採用のオンライン化(会社説明会や面接など)や買い手市場化(採用する企業側が強い就職市場)が進む今、採用企業と就活生との間で発生する「ミスマッチ」が問題視されています。
就活生にとって就職活動で最もしてはならないことは、不合格になることよりも自分に合わない企業に入ってしまうこと。その可能性が高まっているのです。どうすればリスクを下げられるのでしょうか。(人材研究所代表・曽和利光)
オンライン化はコミュニケーション不全をもたらす
まずはミスマッチが発生する理由について考えてみます。採用のオンライン化によって、対面のリアルなコミュニケーションよりも非言語コミュニケーションが減少し、「感情」や「雰囲気」などが伝わりにくくなります。
学生が会社を選ぶ基準は「人の雰囲気」や「社風」などが長年上位を占めていますが、それがなかなか分からないのがオンライン採用です。確信を持てないまま入社の約束をしてしまうと、すでに起こっていることですが、本当にここでよかったのだろうかと憂鬱になる「内定ブルー」が生じます。
これに追い討ちをかけるのが、景気の悪化による買い手市場化です。コロナ以前は就活生が受験する会社は10社程度でしたが、これからはその2、3倍になると言われています。実際、リーマンショック後の不景気期には学生は1人20~30社を受けていましたので、おそらくそれは現実となるでしょう。
そうなると、競争が激しくなる学生も大変ですが、採用目標の何百倍もの応募者が押し寄せる企業側の対応も大変です。面接担当者の負荷を増やすわけにもいかず、初期の方の選考をバッサリと落とすような、雑な選考をせざるを得なくなるのです。
最も精度が高い選考手法は「ワークサンプル」
雑な選考としては、例えばエントリーシートやエントリームービー(録画面接)などにおいて「印象」で選考されてしまうことも起こりえます。印象は社会に入ってからも、それでいろいろ評価されることも多いので大事ではありますが、本当の能力や性格とは異なることもあります。
印象は無意識的な現象であるために、偏見(心理的バイアス)から逃れにくくなります。学歴などの属性や、容姿や雰囲気などの効力が大きくなってしまい、実力を評価されないリスクがあるということです。
このように、今の就職活動にはさまざまなミスマッチを起こす要因があり、何も工夫しなければ、個人にとっても企業にとっても不幸なことになります。そこで企業側には「インターンシップを採用選考の主流にしていこう」とする動きがあります。
というのも、あらゆる選考手法の中で最も精度が高く、その手法で評価されれば入社後も活躍する可能性が高い手法が、実際に入社してからの仕事をやってみてもらう「ワークサンプル」という手法だからです。
この効果は人事担当者の中でかなり広まっていることで、インターンシップを通した採用によってミスマッチを防ごうとしているのです。仮に就労体験ができなかったとしても、職場の雰囲気はわかります。
ともかく1社。同業他社でも経験が役に立つ
そういうわけで、時間が許す限りではありますが、このような時期に自分にフィットした会社に入りたいのであれば、できるだけインターンシップに行って、実際に仕事や職場を経験するべきだと思います。
オンラインではわからない社風がわかりますし、自分をちゃんと知ってもらい、その会社や仕事に向いているのかどうかを評価してもらい、フィードバックしてもらうこともできます。もともと本場のアメリカでも、お互いのフィット感を確かめるものであったといいますが、ようやく日本でも本来の役割になる時代がやってきました。
ただひとつ問題なのは、今が「買い手市場」ということです。インターンシップでも応募は殺到しており、行きたいと思ってもそのための選考を通らなければならず、本命企業に合格することはなかなか難しいかもしれません。
私のお勧めは、ともかくどこか1社行くべきということです。本命でなくても、同業他社や関係会社、似たようなステージにある会社(成長期、安定期など)などであっても、自分がフィットしているのかを擬似的に確かめるのに役立ちます。
1社でも経験すれば、それが就職活動の一つの物差しになります。疑似体験でも十分に役立ちますので、機会があればぜひインターンシップに行きましょう。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/