2021年03月08日 10:11 弁護士ドットコム
「車ぶつけておいて、逃げるなんて許せない」。ネット上には、接触事故などを起こし、逃げた加害者に対する怒りの声が上がっている。車につけられた傷よりも、まず逃げるという行為が許せないと考える人たちも少なくない。
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弁護士ドットコムにも、「相手に逃げた罰を与えることはできますか」という質問が寄せられている。
相談者は子どもを乗せて運転中、スピード違反の車に衝突された。相手の車は逃走したが、追いつくことができ、そのまま警察に電話したそうだ。ケガ人はいなかった。
許せなかったのは、その後の相手側の対応だ。謝罪をすることもなく、なぜ逃げたのかと聞いても、終始無言を貫いていたという。「車の修理は保険でどうにでもなりますが、逃げたことが許せません」と相談者は怒りをおさえられない様子だ。
車をぶつけたにも関わらず、逃げた場合、罪に問われることはないのだろうか。平岡将人弁護士に聞いた。
ーー交通事故を起こした後に逃げる行為は、法的に問題ないのでしょうか。
「人間にミスはつきものですから、車両を運転していれば、事故を起こすこともあるでしょう。しかし、事故後に逃げるというのは許し難い行為です。
道路交通法には、車両運転者の義務が定められていますが、その中に交通事故を起こした際の義務も規定されています(72条1項)。
交通事故(人の死傷のみならず物の損壊も含む)があったときは『車両等の運転者その他の乗務員』は『直ちに車両等の運転を停止して』『負傷者を救護し』『道路における危険を防止』する措置を取る義務があります(同条前段)。また警察に対しての事故発生報告義務もあります(同条後段)。
事故後の逃走は、これらの義務に違反することとなり、救護措置義務違反は5年以下の懲役または50万円以下の罰金、報告義務違反は3月以下の懲役または5万円以下の罰金が刑罰として定められています。
また、交通事故によって人にケガを負わせたときには、運転者が被害者を保護する責任を負うとした裁判例も存在します。常に保護責任を負うことになるのかは、法律解釈上の争いがありますが、保護責任を負う者が、被害者を見捨てて逃げた場合、保護責任者遺棄罪(5年以下の懲役、致死の場合は20年以下)も成立することになります」
ーー今回のケースでは、相談者や同乗していた子どもにケガはなかったそうです。警察には「物損事故」といわれたようですが、「人身事故」ではなく「物損事故」の場合、刑事責任は問われないのでしょうか。
「まず、報告義務については、人がケガをしたかに関係なく発生しますから、道交法違反の罪が成立します。
さらに、救護措置義務は、人がケガをした場合のみとも考えられそうですが、条文上は『交通事故があったとき』に義務が発生します。そして、『交通事故』とは『車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊』をいいます(道交法67条2項)から、物損事故でも事故後の措置義務は発生します。
そして、この義務の内容は『直ちに車両等の運転を停止し』『負傷者を救護』するほか『道路における危険を防止』しなくてはなりません。
この救護措置義務は、思いのほか厳しい義務が課されていまして、ただ口頭で『大丈夫ですか?』と聞いただけでは『大丈夫』と回答を得たとしても、義務を果たしたとはいえないと解されています。
より積極的に、被害者の身体生命の安全を保全し、道路の安全を保全する行動をとることが必要になります。ケガをした負傷者を、自分で病院に運び、自分の費用で十分な治療を受けさせるくらいでないと、救護措置義務を果たしたとはいえないのです。
また、道路上の落下物や流出物については、まずはその有無をきちんと確認し、もし安全を阻害するような状況ならば、その状況を自ら排除し、排除できないのであれば後続車への合図等の安全確保措置を十分におこなうべきです。
今回のケースでいえば、交通事故を起こしながらも、車両を直ちに停車することなく、救護措置や道路の安全を保全する措置をとることなく逃走していますし、警察への報告も怠っていますから、道路交通法72条1項前段及び後段の罪が成立します。
交通事故を起こして、逃走するなど、許してはならない行為ですから、厳しく処罰してほしいですね」
【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。
事務所名:弁護士法人サリュ銀座事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/