2021年02月19日 10:11 弁護士ドットコム
ハムスターやウサギを「生き餌」として、ペットの爬虫類に食べさせる――。そんな動画を投稿していた男性が、動物愛護団体から刑事告発された。
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朝日新聞デジタル(1月16日)によると、この動画には、生きたハムスターやウサギが、ヘビやトカゲなどのケージ内に放り込まれて、数分間かけて食べられる様子が映っていたという。
昨年10月ごろまでにすべて削除されてしまったが、複数の動画がYouTubeに投稿されて、再生数が1万回を超えたものもあったようだ。実際に、ハムスターが生き餌とされる動画を視聴したが、相当生々しいものだった。
削除に前後して、横浜市の動物愛護団体「日本動物虐待防止協会」が、投稿者の男性を動物愛護法違反(虐待)の疑いで刑事告発した。
こうした「生き餌」の動画は、YouTube上にあふれている。はたして、男性は罪に問われる可能性があるのだろうか。動物愛護管理法に関心の高い渋谷寛弁護士に聞いた。
――法律上、生き餌はどう扱われているのか?
動物愛護法では、生き餌について、直接の規定はありません。ただし、餌のためという目的があっても、その持ち主は「動物の所有者」にあたります。動物愛護管理法には、次のように「動物の所有者」の責務が定められています。
「動物の所有者または占有者は、命あるものである動物の所有者または占有者として動物の愛護および管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、または保管することにより、動物の健康および安全を保持するように努めるとともに・・・(略)」(動物愛護管理法7条)
したがって、今回の動画投稿者は、動物の所有者の責務に反すると思います。
また、終生飼養の責務にも違反しています。
「動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)に努めなければならない」(同法7条4項)
――生き餌だったとしても「終生飼養」しないといけないの?
「所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で」に該当するかが問題となりそうです。
この一文は、食用の牛や豚、鶏を念頭に置いていると考えられます。人の食べ物とするために殺すことは許されることになります。
しかし、わざわざ生き餌でなくても、ほかの餌を与えることが可能ならば、ほかの動物の餌にする目的で飼養しているということは、この例外にあたらないという解釈がされるのではないでしょうか。
――刑事罰の対象になるか?
刑罰の対象にもなる可能性があります。
愛護動物をみだりに殺したり、傷つけた場合、5年以下の懲役または500万円以下の罰金となります(動物愛護管理法44条1項・動物殺傷罪)。愛護動物には、人が占有している動物で哺乳類、鳥類または爬虫類に属するものも含まれます(同4項)。この「人」には、飼育している自分自身も含まれると解釈されています。
もちろん、「みだりに」にあたるか、違法性が阻却されるのではないか、という問題があります。しかし、昔ならともかく、今日においては、動物愛護の精神が社会に浸透していますので、生きた動物を餌として与えることは違法であると評価される可能性が高いと思います。
その場合、餌だから許されるという弁解は通用しないことになります。ちなみに、魚類であれば、罰則の対象にはなりません。しかし、動物の所有者の責務には反することになります。この「動物」には、制限が加えられていない魚類も含むことになるからです。
――今回のような「生き餌」についてどう思うか?
要するに「時代が変わった」ということです。昔ならば、生き餌もありえたでしょう。しかし、動物愛護の精神からすれば、生きた動物を餌として与えることは、広義の虐待行為にあたるとして、許されなくなってきたのです。
したがって、生きた動物ではない、代わりの餌を与えなければならないことになります。生き餌しか食べない動物だとしたら、そもそも飼い始めてはいけなかったのではないでしょうか。
――動物虐待の動画があふれている。
個人的には「悪質」だと思います。犯罪に該当しうる行為を撮影して、動画投稿することが良くないことは明らかです。ところが、児童ポルノの動画投稿とは異なり、動物虐待動画の拡散について罰則規定が見当たりません。動物虐待動画を投稿することについて、罰則規定を設けようとする動きもあるようです。
【取材協力弁護士】
渋谷 寛(しぶや・ひろし)弁護士
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局長も務める。
事務所名:渋谷総合法律事務所
事務所URL:http://www.s-lawoffice.jp/contents_01.html