2021年03月10日 10:11 弁護士ドットコム
モデルをやりませんか? 声優・俳優になりませんか? このような芸能事務所の募集をみてオーディションを受けたものの、結果的に大金をとられて、夢が叶わぬまま立ち去る人たちが後をたたない。
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ある女性(東京都在住・30代)は「芸能事務所のオーディションを受けたら、三次審査で落ちちゃって。事務所の社長に『あなたはもう少し頑張ればイケる』って言われて、事務所には準所属になったのと、直属の養成所で一番上の『選抜クラス』に入れてもらえたんだけど…」と語る。
結果的に、年間80万円近くのレッスン料のほか、ことあるごとにお金を取られることに不信感を抱き、女性は事務所を去ったそうだ。
タレントやモデル契約のトラブルは近年、相次いでおり、国民生活センターもサイトで注意を促している。悪質な事例では、アダルトビデオ出演を強く勧められるなどのトラブルもあるという。
冒頭の女性の場合、やりがいだけを搾取されるという意味で「詐欺ではないか」と不信感を抱いているようだ。
エンターテインメント分野の法務に詳しい森伸恵弁護士は「オーディションの合格者に、研究生として養成所に入るよう促し、お金をとること自体は、実際にレッスンをおこなっていれば詐欺には当たらない」と指摘する。
ただ、次のような対応方法は可能だ。
「契約直後におかしいと気づいた場合、たとえば、レッスン費用を支払わせることが目的であることを知らされずに事務所などに呼ばれて契約した場合は、契約後8日以内であればクーリングオフができます。
また、未成年者の場合で親御さんの承諾なく契約書にサインをしてしまったケースでは、『未成年者契約の取消』をすることができます。
もちろん、クーリング・オフ期間経過後でも、中途解約は可能です。
なお、中途解約の場合、契約書に、残りのレッスン費用を返還してくれるかという点や、解約料・違約金などの条件が書いてないか確認してみましょう。高額な解約料や違約金が条件として書いてある場合は、無効を主張できることがあります」(森弁護士)
弁護士ドットコムにも、事務所のオーディションをきっかけに多額のレッスン料を要求されたなどのトラブルについての相談が複数、寄せられている。
ある相談者によると、事務所には「17万円払えば大きなファッションショーに出場させてあげる。出したお金は、配信ライブで稼いで元を取ればいい。みんな元はすぐ取っている」などと、しつこく迫られている。当初は嬉しさのあまり支払うつもりでいたが、徐々に不信感を抱くようになり、断り方を悩んでいるそうだ。
このような場合、「手紙、メールやラインなどで契約を止めることを伝えるという方法もあります。これだと直接や電話で脅される可能性は減ります。もし電話で話をしないといけない時は録音しておきましょう」と、森弁護士はアドバイスする。
森弁護士によると、高額なレッスン費用等を支払わせる悪徳業者には、とにかく契約を急がせる、契約書が杜撰もしくはレッスン生を過度に縛り付ける条項になっている、ホームページを見てもテレビに出ているような有名なタレントがいない、レッスンのレベルが低い、担当者が威圧的などの特徴があるという。
芸能事務所に合格すると、夢に一歩近づくことができた喜びから、冷静な判断ができなくなってしまうこともあるだろう。あらかじめ期限を決めて通う、出せる金額の上限を決めるなど、夢を追うことで逆に将来の選択肢の芽をつぶしてしまわないようシミュレーションも必要なのだろう。
【取材協力弁護士】
森 伸恵(もり・のぶえ)弁護士
東京弁護士会所属。主にLGBT法務(婚姻契約書・パートナーシップ契約書作成、同性カップルの浮気・関係解消、友情婚、アウティング対応、フレンドリー企業サポート)、エンターテインメント法務(タレント、芸能プロダクション、知的財産)等を扱う
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/