2021年03月05日 11:01 弁護士ドットコム
業者として登録せず、性交渉を貸し付けの条件とする「ひととき融資」をおこなったとして、無職の50代男性が3月3日、貸金業法違反(無登録営業)の疑いで神奈川県警に逮捕された。
【関連記事:先輩の母親と「ママ活」したら、地獄が待っていた…もらった「250万円」は返すべき?】
神奈川新聞によると、男性は2020年6月~7月、貸金業者としての資格がないにもかかわらず、20代の女性2人に対して計160万円を貸し付けた。お金を貸す相手はSNSで募集。20~40歳の女性限定で、返済まで定期的な性行為を条件にしていた。
申し込んだ女性に対して、審査と称して顔写真や裸の写真を送らせていたケースもあったという。また、貸し付けの前後に女性と性行為し、「婚約証明書」なる書類に署名もさせていた。
県警の取り調べに、男性は「婚約者に貸しただけ」と容疑を否認しているという。困窮する女性の弱みにつけこむ「ひととき融資」には、どのような法的問題があるのだろうか。髙橋裕樹弁護士に聞いた。
——お金を借りる方法は複数ありますが、なぜ「ひととき融資」を受けてしまうのでしょうか。
テレビやインターネットなどでカードローンのCMを見ない日はないのに、なぜこんな融資を受けるんだろう、と感じられる方もいるかと思います。
しかし、十分な給料がもらえず、生活費のための借り入れを繰り返した結果、借入限度額いっぱいになってしまって追加の借り入れができない方や、支払いが滞ってブラックリストに載ってしまった結果、新たなローンの審査が通らないという方は少なくありません。
そして、金融機関からの借り入れができずに困っている方々の足元を見て、違法な条件での貸し付けをおこなう業者(ヤミ金業者)は未だに暗躍しています。
このいわゆるヤミ金業者が融資をおこなう場合、法定利息を超えた高利で貸付けるのが典型ですが、「ひととき融資」の場合は、性交渉を持つことを条件に付けてきます。違法な高利貸しを兼ねていることもあるでしょう。
性交渉のほかにも、年金や生命保険を担保にすること、携帯電話の契約をして端末を提供すること、銀行口座を開設して提供すること、振り込め詐欺のお金の引き出し(出し子)をさせるなど、単なる債権回収ではなく、弱みを握って犯罪行為を強要するという事態も起きています。
——「ひととき融資」にはどのような法的問題があるのでしょうか。
まず、業務として融資をおこなう資格のない者による貸し付けであるという点です。
他人への融資を「業として」おこなう場合、つまり不特定多数の相手に対する貸し付けを反復継続しておこなう場合には、都道府県などへの業者登録が必要です(貸金業法3条)。無資格で貸金業を営んだ場合は、10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金という重い刑が科されることになります(同法47条)。
一人だけに「ひととき融資」をしている場合は、「業として」融資をおこなっているとは認められない可能性がありますが、同様の手口で複数人に貸し付けをして、性交渉を強いていたような場合は、この無資格貸金業者として処罰されます。
——今回のケースでは女性2人にお金を貸し付けたことで逮捕されたようです。
「業として」おこなったと直ちには断じられませんが、貸し付けの状況等から、捜査機関としては無資格貸金業者だと判断したのだと思います。
また、貸し付けの利息が利息制限法で許されている利息の上限を超えているような場合には、出資法違反として、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金などの刑罰が科せられることになります。
——性交渉を貸し付けの条件とすることに問題はないのでしょうか。
性交渉を持つことを強要させるという性被害と、それに付随する性被害等にも問題があります。
「ひととき融資」の場合、いずれかの性犯罪に直ちに該当するわけではありません。借主の女性が18歳未満でなければ、青少年健全育成条例違反(淫行)にはあたりません。
また、貸主とのみの性交渉であれば、不特定の相手方と対価を得て性交する「売春」ともいいがたく、売春防止法にも該当しません。さらに、貸主による脅迫がなされたと認められるような言動が裏付けられなければ、強制性交等罪にもあたりません。
しかし、性交渉そのものの問題だけではなく、たとえば「ホテル代まで支払わされる」「避妊具をつけることを拒否される」「性交渉時の動画や写真を撮影される」「動画や写真をネタにさらに性交渉や金銭を要求される」といった二次的な被害も受けるケースが多いです。
これらの行為にもそれぞれ犯罪が成立する可能性はありますが、借主の女性は、お金を借りているという後ろめたさ、動画などを拡散される恐怖心などから、警察などに相談できないケースも多く、被害として表に出ているのは氷山の一角ではないかと思います。
——本当にお金に困った場合にはどうすればよいのでしょうか。
銀行やサラ金業者からお金を借りられなくなった方々は、藁にもすがる気持ちで、知り合いやインターネットで融資をしてくれる人を探します。しかし、そのような方の立場の弱さに付け込んで貸し付けをおこなうのがヤミ金業者であり、「ひととき融資」です。
ヤミ金業者などだけではなく、皆さんの身近にも、お金の貸し付けに応じる条件として、さまざまな違法な要求をしてくる人はいる可能性があります。
銀行やサラ金業者からもお金が借り入れられなくなったら、身近な貸し主や、ネットで貸してくれる人を探すのではなく、弁護士に相談に行ってください。仲の良かった友人であっても、お金の貸し借りをすることで人間関係が悪化してしまうケースは本当に多いです。
正規の貸金業者から借り入れができなくなった時点で、返済不能に陥っていて、破産をすべきというケースが圧倒的に多いです。借り換えを繰り返す自転車操業に陥る前に、債務整理や破産申立などをすることで、心に余裕ができますし、無用なストレスを感じる必要もありません。
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
無罪判決多数獲得の戦う弁護士。依頼者の立場に立って、徹底的に親切に、誰よりも親切でスピーディな、最高品質の法的サービスの提供をお約束!でも休日は魚と戦う釣りバカyoutuber弁護士!
(https://youtube.owacon.moe/channel/UClg_UagOk4xl9OXpILDc4Fg)
事務所名:アトム市川船橋法律事務所
事務所URL:http://www.ichifuna-law.com/