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東日本大震災から未来の災害を考える 日本科学未来館「震災と未来」展

2021年03月09日 10:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

東日本大震災から未来の災害を考える 日本科学未来館「震災と未来」展

 東日本大震災から10年を迎える2021年。東京の日本科学未来館で特別企画「震災と未来」展 -東日本大震災10年- が、3月6日~3月28日の日程で開催されます(入場無料・オンラインでの事前予約制)。開幕を前に、メディアを対象とした内覧会が行われました。


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 この特別企画は、日本科学未来館とNHKが共同で主催するもの。発生から10年を迎える東日本大震災で何が起きたのかを振り返り、復興への取り組みと課題、そこから得られた教訓を未来の防災に役立てるため、どうすればいいかを考えるものとなっています。


 展示は大きく3つのゾーンに分かれています。まずZONE1では、東日本大震災で何が起きたのかを詳しく振り返ります。


 このゾーンでは、巨大な津波発生について触れざるを得ないため、当時のトラウマを抱えている来場者に向けて、展示を見ずに済む迂回ルートも設けられています。あの日、東日本の太平洋岸各地を襲った津波の映像(NHK WORLDのアーカイブス映像)がスクリーンに投影され、当時を追体験する形に。


 当時、太平洋岸を襲った津波は「黒い」色をしていたことが思い起こされます。これは、海底に溜まった細かなヘドロが津波によりかき混ぜられたもの。単なる水害より土石流の方が大きな被害をもたらすことは知られていますが、東日本大震災の「黒い津波」もヘドロにより10%ほど海水が重くなり、破壊力はほぼ2倍にまで高まっていたのです。


 宮城県気仙沼市で、当時押し寄せてきた「黒い津波」を保管していた方がいました。会場に展示されたその「黒い津波」標本は、およそ3分の2が沈澱したヘドロで占められています。ヘドロは粒子が細かいため、完全に海水に混ざって質量を増したのでした。


 また地震発生から72時間、NHKは何をどのように報じていたかを示す展示では、時間軸に沿ってニュース映像が並んでいく映像を投影。当時取材に当たっていた記者の取材メモも展示されています。


 広範囲で壊滅的な被害をもたらした津波。これにより「ふるさと」の光景は変わり果ててしまいました。復興支援として、失われた思い出の街並みを模型で再現するプロジェクトが建築を学ぶ学生たちの手で進められています。


 会場には、宮城県南三陸町・志津川の模型が展示されています。模型に付けられた大量の「記憶の旗」には、ここに誰が住んでいたか、ここにはどんな思い出があるかなど、住民の方から寄せられた情報が書き込まれています。


 模型の横にある壁には、被災前(2001年5月)と被災後(2011年6月)の南三陸町が空撮写真パネルで展示されており、模型とともに見ることで、津波が何を奪っていったかが想像できるようになっています。


 津波は、福島第一原子力発電所の電源を奪い、炉心溶融をともなう事故を誘発しました。原発事故の展示では、NHKの番組で使用された福島第一原子力発電所の原子炉構造模型も展示されています。


 今回、原発事故関連で初めて公開されたのが、飛散した放射性物質が海洋に飛散した分布の事故直後の様子を詳細に示したマップ。原発事故ではヨウ素131やセシウム134,137をはじめとする放射性物質を含んだ「放射性プルーム」が飛散しましたが、地上に降り注いだのは全体の2割ほどにすぎず、多くは海へと流されたといいます。


 事故後、様々な場所の様々な深さの海水が採取され、そこに含まれるセシウム134の放射能濃度の測定により、放射性物質による汚染が広範囲に拡散する様子が調べられてきました。


 その結果、海水の循環について、新たに明らかになった面もあったと言います。原発から飛散した放射性物質がマーカーとなり、表層から深海までの海水の動きについて、これまで知られていなかった流れが発見されるという思わぬ副産物もあったそうです。


 避難所生活についての展示では、当時の避難所を再現すると同時に、被災者から聞き取った証言も。体の不自由な方など、いわゆる「災害弱者」とされる人々の声から、避難所運営の留意点などが浮かび上がります。


 ZONE2では復興への歩みを紹介します。「復興タイムトンネル」と題された一連の展示では、10年にわたる復興の歩みを社会の出来事を交えながら、ニュース映像とともに振り返ります。


 2011年に開催されたFIFA女子ワールドカップ ドイツ大会の優勝トロフィーのほか、天井には日本代表がフィールドで掲げたバナーの現物も展示されています。


 復興支援のため、世界中でチャリティオークションが行われました。バイデン大統領就任式で国歌を歌ったアメリカの人気アーティスト、レディ・ガガさんが出品したティーカップが展示されています。これは亡くなられた落札者のご遺族により「震災の記憶を風化させないように活用して欲しい」と、宮城県に寄贈されました。


 オープン戦で遠征中に震災が起こり、本拠地の仙台に一時戻れなくなったプロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスは、復興を願って「がんばろう東北」の言葉をユニフォームの袖につけて戦い続けました。2013年に悲願の日本一を達成した時のウイニングボールや、星野仙一監督、田中将大投手が着用したユニフォームも展示されています。


 また、自身も仙台で被災したフィギュアスケートの羽生結弦選手が、復興支援ソング「花は咲く~羽生結弦ver.~」で着用した衣装と、2018年の「平昌オリンピック」で金メダルを獲得したフリーの演技「SEIMEI」で着用した衣装が並びます。


 東日本大震災の教訓をいかし、これからの災害にどう備えるかを考えるZONE3では、様々な防災アイデアとともに、災害発生時にどうすればいいか、というシミュレーションが提示されます。新型コロナウイルス禍という状況の中で、避難所はどうするべきかを考える上で重要な、飛沫感染を防止する「パーソナルスペース」を作る取り組みも紹介されています。


 日本科学未来館の特別企画「震災と未来」展 -東日本大震災10年-は、3月6日~3月28日(休館日・3月9日、3月16日)の日程で開催。入場は無料ですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、公式サイトにて日時を指定した予約が必要です。


※写真は取材用として特別に撮影したものです


(取材・撮影:咲村珠樹)