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どんどん増える電気のクルマ! 「PHEV」って何だ? 第4回 「レネゲード 4xe」で広がる電化ジープの可能性

2021年02月15日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
クルマの電動化の波は、悪路走破性を第一とする米国のジープにもおよんでいる。ジープのなかで最も小型のSUVである「レネゲード」に、プラグインハイブリッド車(PHEV)の「レネゲード 4xe」(4xeはフォーバイイーと読む)が追加となった。独特の魅力があるジープだが、PHEVとの相性はいかに。

○ジープの持ち味を崩さない電動化

小型で身近なSUVとして登場したレネゲードは、前輪駆動(FWD)であるところを特徴のひとつとしている。「トレイルホーク」というグレードのガソリンエンジン車には4輪駆動(4WD)を設定しているが、日常の用途では燃費が悪化するし、未舗装路はほとんど走らず、それでもジープのSUVの感触を日々味わいたいという人はFWDで十分に満足できるからだ。

しかし、PHEVはすべてが4WDとなる。理由は、後輪側にモーターを装備することで電動化しているからだ。同時に、ガソリンエンジンにはモーター機能付き発電機(ISG)が組み込まれている。これがあることによって、車載のリチウムイオンバッテリーの電力がなくなっても、走りながら発電することができる。

「モーターで発電」と聞くと疑問に思うかもしれないが、モーターと発電機は機構が全く同じなので、電気を流せばモーターとして駆動力を発生するし、力を与えれば発電機として電気を生みだす。ここでいう「力」とは、走行するクルマの運動エネルギーだ。電力会社の発電機では、蒸気(火力)や水の流れ(水力)などが発電機に力を与えている。

レネゲードのPHEVは、車載バッテリーに電力が蓄えられていればモーターのみで走行する。つまり、ここでは後輪駆動(RWD)となる。フル充電で走り始めれば、最大で約48キロをモーターのみで走行することが可能だ。

一般的に、モーター走行ではエンジンのような振動騒音が発生しないため、静かで滑らかな走りが楽しめる。車載バッテリーを搭載する分、車重が重くなるので乗り味はより重厚になることが多い。だが、レネゲード 4xeのモーター走行は、他社のPHEVに比べるとそれほど静粛性が高くない。

しかし、それが不都合かというとそうではなく、悪路走破を得意とするジープが荒野を走るときのように、走っているという手応えがあることで頼もしさを感じる。これはこれで、ジープならではのモーター走行の持ち味なのではないかと思う。

また、この特性により、車載バッテリーの電力を使い切ってガソリンエンジンが始動し、ハイブリッド車(HV)として走る際も、エンジンが始動したことに気づきにくく、また騒音が増大したと意識させられることもないので、モーター駆動のときと同じ感覚のまま運転し続けられる。

レネゲードの持ち味は、PHEVになっても変わらない。あくまでジープらしさを崩さない乗り味でモーター走行を実現しているといえる。

○ジープらしさが電気で深化?

ところで、HVとして走行する段になると、後輪モーターは駆動しないので駆動方式はFWDとなる。しかし、車載バッテリーの電力を使い切ったところで悪路へ入ったとしたら、4WDの安定した走りによるジープならではの安心感が欲しくなるはずだ。

そこでレネゲード 4xeでは、悪路走行用の低速走行を選択すると、ガソリンエンジンに取り付けられているISGで発電を続け、滑りやすい路面を超低速走行する間は後輪モーターを駆動し続けるという仕組みを制御に組み込んでいる。これは、ジープならではのPHEVの作り方だ。

モーターはエンジンに比べ約1/100の速さで緻密な出力制御ができるとされている。特に滑りやすい泥や岩場などの悪路では、わずかな出力の過多がタイヤを滑らせ、走行安定性を失わせてしまう。急坂を登れなくなったり、急な下り坂で横滑りしたりしてしまうおそれがあるのだ。エンジンより素早く緻密にタイヤの駆動力を制御できるモーターは、まさに、ジープのように悪路走破を第一の特徴とするSUVにうってつけの動力なのである。

一方で、電気だけで走る電気自動車(EV)は、車載バッテリーの電力を使い切ってしまえば走れなくなってしまう。そうした懸念がなくもない。その点、PHEVであれば、燃料用の容器に予備ガソリンを入れて車載しておくことで、電気と燃料を使い切ってしまったあとでも、予備を給油することで走行を続けられる。

ただ、念のために付け加えれば、EVであっても、小型の太陽光発電や風力発電の機器を車載しておけるので、晴れていたり風が吹いたりしていれば、駆動用のバッテリーを充電して走行を続けられるともいえる。EVの4輪駆動車で南極大陸の極点を目指そうとしている冒険家もいるのだ。

レネゲードのPHEVは、悪路走破を得意とするジープのようなSUVに新たな可能性を広げるクルマだ。それによって、新たな冒険を夢見る気分にもさせてくれた。実際は市街地しか運転しないとしても、ジープを選ぶ人たちは、そうした気分を味わえるところに喜びを覚えているはずだ。

大きさが近いPHEVの競合車としては、ボルボ「XC40」やミニ「クロスオーバー」などが挙がられるが、レネゲード 4xeはライバルのSUVや乗用車のPHEVとは別の趣を体感させてくれる忘れがたい1台だ。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)