2021年03月01日 18:52 弁護士ドットコム
正当な理由なく、NHKとの契約を結ばない世帯に対し、割増金を課すーー。政府が2月26日に閣議決定した放送法改正案に対しては、「いずれネット利用者も契約すべしって世の中が待ってるぞ」など、批判的な声も目立つ。
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背景には、ワンセグ付き携帯やチューナー付きカーナビなど、放送の受信が主目的ではない機器にもNHKとの契約義務があるとした判決が続いたことがあるとみられる。
さらに、2020年からNHK番組のネット同時配信が始まったことから、契約対象の拡大に危機感を覚えたネットユーザーが多いようだ。
実際には民事上の措置で、刑罰や行政罰ではないが、「まるで罰金」との声もある。
割増金をめぐっては、総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」で議論されてきた。
契約拒否に対する罰則がないことが、「公平負担」を妨げる一因という見方がある一方、放送事業者などから懸念も示されていた。
以下、同分科会のとりまとめ案に寄せられたパブリックコメントを紹介する。
日本民間放送連盟は、ワンセグ携帯やカーナビなどを念頭に置いたとみられるコメントを残している。
「テレビ視聴を主目的としない機器のみの所有を理由として割増金を課すことは、一般的な社会通念から乖離し、国民・視聴者の理解を得られない」
また、日本新聞協会メディア開発委員会も「割増金の運用は抑制的であるべきだ」と主張する。
「刑事罰・行政罰と異なる民事上の措置であることは理解するが、国民・視聴者からある種の『罰金』と捉えられかねない危うさがある。導 入するのであれば、NHKの在り方と受信料制度に踏み込んだ抜本的な三位一体改革の道筋を示し、国民・視聴者から理解を得ることが前提である」
実際、パブコメの概要をまとめた資料の中では、「罰金は設けるべきではない」との意見が紹介されており、分科会が刑事罰・行政罰ではないとの説明を加えている。
NHKの受信規約では、現状でも受信契約を結んでいる世帯に対しては、一定の要件を満たしたときに、受信料の2倍に相当する割増金を課せる(規約12条)。これに対し、改正案は契約を結んでいない世帯も対象になる。
ただし、現行規約が適用された事例はゼロだという。そうした意味で、新しい割増金案は、現行規約でいうと支払い延滞者に対する「延滞利息」(同12条の2)のイメージに近いかもしれない。
NHKによると、延滞利息については繰り返し説明をしても、受信料を払ってもらえず、裁判所を介した支払督促や訴訟になったときに請求するという。
訴訟などを含め、NHKが督促を申し立てた件数は約15年間で1万件超。ただし、2020年4月~21年3月までは、コロナ禍を考慮して延滞利息は発生しないそうだ。
いっぽう、今回対象となる未契約者に対する裁判は450件ほど。
放送法64条は、テレビなどの持ち主に対して、契約の義務を定めているものの、支払い義務にまでは言及していない(規約には明記されている)。
それゆえに、NHKには視聴者の納得を丁寧に取ることが求められているとされる。たとえば、2004年に発覚した不正支出問題では、100万件を超える支払い拒否が生まれた。
割増金制度が、どのような仕組みになり、どこまで抑制的に運用されるのか。今後、慎重な審議が求められそうだ。