がつきにくい

ーー裁判で離婚を認めてもらうためには、どのような準備が必要でしょうか。



夫から暴力をふるわれたことの証拠が必要です。たとえば、当時の日記や、具体的な被害の内容を書いた家族や友人へのメールなどが証拠になりうるでしょう。 



警察に相談した場合は、その時の相談記録も用意しておくといいかもしれません。相談者はケガをしてはいないようですが、もし配偶者の暴力によってケガをした場合は、診断書や、傷の写真を用意しておくと有力な証拠になります。



家庭の中で起こった出来事は、どうしても外部の人間には想像がつきにくいものです。裁判の際は、できる限りの証拠を集めて、裁判官に、暴力をふるわれた事実を立証する必要があります。



それにしても、ついカッとなったとはいえ、配偶者に暴力をふるうことは、離婚原因にもなりうる重大事です。一時の感情に流されて、大切な家族を失うことのないよう気をつけたいものです。



(弁護士ドットコムライフ)




【取材協力弁護士】
増田 勝洋(ますだ・かつひろ)弁護士
大阪弁護士会、司法委員会。著書:『事例にみる遺言の効力』(共著、執筆担当)
事務所名:増田法律事務所
事務所URL:http://www.masuda-law.net/