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大麻規制の見直し、何が争点なのか? 初回検討会、論点を整理する

2021年02月25日 11:01  弁護士ドットコム

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大麻の取締り強化などについて議論する厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が1月から始まった。本日(2月25日)、2回目の検討会(注1)が開催される。


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初回の検討会は1月20日におこなわれ、2月にようやく議事録(注2)が公開された。いったい、何が話し合われたのか。



●なぜ、検討会を開催することになったのか?

検討会を担当するのは、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課だ。検討会委員には医師(精神科医)や研究者(刑事政策・被害者学)、メディア関係者のほか、ダルク(薬物依存症の回復支援施設)の職員などもいる。



初回の検討会では、医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課から議題である「薬物対策の現状と課題」についての説明があり、その後に質疑応答がなされたようだ。



そもそも、なぜ検討会を開催する運びになったのか。



医薬・生活衛生局長は「大麻事犯が増加し、特に若年層における大麻乱用が拡大している」ことを問題視する一方で、諸外国で大麻を使用した医薬品が市場に出ていること、WHO(世界保健機構)や国連麻薬委員会において、大麻の医療用途への活用に向けた議論が進められていることなどを挙げている。



そのうえで、次のように発言している。




「こうした社会状況の変化や国際的な動向を踏まえまして、大麻などの違法な薬物の乱用についてはしっかりと取締りを行いつつ、また、医療への活用が期待されるものについては適切な対応を進めつつ、再乱用防止対策や依存症対策を進める必要があると考えております。そうしたことから、この『大麻等の薬物対策のあり方検討会』を開催することといたしたところでございます」(議事録より抜粋)




医療目的での大麻使用についての可能性を探りつつ、それ以外の不適切な使用については取り締まりを強化する方向性であるようにみえる。



●WHO勧告に反対していた日本、その理由は?

ただ、日本は、医療や研究目的の大麻について、国際条約で定められている「最も危険な薬物分類」から削除するよう求めるWHO勧告に反対の立場を示していた。



国連麻薬委員会はこのWHO勧告を2020年12月に承認しており、投票結果は賛成27カ国、日本を含む反対25カ国、棄権1カ国だった。



監視指導・麻薬対策課長は、反対の理由について、次のように説明している。




「大麻の規制が緩和されたとの誤解を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあるため」ということでして、内容自体というよりは、誤解を招くのではないかという懸念をもって反対投票をさせていただきました。(議事録より抜粋)




監視指導・麻薬対策課が作成した「第1回検討会資料」によれば、反対国からは「『国連麻薬委員会は、大麻は健康に悪影響がないと考えている』との誤解を招くことを大変懸念している」「大麻の不正栽培、密売を増加させることを懸念している」などの意見があったとされる。



一方、賛成国の意見については、議事録や資料では紹介されていない。



●大麻はどれほど「危険」で「有害」なのか?

では、実際に、大麻はどの程度「危険」で「有害」なのだろうか。大麻を使用した場合にどのような健康被害や精神障害などがみられるのだろうか。



監視指導・麻薬対策課長は、大麻の作用について「少なからず精神依存、身体依存、耐性、催幻覚、精神毒性がある」などと説明している。大麻に含まれている成分としては、主にTHCとCBDがあり、THCが幻覚等の精神作用を示す「有害成分」であるとの話もあった。



ところが、大麻の健康被害や精神障害に関するデータは極めて少ないようだ。ある委員(医師)は、次のように話している。




「率直に申し上げて、我が国の精神科医は大麻の健康被害や精神障害に関して十分な知見はない状況です。だから、我々はこういった知見をしっかりと集めて、何ゆえ大麻に関して規制をしなければいけないのかということをしっかりと確認しながら進めていくことが必要なんじゃないかというふうに私は思います」(議事録より抜粋)




この話を受けて、別の委員から「大麻ないしはその一定の成分の危険性、有害性について、医学的な観点からは異論なく認められているのでしょうか」という質問があった。この点について、2人の委員(医師)から、次のような発言があった。




・「昨年、私が71例の大麻関連の精神障害の研究の論文を出したのですけれども、それ以前は国内でこれまで論文が5つしかないんです。全部日本語で、しかも1例とか、最大6例とか、とても少ない。これをもってエビデンスということは、とても言えない状況なんです」



・「とにかく日本国内を見た場合には、純粋に大麻だけの使用者でいわゆる精神医療に乗ってくる方というのはほとんどいないと考えても言い過ぎではないと思います。それだけ、医療サイドではデータがないんです」 (議事録より抜粋)




ほかにも、「ダルクに来る方たちでも依存症と一言で言っても千差万別で、大麻単体で来られる依存症者という方は本当に見たことがないに等しいくらい稀有な方たちです」との発言もみられた。



大麻が「安全」で「無害」とは言い切れないだろう。ただ、大麻がどれほど「危険」で「有害」なのかも不明瞭だ。この点について、委員から次のような意見などもあった。




・「まずこういった大麻とか、もしくはその一定の成分の危険性ということについて、医学的ないしは科学的な見地からまずきちんと明らかにして、そしてその結果を社会に対して適切に示していくことが必要であると思っております 」



・「若者に蔓延している現状を何とかしたいなら、その恐ろしさとか有害性というのを社会で共有する必要があり、データに基づいて説得力があるものでないと広がらないのではないかと思います」 (議事録より抜粋)




●「使用罪」はなぜなかったのか?

ほかにも、現行の大麻取締法に「使用罪」がないことに対する質問もあった。監視指導・麻薬対策課長は「制定当初、栽培農家が吸引してしまう」など、さまざまな理由があったとしたうえで、過去に国会で「使用罪」がないことについての質問があったとしている。




「また次回、きちんと資料にして整理して御提出させていただきたいと思いますが、国会で使用罪がない理由について質問がありまして、担当の政府参考人から、国際条約上、使用罪を置くことが求められていないこと、多くの先進国で使用罪は制定していないこと、受動喫煙や麻農家の農作業における麻酔いなど、刑罰をもって臨むのは不適切な場合があることということで御答弁申し上げたという経緯はございます」(議事録より抜粋)




また、委員からは「使用罪」を設けた場合、「栽培農家の方などの誤認逮捕が起きる可能性がないのかということや、検出の技術はどうなっているのかというようなことも捜査の現場の方から分かれば教えていただきたい」との質問もあった。



事務局は、次のように返答している。




「例えば大麻を使用したことが今は罪になっていませんが、これが仮に罪になったときに、それを使っていない人が同じ罪に問われるということは誤認逮捕のようなことを生みますので、そこがないように、関係省庁とも相談しながら検討していく必要があるかと思います」(議事録より抜粋)




大麻の「使用」罪は必要なのだろうか。取り締まりの強化によって、はたして若者の乱用を減らすことはできるのだろうか。そもそも、大麻はどれほど危険で有害なのか。医療目的の大麻使用はどこまで認められるのか。



具体的な議論がおこなわれるのは、25日に開かれる第2回以降になりそうだ。今後の議論が注目される。



(注1) 厚生労働省のホームページによれば、議題は(1)大麻を取り巻く環境と健康への影響、(2)大麻等の取扱いの変化による社会環境への影響-米国での状況について-、(3)薬物乱用の疫学:大麻を中心に、(4)その他となっている。



(注2) 議事録では、発言者の氏名は伏せられている。その理由は「氏名を公にすることで発言者などに対して外部からの圧力や干渉、危害が及ぶおそれが生じる」ためとされる。