コロナによる業績不振で、経営会議で人材の雇止めやリストラなどの話が出ることが増えてきています。経営層からは「今日出た話は、部下と共有していただいて結構です」「部下にしっかり伝えるように!」と言われることがあります。
しかし、現場を預かる管理職としては、「どこまで本当のことを言ったらいいのか?」「要らぬ不安を抱かせるくらいなら伝えない方がいいのでは……?」と悩むところです。
今回は、"部下に共有していい"と言われた情報を、どのように伝えていけばいいのかお伝えします。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
同じ言葉を言われても「この人、本気で言っているのかな?」と不信に思うことも
言いにくいことやマイナスのことは、その内容よりも"誰が言うか"が大切になってきます。人は信頼している方の言動を真摯に受け止める傾向があるからです。皆さんにも経験があるのではないでしょうか。
私の製薬会社営業マン時代の話ですが、上司Aさんから新製品の年間売り上げ目標を伝えられ、「そんなに売上が立つのかな?」と疑問に思ったことがあります。しかし、Aさんは「この薬を待っている患者さんがいる。みんなで頑張ろう!」。その言葉に、「そうだ、患者さんが待っている。頑張ろう!」と思いました。
しかし、別の時、上司Bさんから新製品の売り上げ目標を伝えられた時、Aさんと同じように「この薬を待っている患者さんがいる。皆で頑張ろう!」と言いました。同じ発言ですが、心の中では、「この人、本気で言っているのかな?自分の実績のために言っているのでは?」と不信が募り、売り上げ達成に前向きになれない自分がいました。
この反応の違いはどこから来るのでしょうか。それは上司と部下との信頼関係の違いです。上司Aさんとは、日頃のコミュニケーションの中から信頼関係ができていましたが、上司Bさんとは信頼関係を感じることが出来ていませんでした。
やはり、同じことを言われても、信頼関係があるかないかで、受けとめ方は大きく変わってきます。なので、大切な情報を伝える際、何を言うかより、誰が言うかが大切になってくるのです。部下との絶対的な信頼関係を作っていくことが前提になります。
間違っても「うちも厳しい状況だな……」などと言い放ってはいけない
部下との絶対的な信頼関係をつくるコミュニケーションを続けながら、経営会議で出た情報は"未来思考"で伝えていきましょう。未来思考とは、中間目標を所々に置いて、未来に目標を定めて向かっていくという思考方法です。
心理学的に、人間は過去の出来事を憂い、見えない未来に不安を持つ生き物です。出口の見えない状況で、経営会議で出た情報を伝えると、部下の心の中は不安で一杯になり、モチベーションの低下に繋がっていきます。
私が支援した中で、営業パーソンの離職が止まらない企業があります。営業パーソンは、毎日のように新規の顧客に電話でアポを取り、Web商談で契約を取っていきます。しかし、経営者の目標は高く、その終わりが見えない状況でした。
優秀な営業パーソンが辞めていくのも、先の見えない状況にどんどん疲弊していっていたからです。この時は経営者と相談し、ところどころにマイルストーンを置くことにより、事態の改善を図ることが出来ました。"出口"を見せる事の大切さを痛感しました。
経営会議で出た話をする際は、出口を目標として示しながら部下に伝えていきましょう。出口があることで、人はそこに向かった工夫を可能性の中で考え始めます。上司としては、部下がどのように感じたのか、目標に向かってどのような行動をしたいのかをしっかり傾聴し、定期的なコミュニケーションを続けていく必要があります。
間違っても「経営会議でこんな話があった。うちも厳しい状況だな……」などと言い放ってはいけません。
コロナによる厳しい状況を部下に伝えなければならないことも増えてくることでしょう。こんな時ほど上司は"内向き志向"や"後ろ向き志向"にならず、"外向き志向"と"前向き思考"である必要があります。「明けない夜はありません」そんな思いの中、部下に現状を伝え、部下の成長を支援していきましょう。
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。