新型コロナウイルスの感染拡大を受け、"夜の街"の動向が注目されたのは記憶に新しい。自粛のあおりを受け、生活に大きな影響を受けているのはキャバ嬢や?俗嬢と呼ばれるナイトワーカーたちだ。
昼職への転職支援サービス「昼ジョブ」には、全国から登録者が殺到しているという。今回は運営会社の昼jobの坪嶋拓真代表に、サービスが生まれた背景などをうかがった。
新型コロナで夜職のリスクを実感する人が増加
サービスの登録者は一か月1000人ペースで増え続けており、都内がほぼ半数を占めている。
「コロナ禍で閉店・休業してしまったお店も少なくないですし、客足が減って出勤日数が制限された結果、どこも稼ぎにくくなっているみたいです。わざわざ夜職で働く意味が見出せない状況に加え、コロナで初めて夜のお仕事の不安定さを認識したことも大きいですね」
ナイトワーカーの多くは個人事業主として働いており、一般企業の会社員とは違って保証がない。さらに、お客さんが減るとすぐ切られる業界でもあり、坪嶋代表も「そのリスクを実感する人が増えていると思います」と話す。
坪嶋氏は飲食店経営、パチンコ店勤務などを経て、30歳手前で不動産会社に就職し、入社1年半で人事責任者に抜擢された。そこで、当時21歳の元キャバ嬢・Aさんを面接・採用したことが『昼ジョブ』誕生に繋がった。
静岡県内のキャバクラ店でナンバーワン嬢だったAさんは、不動産営業職として入社し、1年目で8000万円の粗利を出した。その会社の全営業マンの成績を抜いてしまう快挙を成し遂げたそうだ。
「化け物みたいに仕事ができる子でした。普通の営業マンなら、心折れるところを物ともしない感じです」
だが、坪嶋氏がAさんに出会った当時、驚かされることも多かったという。
「プリクラ感覚の自撮り写メを貼った履歴書を面接に持ってくるし、本人は悪気ないんでしょうが、上司にいきなりタメ口だったし。社長の指示に『了解!』みたいなLINEスタンプで返信した時は、採用担当だった僕もだいぶ絞られました」
それでも圧倒的な成果を出すAさんの様子を見て、夜職経験者の可能性を確信。2018年に起業して「昼ジョブ」を立ち上げた。
求職者との面談は2時間以上 借金やタトゥーの有無も確認
これまで「昼ジョブ」経由で数多くの求職者を一般企業に紹介してきた。入社後の離職率は、一般の人材紹介会社と比べても決して高くない。むしろ低いぐらいだという。坪嶋氏は「僕が伝えたいのは、そこにナイトワーカーという経歴はあまり関係ないということです」と強調する。
「転職活動で不安になって、夜中に泣きながら電話してくる利用者に対応することもありますが、そこで特別扱いしているつもりはないです。夜職に戻るのもひとつの決断ですから」
ただ、本人としては自分の生活や人生を何かしら変えたくて『昼ジョブ』に登録したはずだ。「また昼職に就きたくなっても、その時は今より転職先の選択肢が減るリスクがあることはきちんと伝えています」と付け加える。
一般の人材紹介サービスでは、求職者との面談が一人1時間ほどで終わることが多い。一方で『昼ジョブ』では、面談に最低でもその倍以上の時間をかけているという。
「借金やタトゥーの有無など、本人の現状についていろいろ詰めて聞かないといけないですし、そもそも昼職にどんな仕事があるのかなど、すべて一から教える必要があるんです」
履歴書はアドバイスをしながら一緒に作り、面接の練習にも対応する。希望者にはパソコン研修も無料で行う。オフィスソフトの使い方やメールの作り方などを7?8時間かけて教えている。
また、入社後でも節目のタイミングで定期的に連絡をとるなど、アフターフォローを徹底していることも早期離職の低さの一因になっているようだ。
「都合が合えば、担当者が昼休みに会社近くまで行き、うちの経費でランチしながら話を聞く機会なども設けています」
新型コロナウイルスの流行前は2か月に一度、飲み会も開いていた。転職先で働いている元サービス利用者、内定者や選考中の人々も集まって、酒の席で互いの悩みなどを語り合うという。「実際に転職した方のアドバイスや生の話を聞ける場があると、やはり求職者の方の意識も変わります」と話す。
夜職経験者の強みは「人当たりの良さ、コミュ力」「前職で培った人脈」
一般企業がナイトワーク経験者を採用するメリットを聞くと、坪嶋氏は「コミュニケーション能力の高さ」を一番に挙げた。
「オフィスソフトの使い方やビジネスマナーって研修で教えれば、比較的すぐ身につけられるものですけど、人当たりの良さやコミュ力は実戦で場数を踏まないと身につけられません」
夜の仕事は、初対面のお客さんと会話する機会が多い。研修などでは、なかなか教えられない能力をすでに備えているケースが多いという。
最近、貴金属やブランド品の査定・買取を行う企業に入社したBさんは、入社4か月で全国2位、5か月で1位の営業成績を叩き出した。客の持ち込んだ商品を買い取る業務を担当しており、価格交渉を上手にこなしているそうだ。
事務職やSEなど内勤の仕事に就く人もいるが、営業職全般をはじめ、人事や広報担当者など高いコミュニケーション能力が必要とされる職種で活躍する人が多いという。
「女性社員の採用が上手くいかず悩んでいる会社さんは意外と多く、そうしたポジションにうまくハマる人材を求めている企業さんからの依頼を受けることもあります」
サービス登録者は、女性が95%と圧倒的多数を占める。昨今は、求人サイトなどに社員の男女比などを記載する企業も増えており、次は女性社員を採用したいという企業にとっては、あらかじめ求職者を絞り込むことができるメリットもある。
また、キャバクラをはじめとするナイトワーカーの優秀層は「昼職でも大きな活躍が期待できる」と坪嶋氏は断言する。
「キャバクラで優秀な成績を出す方は顧客管理も徹底してやりますし、1位に対するこだわりが強いので。どうすれば1位になれるか自分で考えて、そのために動ける人はやっぱり強いです」
会社の経営者や役員を太客に持つキャバ嬢も多く、前職で培った人脈を転職後に活かす人もいるという。「彼女たちの立派な武器になっているようです」と印象を語った。
全国の求職者にオンライン対応している『昼ジョブ』。夜の世界にはまだまだダイヤの原石が眠っていそうだ。