2021年03月07日 10:02 弁護士ドットコム
愛知県内の民家が全焼して夫婦が亡くなったのは、スマートフォン「iPhoneXR」が充電中に発火したのが原因だとして、遺族が2月25日、米アップルの日本法人「アップルジャパン」を相手取り、約1億4400万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。
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朝日新聞(2月25日)によると、火元と見られる1階リビングのこたつテーブルの下に、純正の充電器につながれたiPhoneXRがあった。消防は出火原因について「特定に至らず不明」としながら「携帯電話機からの出火の可能性が考えられる」と調査報告書で指摘しているという。
iPhoneXRが出火原因と断定はされていないようだが、原告側は会社側に「製造物責任法(PL法)に基づく賠償責任がある」と主張している。はたして、どんな場合に製造業者の製造物責任が認められるのだろうか。上田孝治弁護士に聞いた。
——そもそも製造物責任法(PL法)とはなんでしょうか。
携帯電話のような製造物に欠陥があり、それによって損害が発生した場合、その製造物の製造業者などが損害賠償責任を負うことを定めています。
PL法によれば、(1)製造物であること、(2)欠陥(通常有すべき安全性を欠いていること)があったこと、(3)損害が生じたこと、(4)欠陥と損害との因果関係という4つの要件を満たせば、損害賠償責任が認められることになっています。
民法の不法行為の規定では、製造業者などの「過失」についても被害者が証明しなければならないのに対して、PL法では、「過失」を要件とせずに、被害者は、製造物に「欠陥」があることを証明すればよいとされ、被害者の立証責任が軽くなっているところがポイントです。
——被害者が、製造物に「欠陥」があることを証明しなければいけないのですね。
たとえば、欠陥の生じた箇所・原因を細かく特定し、欠陥の科学的なメカニズムまで被害者が証明しなければならないのであれば、証明のハードルは非常に高くなります。
そこで、裁判例では、「通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで、欠陥の主張・立証としては足りる」とされています(仙台高裁平成22年4月22日判決)。
したがって、被害者とすれば、問題となっている製造物を通常予定されている方法で使用している間に、その製造物が原因となって異常が生じたことさえ証明できれば、「欠陥」が認められることになります。
——今回のiPhoneをめぐる裁判では、何がポイントになりますか。
今回の裁判についても、通常の方法でiPhoneを使用していたことと、出火原因がiPhoneであることが証明できれば、「欠陥」が認められることになります。
もっとも、消防の調査報告書では出火原因について特定にまでは至っていないということですので、iPhone以外の出火の可能性はなかったのか、iPhoneによる発火がどの程度あり得るものかなどの事情によって、総合的にiPhoneが出火原因と評価できるかどうかが裁判のポイントになると思います。
【取材協力弁護士】
上田 孝治(うえだ・こうじ)弁護士
消費者問題、金融商品取引被害、インターネット関連法務、事業主の立場に立った労働紛争の予防・解決、遺言・相続問題、不動産・マンション管理法務に特に力を入れており、全国で、消費者問題、中小企業法務などの講演、セミナー等を多数行っている。
事務所名:神戸さきがけ法律事務所
事務所URL:https://www.kobe-sakigake.net/