2021年02月28日 09:41 弁護士ドットコム
サイコロ賭博で1200万円も負けてしまった——。古くからあるギャンブルに関する相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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相談者は数カ月にわたり、キャバクラ店内でサイコロ賭博をしていたそうです。これまで3回ほど、数百万円ずつ負け分を支払っていましたが、キャバクラ店長を相手にした今回、なんと1200万円も負けてしまったというのです。
支払いの督促はまだ届いていないものの、「もう支払いたくないし、支払えない」という相談者。どうやって支払いを拒否すればいいのか、警察に相談・出頭すべきかどうか悩んでいるようです。
賭け事だとわかってやった以上、相談者にも一定の責任はあるでしょうが、1200万円を請求されたら、応じなければいけないのでしょうか。高橋麻理弁護士に聞きました。
——サイコロ賭博に負けて背負った1200万円は支払わなければならないのでしょうか。
結論としては、支払う必要はありません。
たしかに「負けたらあらかじめ決めたルールでお金を払う」と合意して、サイコロ賭博をすれば、負けたときには、お金(今回であれば1200万円)を支払う義務がありそうですよね。でも、支払う必要がないのです。
——なぜ負けたのに支払わなくていいのでしょうか。
賭博は刑法上の犯罪です。社会的に許容されるものではありませんから、公序良俗(公の秩序または善良の風俗)に反するものといえます。
民法90条は、公序良俗に反する法律行為は無効と定めていますので、「賭博で負けたらルールに従ってお金を払う」という合意は、法律上「無効」になります。その結果、賭博で負けてもお金を支払う必要がないことになります。
——無効だとすると、過去に相談者が支払ったお金も返してもらえるのでしょうか。
そのような主張は認められません。民法708条が「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」としているからです。
簡単に言うと、「社会的に許されないことを自分でやっておきながら、自分の都合のいいときだけ法の助けをもらおうとしても、そんなのは認められないよ」ということです。
——サイコロ賭博をした相談者の刑事責任はどうなるのでしょうか。
キャバクラ店で現金を賭けて、サイコロ賭博という賭博行為をしている以上、その行為は賭博罪(刑法185条)にあたります。
賭博罪の法定刑は「50万円以下の罰金または科料」と比較的軽い犯罪です。発覚のしにくさもあって、実際に立件されることが多いとはいえませんが、1200万円と賭けていた金額が大きいこと、初めての賭博ではないということなどから、罰金刑が科せられる可能性もあります。
また、これまでにも賭博を何度か繰り返しており、その都度、大きな金額を賭けていたということですから、常習賭博罪(刑法186条1項)にあたると評価される可能性もあります。そうすると、「懲役3年以下」と法定刑が重くなり、実際に摘発される可能性も高くなるでしょう。
——キャバクラ店長についてはどうでしょうか。
サイコロ賭博開催の手数料を取っていたような場合には、賭博場を開張し、利益を図ったといえ、賭博場開張図利(とばくじょうかいちょうとり)罪(刑法186条2項)が成立する可能性があります。
——相談者は警察に相談すべきか悩んでいるようです。
「警察への相談」というのは、「自首」を想定しているのであろうと思います。
たしかに、自首することは選択肢の1つですね。捜査機関に発覚する前に自首すればその刑が減軽される可能性があります(刑法42条)。
また、仮に、すでに捜査機関に発覚していて自首が成立しない状態であったとしても、警察からの連絡がある前に自分から出頭すれば、有利な情状と評価され、身体の拘束をするか否か、どのような処分にするかという点で有利に働く可能性もあるでしょう。
一方で、自首または自分から出頭したとしても、刑事的な処分を必ず免れるというわけではありません。逮捕されたり、罰金など前科がついたりする可能性はあり、そのリスクを十分に理解したうえで自首について検討する必要があります。
——相談者としては、どう動くべきでしょうか。
まずは、キャバクラ店長から請求されたら、法的に支払う必要がないことを伝えて、キャバクラ店長との間のトラブルを解決することを優先しましょう。警察には、警察のほうから連絡があってから真摯に対応するというのも1つの選択肢です。
弁護士を通じて、キャバクラ店長に通知を出し、支払いを拒否するとともに、今後、いかなる請求や連絡をしてこないことを約束させるなどの対応も考えられます。
【取材協力弁護士】
高橋 麻理(たかはし・まり)弁護士
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。殺人事件、詐欺事件、薬物密輸事件などに加え、女性検事として、多くの性犯罪事件の主任検事を務めた。検察官退官後は、弁護士として、刑事事件(刑事弁護、被害者代理人、告訴・告発事件)、離婚等家事事件、一般民事事件を担当。2020年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
事務所名:弁護士法人法律事務所オーセンス
事務所URL:https://www.authense.jp/