2021年02月28日 09:31 弁護士ドットコム
コロナ禍の影響は、アニメやゲームの制作現場にも及んでいる。特にキャラクターに命を吹き込むアフレコ現場は、密になりやすく、飛沫感染のリスクもある。
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そのため、録音スタジオでは少人数での収録と換気が徹底され、これまで30分番組ならおよそ3時間だった収録時間が倍かかるようになったという。
現在放送中のアニメ『天地創造デザイン部』など、数多くの人気作品に携わる音響監督の飯田里樹氏は、収録スタイルが変わったことで、アニメのキャスティングにも変化が出る可能性を指摘する。
「新人声優にとっては厳しい時代になるのではないでしょうか」
音響監督といえば、キャスティングにも影響がある役回り。いったいどういう理由からなのか。話を聞いた。(ライター・梅田勝司)
コロナ禍でもアフレコを進めるため、現場では現在、従来とは異なる録音方法が取られている。
飯田氏によると、キャストが多い場合は1度にアフレコ収録できる3、4人ずつ分けて、タイムテーブルを組み、入れ替え制で収録しているそうだ。
「いろいろな方法があると思いますが、私の場合は主人公を最後の時間帯にして、脇を固めるベテランを先に録り、録った音声を聞かせながら主人公を録るようにスケジュールを組み立てます。台本の事前チェックもタイムテーブルの録り順を考慮してチェックすることになります。
収録時は、なるべく掛け合いのある演者を同じグループにしますが、どうしても一緒に録れない場合がありますので、先に録る演者に、掛け合いを意識したオーダーを出します。
ボケを録る前にツッコミを録らなければならない場合がとても難しいですね。完成形を強くイメージして、それを演者に伝えるように心がけています」(飯田氏)
とのことで、スケジューリングもなかなか大変そうだ。演技のイメージを伝える際は録音ブースに入ることもあるそうだが、もちろんマスクをしたままで大声は出さない。
そして、キャスティングにも影響が出ている。収録時間が押すと次のグループを待たせてしまうため、過去に一緒に仕事をしていて実力がわかっている声優をキャスティングすることで、だいたいの収録時間を予測するとのことだ。収録に時間がかかってしまう新人だとタイムテーブルにはめるのが難しい場合も多いということだろう。
作品のオーディションはアニメの本数が増えすぎたせいもあって、現在はテープオーディションが主流になっているそうだ。
原稿を声優事務所に送って、声優にセリフを録音してもらう。その中からイメージにあったキャストに絞るのだという。
現在は声優の人数も増えており、リアルオーディションは審査する監督を数日拘束することになってしまうため、アニメーション制作の遅れにもつながってしまう。そして、キャストが絞れた時点でリアルオーディションになるようだ。
「以前は主役に新人を据えて周りをベテランで固める作品が多くありました。収録現場でベテランの方たちの演技を学んで主演の演者に成長してもらうという意図でした。
残念ですが、現在は少人数での抜き録りなので、新人がベテランの演技を学ぶ機会は激減しています。こうなると製作陣としても主役に新人を起用するのはリスクが高いと判断せざるを得ない状況です。新人声優にとっては厳しい時代といえるでしょうね」(飯田氏)
アニメには毎年、何作もで主役やメインキャラに抜擢される新人声優が何人か登場する。年末までには多くの現場で所作や技術などの経験を積んで、安定した演技のできる中堅クラスに成長を遂げている場合も珍しくない。
現場での悩みを同年代の声優同士で話したり、先輩に解決法を教わったりということも、時節柄やりにくいのも、新人声優には厳しいだろう。
コロナ禍では一般企業でもリモートワークを取り入れるところが増えた。その中で課題とされてきたもののひとつが、若手社員とのコミュニケーション、彼らをどう育成するかということだった。
コロナ以前からの実績・信頼があれば、仕事の変化は少なく、コミュニケーションの価値が低く感じられるかもしれない。いっぽう新しいプレーヤーにとっては、「会えない」ことは大きなビハインドになりえる。これは業界を問わず、共通する部分があるのかもしれない。
<参考:「鬼滅のスタジオ」でみた“全集中”のコロナ対策 アニメのアフレコでクラスターが起きない理由>
【梅田勝司(うめだ・かつじ)】
フリーのライター・編集者。エンタメ系を中心に書籍・雑誌・WEB記事などをこなす。仲間と立ち上げたセレクトニュースサイト「PressRoom.jp」では連載とSNS拡散を担当。