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マツダらしさはある? 電気自動車「MX-30」に試乗!

2021年02月17日 11:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
マツダから待望の電気自動車(EV)が登場した。昨年、マイルドハイブリッド車(MHV)として日本で発売となった「MX-30」にEVモデルが追加されたのだ。同社初の量産型EVで気になるポイントは、それがマツダらしいクルマに仕上がっているかどうかということ。試乗して確かめた。

○「ホンダe」との共通点と相違点

日本ではEVとMHVが併売となるMX-30だが、欧州におけるラインアップはEVのみ。つまり、このクルマはEVが中核の車種であるといえる。そう考えると、従来のマツダ車とは異なる室内の造形などが、より理解しやすくなる。

MX-30 EVモデルは35.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。フル充電での走行可能距離はWLTCモードで256キロだ。モーター出力は107kWで、最大トルクは270Nm。車両重量は1,650キロとなっている。

ちなみに、ホンダのEV「Honda e」(ホンダe)も35.5kWhのバッテリーを積んでいる。こちらの走行可能距離(WLTCモード)は259~283キロで、出力は100~113kW、最大トルクは315Nm。MX-30と比較的近いEV性能だ。車両重量は1,510~1,540キロでMX-30よりも100キロほど軽い。車両価格はMX-30もホンダeも451~495万円で横並びとなっている。両者で異なる点は、MX-30が前輪駆動(FWD)のSUVであるのに対し、ホンダeは後輪駆動(RWD)の小型シティコミューターであることだ。

○親しみやすいEVに仕上がった理由

前置きが長くなったが、MX-30の乗車感覚をお伝えしよう。

結論を先にいうと、MX-30のEVはエンジン車と運転操作や感覚がほとんど同じであり、EVらしさというものは感じにくいクルマだった。それでも、エンジンではなくモーター駆動となるため、走行の様子はより緻密で、洗練されているといえるだろう。モーターはエンジンの約1/100の速さで応答するので、運転者の操作に対して遅れなく加減速を行う。ハンドル操作に対しては、荷重移動を制御するマツダの「G-ベクタリング コントロール」(GVC)がきめ細かく機能し、カーブを曲がったり車線変更したりするときのクルマの動きはより滑らかで、上質さが高まっている。

EVで用いられるアクセルのワンペダル操作(アクセルペダルのオン/オフで加速、減速、停止まで可能)は採用せず、あくまで運転操作はエンジン車と同じにこだわる。したがって加速はアクセル、減速はブレーキというペダルの踏み替えが必要な点も同じだ。

ハンドルの裏側にあるパドルシフトでは回生の強弱を切り替えられる。使い方はエンジン車の変速(シフトアップとシフトダウン)と同じ感覚だ。右側のパドルを動かすシフトアップ操作を行えば、アクセル操作に対する出力の出方はより大きくなり、瞬発力が増す。左側のパドルで回生を強めれば、あたかもシフトダウンをしたかのように減速度が強まる。そのままの状態でアクセルペダルを踏み込んだときの出力の出方は、やや鈍い。モーターらしい伸びやかさは、よりペダルを深く踏み込むか、あるいはパドルシフトで加速側に操作しないと得られない。

EVだと思って運転すると、思い通りに走れないもどかしさがある。しかし、エンジン車と同じだと思い、エンジン車と同じ操作で運転すると、より滑らかで快適な走りができるという仕立てだ。

マツダはエンジンに力を注いできた自動車メーカーだ。「SKYACTIV技術」を磨き、「HCCI」(予混合圧縮)を活用した「SPCCI」(火花着火制御予混合圧縮)を世界で初めて実現するなど、内燃機関の進化には相当なこだわりを持っている。MX-30 EVモデルに「EVらしさ」が少ないのも、これが理由なのだろう。エンジン車のプラットフォームを活用し、パドル付きハンドルなどの部品を流用しながら、エンジン車の安定した走行を実現するための技術だった「GVC」をEVにも適用して洗練させることで、MX-30のEV化を果たしたといえる。

「Be a Driver」の言葉を使い、エンジン車で運転の楽しさや安全を求めてきたマツダらしい運転感覚が、MX-30 EVモデルでも味わえる。エンジン車で親しんだ操作はそのままに、EVを走らせることができるのだ。安心感がある一方で、EVならではの新しさには欠ける。

ホンダeは逆に、EVならではの要素を盛り込んだクルマであり、驚きの装備が充実しているものの、そこに戸惑う人がいるかもしれない。その点、エンジン車からMX-30 EVモデルに乗り換えた人が何かに戸惑う可能性は、限りなく低いはずだ。

消費者の嗜好はさまざまだ。選択肢の豊富さは自由の象徴でもある。しかし、時代は変化していく。自動車電話は携帯電話となり、そしてスマートフォンとなった。使える機能が変われば、暮らしも新しくなる。もちろん、そのくらいのことはマツダも分かっている。次にEV専用プラットフォームで開発する車種はMX-30と違って、EVならではの価値を提示してくるだろう。段階を踏みながら、マツダのEVは歩みだした。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)