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堀越高校「男女交際は禁止」の校則めぐり裁判 「芸能人が通う」は判断にどう影響?

2021年02月17日 10:31  弁護士ドットコム

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「男女交際は禁止」。そんな校則をめぐって、ある裁判に注目が集まっている。


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舞台になったのは、私立堀越高校(東京都中野区)。校則違反で自主退学を勧告させられたのは不当だとして、生徒だった女性が学校側に対して、約370万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したのだ。



2月3日に第一回口頭弁論があり、これを報じた記事がネットで話題になった。



報道によると、この女性は高校3年生だった2019年11月、同級生の男子生徒と交際していることが学校側にバレ、ほかの高校に編入することになったという。



堀越高校といえば、芸能活動で有名な生徒も多く通学していることで知られている。学校側は「内容については裁判で明らかにする」としているが、あるいはスキャンダルを想定した校則なのだろうか。



とはいえ、ネットでは「時代遅れ」といった反応が多くみられる。法的には、どんな部分が争点になるのだろうか。野澤哲也弁護士に聞いた。



●裁判のポイントは3つ

――裁判ではどのような点がポイントになるでしょうか?



判断のポイントは、①男女交際禁止を定めた校則が違法無効となるか②この校則が有効だとしても、今回の退学の判断が重すぎないか③退学判断が妥当だとしても、手続きに人権侵害の違法がないか、という点にあると考えられます。



●ポイント①:校則の違法性 堀越の特性はどう影響?

――堀越高校は芸能人も通うことでも知られます。校則の合理性を認める方向でプラスに働くことはあるのでしょうか?



生徒(厳密には親)と学校は、在学契約を結んでいると考えることができます。親は学校に生徒を預け、きちんと教育してもらうことを委ねる、学校は生徒を預かり、その学校の方針できちんと教育するという契約です。



そして、学校は、生徒を預かるに際し、その学校の方針を明示する。学校説明会、パンフレット、HPなど色々な形がありますが、その一つが校則です。



私立の場合、学校の教育方針が明確になっている場合が大半です。親や生徒は、通常、このような教育方針を理解した上で、入学することになります。つまり、その方針に逆らえば、処分を受けても仕方ないことを事前に承諾していることになります。



詳細は分かりませんが、堀越高校は、「芸能人御用達」で有名であり、学校での服装や容姿、スキャンダルに結びつく言動を厳しく規律していてもおかしくありませんし、その中に男女交際禁止が含まれている可能性があります。



このような学校の教育方針が明示されていて、親や生徒が認識していると言えれば、校則の合理性は肯定されるでしょう。堀越高校だからこそ、男女交際が厳しく制限される、このような考え方もできます。これは生徒が有名であるかどうかとは無関係です。



●ポイント②:退学は重すぎるか? 他生徒との関係も

――校則を無効とまでは言えない可能性があると。



校則が有効であっても、退学は重すぎるだろうという判断があり得ます。本件では、こちらの方が大きな問題だといえます。



判断のポイントは、主に(a)交際の内容、(b)教育的配慮があったか、(c)不問に付した場合の影響などになります。



報道では1年9カ月の交際だったようです。校則を理解した上で敢えて続けていたとしたら、短いとは言えません。



高校に交際が判明した時点で、退学方針が決まり、停学処分などによる教育的配慮がなかったという場合、厳しすぎないかと思えてしまいます。



一方で、高校が男女交際を禁止する趣旨、そのために払っている努力などにより、一発アウトもやむを得ないという考え方もあり得ます。



学校側の男女交際に対する姿勢の強さにより、このまま退学とせず停学などの処分にしてしまえば、他の生徒や親に対する背信行為になる、校則に対する生徒のネガティブな姿勢を助長するなどの事情もあり得るでしょう。



とすると、退学という判断も重すぎるとは言えないという判断があり得ます。



●ポイント③:手続きの違法性 聴取内容に問題は?

最後に、退学という判断がやむを得ないとしても、生徒への事情聴取などが過度にプライバシーを侵害するとして違法行為となり、損害賠償が認められる可能性もあります。



本件でも、報道によれば、学校は生徒に対し、「キスをしたか」「性交渉したか」という質問をして、生徒が泣いてしまったようです。



なぜこんな質問をしたのか。交際の具体的内容は、処分に無関係とは言えません。内容まで考慮して退学の判断をしたということであれば、プライバシー侵害という違法も断定が難しいと思われます。



●正当だと生徒に説明できる事情がどこまであるか

――交際禁止を「ブラック校則」と感じる人は多いと思います。でも、裁判で争うとなると一発アウトということにはならず、必要性や運用、対応の状況などが検討されると。



いずれにしても、校則違反や退学となっても仕方ないでしょと生徒に言える事情がどこまであるか、それが判断のポイントとなってくるでしょう。




【取材協力弁護士】
野澤 哲也(のざわ・てつや)弁護士
神奈川県弁護士会所属。労務を中心とした企業法務に従事する傍ら、退学などの学校問題、幼稚園を含めた施設事故など子供にまつわる案件を取り扱っている。
事務所名:野澤・中野法律事務所
事務所URL:http://www.nozawa-law.jp/