2021年02月15日 10:21 弁護士ドットコム
昨年7月18日に亡くなった俳優の三浦春馬さん(享年30)になりすまして、第三者が楽曲配信をしているなどとして、三浦さんの所属芸能事務所アミューズが2月11日、ウェブページで注意をよびかけた。
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事務所の発表によると、Apple Music、Amazon Musicなどの音楽配信サイトで、三浦さん名義の『Night』という楽曲が配信されていたという。
しかし、三浦さんや事務所、所属レーベルは一切関与しておらず、第三者による「なりすまし行為」だという。
同姓同名という可能性もゼロではないのかもしれないが、三浦さんは2020年に『Night Diver』という曲を発表しており、今回問題となった楽曲名と一部が一致している。また、今回の『Night』には歌声も入っていなかったようだ。
1月には椎名林檎さん率いるバンド「東京事変」でも同様の被害があった。
著名人の名前をかたって、楽曲を配信するとどんな問題があるのだろうか。雪丸真吾弁護士に聞いた。
――著名人の名前をかたって、楽曲を配信することにどんな法的問題がありますか?
不正競争防止法違反の違法行為の可能性があると思われます。
具体的には、同法2条1項1号(周知表示混同惹起)或いは2号(著名表示冒用)です。
「三浦春馬」さんと全く無関係の者が、周知・著名な表示である「三浦春馬」を使用して楽曲の売上を伸ばそうとするのは不正な競争行為として許さないとするものです。
被害者には、損害賠償・差止請求等が認められており、罰則(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金)もあります。
三浦さんは既に亡くなられているので誰が被害者として権利行使できるのかが問題になりそうですが、所属事務所アミューズや所属レーベルは「三浦春馬」という表示について営業上の利益を有していると判断されるので、権利行使可能と考えます。
またパブリシティ権侵害もあり得ます。
これは法律はないのですが、裁判例の積み重ねにより、氏名を含む「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)」があることが明らかになっています(ピンクレディdeダイエット事件/最高裁判決H24.2.2)。
同判例では、次のようにされています。
「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」
本件でも『Night』という楽曲の差別化を図る目的で「三浦春馬」の氏名を付しているので、②に該当し、不法行為として損害賠償請求の対象になると判断されます。
もっとも、このパブリシティ権は本人の死亡と共に消滅するという見解も有力ですので、本件ではこの点が問題になります。
――名前だけだと同姓同名の可能性もゼロではないのでは?
確かに、自己の氏名を不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)でなく使用する行為は、不正競争行為にならない(不正競争防止法19条1項2号)、とされています。
従って、『Night』を配信した者がもし「三浦春馬」氏であった場合は、上記の「不正の目的」の有無で不正競争防止法違反かどうかが判定されることとなりますね。
【取材協力弁護士】
雪丸 真吾(ゆきまる・しんご)弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2016年10月、実務でぶつかる著作権の問題に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第4版(中央経済社)を、2018年8月、『コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A』(中央経済社)を出版した。
事務所名:虎ノ門総合法律事務所