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電動化時代のスーパーカーとは? ランボルギーニジャパン社長に聞く

2021年03月01日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
○電気ランボはサーキットの夢を見る?

「ダビデ・スフレコラです。これはとても大切な情報だと思うのですが、『イタリアンボーン』(生まれ)です。2020年9月1日付けでランボルギーニの日本マーケット代表に任命されました。ランボルギーニは日本市場でとてもよく受け入れられていて、世界的に見てもファンの基盤や顧客ベースは非常に大きなものです。この市場を担当できるのは本当に嬉しくて、世界で一番いい仕事(Best Job in the World)なのではないかと感じています」

新型コロナウイルスの感染拡大で来日が遅れたため、ようやく実現した今回のインタビュー。新社長のスフレコラ氏は、日本担当という仕事を心から楽しみにしている様子だ。とはいえ、日本では2020年末からクルマの電動化が急速に進展を見せていて、ランボルギーニにとっては逆風なのではないかとも思える。そのあたりの話から始めてみた。

――まず、世界的な話題となっている自動車の電動化と環境問題についてですが、スーパーカーメーカーであるランボルギーニはどう対応しようとしているのでしょうか。

スフレコラ氏:電動化についてはほかの自動車メーカー同様、ランボルギーニもハイブリッド化とEV(電気自動車)化が見通せています。しかし、忘れてはいけないのは、我々はあくまでもランボルギーニというスーパーカーのメーカーです。それは、クルマ自体が持つパフォーマンスと、運転したいというドライバーの感情を意味するものだと考えます。

私もあなたも考えは同じだと思いますが、これからのジャーニー(旅路)を展望すると、まずはハイブリッド化されたクルマ、次にフルEV化されたクルマが出てきます。それらは、「まさにランボルギーニだ!」という仕上がりになっていないといけません。

レンジ(フル充電での航続可能距離)とパフォーマンスを比較して二者択一、という考え方に立つと、まだ、100%EV化するという準備は整っていません。例えば、サーキットで1日中、ランボルギーニのスーパーカーを走らせることを想像してみてください。エモーショナルで、アドレナリンが生き生きと体内を駆け巡る、そういった感覚をずっと保ちたいと思うに違いないのですが、おそらく、2ラップして充電、また2ラップして充電というのでは、逆にストレスが溜まります。

今、私たちのエンジニアや研究開発部門は一生懸命に技術開発を行っています。いずれは完全なハイブリッド、そして、その先には完全なEVがランボルギーニから登場するはずです。

スフレコラ氏:環境問題については、ランボルギーニとして最も気にかけているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。「サステナビリティ」や「エコフレンドリー」を求める声は世界的に高まっていますが、ランボルギーニでは、こうした取り組みを2015年ごろから行っています。1万本の植林をして森を作ったり、バイオ燃料を使用した工場で二酸化炭素を相殺・オフセットしたりといったことを始めているんです。

我々は大手自動車メーカーに比べると、生産台数が少ない小さな会社です。そのため、サステナビリティについても機敏に対応できるし、生産の調整もつけやすい。環境とニーズに合わせて仕事をしています。
○日本市場の今後

――日本では、2035年には新車販売の100%を電動化するとの目標が示されています。対応できますか?

スフレコラ氏:2035年までには完全に規制に準拠できていると自信を持っていえます。ただ、今はまだ「美しいエンジン」を持っていますので、それを楽しむということにも焦点を当てたいと思っています。我々には12気筒や10気筒の自然吸気エンジンがあり、それらは本当にエモーショナルなものなんです。

――スーパーカーは走ってこそ意味がある、と思っているのですが、ポルシェは今、千葉県内に専用サーキットを建設しているそうです。ランボルギーニジャパンにそういった計画はありますか。

スフレコラ氏:サーキットでの走りということであれば、ランボルギーニでは初心者にプロドライバーが手取り足取り走り方を教える「エクスペリエンサ」を実施していて、「ウラカン」「アヴェンタドール」「ウルス」のどれでも参加できます。1日~数日かけてサーキットでの走り方をプロから学ぶ「アカデミア」では、どこでブレーキを踏み、どうコーナーを曲がるか、スタートの仕方はどうかといったことや、それらを分析するテレメトリーシステムを学ぶことができます。さらにスキルアップするには、ランボルギーニのレース部門「スコアドラコルセ」が担当する「スーパートロフェオ」がありますし、プロアマによる純レースの「GT」プログラムもありますから、つまり、答えは「イエス!」です。

ただ、コロナの状況があるので、それを注視しながら政府の規制にも準拠するよう進めたいと思っています。

――SUVのウルスは好調のようですが、2021年の販売や目標について教えてください。

スフレコラ氏:スーパーSUVのウルスは非常に大きな世界のトレンドで、日本でも売り上げの50%がウルスであり、これは2021年も変わらないと思います。ウルスのルーツは1986年にデビューした「LM-002」で、ランボルギーニにはSUVの伝統もあるのです。今年のウルスについては「パールカプセル」と「グラファイトカプセル」という希少なカラーが登場します。グラファイトは6月か7月にローンチするので、期待していてください。

2020年には売り上げが少し減少しましたが、これは本国イタリアのロックダウンと工場閉鎖の影響です。この影響は今年も続きそうです。そのため、今は成長について考える時ではなく、数字を追いかける時でもないと思っています。安定化と同時に、基本に立ち返り、お客様に満足して喜んでもらうことを優先したい。そして、社員の安全も大事にしたい。こういったことを2021年の優先事項としたいと思っています。

――日本ならではのアイデアはありますか。

スフレコラ氏:具体的には、積極的なスペースづくりを進めます。それもプライベートな形で、1対1など小さなグループで、楽しんでいただくということ。このランボルギーニラウンジも、そのためのスペースです。東京のダウンタウンに「ランボルギーニ」と書かれたフラッグが出ていて、「ここはランボルギーニが所有するスペースですよ」ということが高々とうたわれている。今、インタビューしていただいているこのテーブルこそが、お客様のジャーニーの始まりの出発点になり、自分のクルマをパーソナライズする場所になる。この場所を自己表現の手段にしてもらいたいと考えているのです。別の階にもラウンジがあるので、プライベートなバースデーパーティーや発表会、納車式など、いろいろな体験ができるスペースとなっています。

ラウンジは世界に2つしかありません。もう1つはニューヨークにありますが、コロナの影響で暫定的に閉鎖中です。先ほど述べたようなことができるのは、世界でも日本のここだけです。

――最後に、好きなクルマは何でしょうか。

スフレコラ氏:いわずもがなですが、それは絶対に「クンタッチ」(カウンタック)です。その美しいデザインは今日においても変わりなく、無限の可能性を有しているクルマです。将来がどういう風になるのかということも見通せるようなクルマであって、いまだにフューチャリスティックであると思っています。大人も子供も、あのクルマを見ると夢見るような気分になると思います。今年はクンタッチの50周年なので、お祝いをしたいと思っています。

スフレコラ氏:私たちが今、果たすべき役割は、お客様の満足に対して心を砕くことです。画期的、革命的な計画があるわけではないのです。ランボルギーニは順調に推移していて、お客様にエンゲージし、美しい製品を用意するというのが私たちの仕事、使命、ミッションです。それを果たしていれば、「私たちは正しい仕事をしている」といえると思っています。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)