2021年02月18日 10:01 弁護士ドットコム
東京地検が2月9日、被告人2人に法定刑を超える求刑をし、東京地裁もまた法定刑を超える判決を言い渡したと発表し、波紋を呼んでいる。本来であれば、2年を超える刑罰を科すことができないのに、判決ではそれより半年多い2年6月を言い渡してしまったのだ。
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報道によると、1月21日に検察側が求刑し、同28日に地裁が判決を言い渡したという。地検は判決を是正するために、2月9日に控訴した。
刑法は、被告人2人が問われた「わいせつ電磁的記録有償頒布目的所持罪」の罰則について、「2年以下の懲役や250万円以下の罰金」と定めている(175条2項)。法律の条文を確認すれば、この犯罪だけで2年を超える刑罰を科すことができないのは一目瞭然だ。
裁判にかかわった裁判官、検察官、そして弁護人がそろって見逃したことになるが、なぜそのようなことになったのだろうか。また、弁護人があえて見逃すようなことはあり得るのだろうか。刑事事件の弁護人として経験豊富な清水俊弁護士に聞いた。
——あってはならない事態が発生してしまいました。
報道をネットでパッと見たときは、「求刑超えの判決が出た」というたまにある話のように感じたので、まさか「法定刑超えの違法判決」だとは思いませんでした。
検察庁や裁判所といった組織に対し、少なくとも形式面のチェックについてはある種の信頼感がありましたので、判決までいってしまったことには驚きました。
——弁護人として、今回のような事態が発生しないよう心がけていることはありますか。
あまり扱ったことがなかったり、久しぶりに扱う事件であれば、弁護人に就く段階で法定刑などは調べています。
ただ、私自身も、(司法試験の)受験生だった頃に比べると、基本書(教科書)や六法を開く機会は圧倒的に減りましたし、「慣れ」もあって、こうしたミスは「正直あり得る」と感じました。
——裁判手続きで思わぬ事態に出くわしたことはありますか。
民事事件ですが、本来は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てなければならないのに、地方裁判所に共有物分割裁判が申し立てられてしまった事案が現にありました。
申し立てた弁護士はもちろん、相手方である私や裁判官も気づかず、判決日を迎える直前に裁判官の調査で最高裁判例があることが判明しました。
こちら側としては却下判決を受ける方が有利だったので取り下げに同意せずに判決をもらうという、結果的には「高等戦術」のような形になってしまいました。
——弁護人が気づかないフリをして、事後に違法判決を主張するなどの「高等戦術」だったという可能性はあるのでしょうか。
その可能性は低いと思います。もし弁護人として気づいたらやはり指摘するでしょうし、今回の弁護人がスルーしたのも、単に気づかなかったことが理由ではないかなと思います。
——今後、弁護人は何らかの責任を問われるのでしょうか。
被告人の立場からすると無用な控訴審に巻き込まれ、執行猶予の開始も遅れてしまうとなると、損害賠償を請求されることもあり得ます。
弁護士会は具体的な申し立てを受けて処分を検討することが一般的ですが、報道されてしまったのでそうした申し立てがなくても処分を検討するかもしれません。
【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/