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ご近所さんのニワトリが「夜明けから鳴き続けてもう限界!」 “天然の目覚まし”の止め方

2021年02月18日 10:01  弁護士ドットコム

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新型コロナ禍で住む場所の自由が広まり、引っ越しを検討する人もいるだろう。しかし、その結果、思いもよらぬトラブルに巻き込まれることがあるかもしれない。


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弁護士ドットコムに、近隣の鶏がうるさいので、なんとかしたいという相談が寄せられている。



相談者は、数年前から、住宅地に建つアパートで住み始めた。しかし、期待していた平穏な暮らしは、けたたましい騒音によって、初日から破られた。



●近所に鶏がいるじゃないか!

「引っ越して初めの夜明けに、鶏の鳴き声に起こされ、鳴き続けるので眠れませんでした」



鶏のいる場所と、相談者の部屋の距離は約20メートルで、隔てる物は何もない。窓を閉めても音は聞こえてくるという。



「私が後からその土地に来た」こともあり、相談者は「鳴き声に慣れる」ことを選んだが、数年たち、そんな生活にも限界が訪れたようだ。



「ここ最近、鳴き声に悩まされ始めることが数週間続き、ストレスや睡眠不足から生じる疲労にも悩まされています。鬱状態に陥るのではないかと不安もあります」



飼い主に電話をし、「鶏がうるさいこと」「その対処のお願い」「こちらの連絡先」を留守番電話に残した。また、同じ内容の置き手紙を、飼い主の自宅に届けてきた。



だが、数日たっても、変化は何もない。市役所にも相談したが、生活騒音の部類になり、対処できないとされた。



相談者は、飼い主に防音対策をとってもらいたいと考えている。また、不眠の苦痛に対する損害賠償も求めたい意向だ。どのような法的手続きをとることができるのだろうか。山之内桂弁護士に聞いた。



●うるさい鶏が苦痛…裁判に訴えることもできる

ーー近所で飼われている鶏の騒音に困った場合、まずはどうすればいいですか



騒音対策を求める相手は、第一に飼い主(占有者・管理者含む)となります。



次に環境行政窓口(各地方自治体の環境部局)への相談になりますが、生活騒音(養鶏事業者ではない個人が飼育する雄鶏の鳴き声)は、産業騒音と違って規制値違反に対する制裁がないので、本件のような個人の愛玩目的飼育動物の場合の対応は難しいでしょう。



その他、民間調停のようなADR手続も考えられますが、最終的には裁判所を通じた騒音差止の仮処分や損害賠償請求本訴等の法的手段をとるしかありません。



動物の占有者または管理者は、当該動物が、(1)他人の権利を侵害したときは、(2)動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたことを証明できなければ、(3)被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法718条)。被害者は、損害賠償請求に加えて騒音の差止を求めることもできます。



●後から来たとしても「鶏うるさい」と主張できる

ーー相談者が引っ越してくる前から、鶏は飼われているようです。それでも、法的な手続きをとることはできるのでしょうか



養鶏事業者ではない個人が飼育する雄鶏の鳴き声は、生活騒音であり、受忍限度を超える侵害に限って損害賠償請求等ができます。



受忍限度を超えるかどうかは、騒音の種類・音量・発生時刻・継続時間、周辺環境、被害側の生活状況など、双方当事者の事情を総合的に考慮して判断されます。



本件では、通常人が就寝している早朝時間帯に、毎日、大音量(敷地境界で約100dB以上あると思われます)で発生していること、地域環境は住宅地(環境基本法による環境基準では、夜間40~45dB)であること等から、危険を認容して接近したとまでは言えず、騒音源に後から接近した者の被害であっても、受忍限度を超えると判断される可能性があります。



ーー裁判を起こすにあたって、どのようなことを準備しておけばいいでしょうか



被害側では、損害の発生事実と騒音との因果関係を証明する必要があります。騒音の状況を示す測定記録、精神科や心療内科への通院を示す診断書・診療録・診療報酬明細、生活上の支障や加害者との交渉経過を説明する被害者の陳述書などが必要です。



●大きな騒音が出ていると確認できれば、飼い主の責任を問える

ーー今回のケースでは、飼い主側の管理責任はどう判断されるでしょうか



動物の種類及び性質に応じて、飼育目的(愛玩・展示・実験・産業)や環境(室内・室外)に即して危害発生防止のために相当程度の注意を払ったかどうかで判断されます(参照:動物の愛護及び管理に関する法律第7条及び同条第7項に基づく環境省告示、各自治体の動物愛護管理条例)。



本件では、雄鶏の性質上、飼育設備の防音性や受音側の対策内容が考慮され、現に環境基準を大きく超える騒音が発散していれば、管理責任が果たされていないと判断される可能性があります。



ーーそのほか、同じ悩みを抱えている人にアドバイスを



騒音対策には、音響の特性の理解が不可欠なので、防音専門工事業者や環境計量士などの専門家に相談することも役に立つと思います。




【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:https://www.uhl.jp