2021年02月14日 12:11 リアルサウンド
大森藤ノによる『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』を送り出したライトノベルの新人賞「GA文庫大賞」は、スニーカー大賞やファンタジア大賞、電撃小説大賞と比べて歴史は半分に満たないが、読ませるライトノベルを見つけることにかけては負けていない。
最新の第12回GA文庫大賞で金賞となった2作、宇佐楢春『忘れえぬ魔女の物語』と小田一文『貴サークルは“救世主”に配置されました』は、共に独創性にあふれた設定や展開で、1月刊行ながら早くも2021年のベストに推したくなる出来だ。
谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズを原作にしたテレビアニメで、夏休みの2週間を描いたエピソードが、8回にわたって繰り返された「エンドレスエイト」に覚えた困惑が、蘇ってくる作品とでも言おうか。『忘れえぬ魔女の物語』のことだ。
高校生になった相沢綾花は、入学式の日に同級生の稲葉未散と初めて出会い友達になる。そして翌日も、その翌日も未散との初めての出会いを繰り返す。実は、すべて同じ4月6日のできごと。生まれたときから綾花は、同じ1日を複数回、平均すると5回ほど繰り返してから、次の1日へと進む人生を過ごしてきた。
面白いのは、最後の1日が選ばれて翌日へと続くのではないこと。テストで悪い点をとってしまったからといって、勉強し直してループした日で良い点をとり続けても、失敗した最初の日が選ばれる可能性もあった。幸いにして綾花と未散が出会わない4月6日はなく、2人は仲良くなれたが、そこに悲劇が訪れる。
どういう種類の悲劇だったかは読んで確かめてもらいたいが、言えるのは、選ばれない日もあるとはいえ、なまじループという逃げ道が用意されていたばかりに、それが訪れない時の絶望感にはすさまじいものがあるということ。一方で、1度きりなら諦めがつくだろう状況から、諦めるきっかけが奪われてしまったときに、人はより深い絶望感に苛まれるということだ。
8週間、同じような展開が描かれ続けたことに、困惑と焦燥を覚えた「エンドレスエイト」を、遙かに上回る時間の牢獄に閉じ込められた綾花を通して、1度きりの時間が持つ価値を考えてみたくなる。もっとも、無限の絶望に折れない綾花の、未散に対する恋情の強さには驚くばかり。宮澤伊織の『裏世界ピクニック』シリーズでも取りざたされる、“百合SF”的な要素が、より重く濃いものとなって漂う。
とはいえ、それでも突破できない牢獄から抜け出すための道がまるで見えない。どうにか乗り越えてエンディングを迎えた先が、4月刊行の続刊でどうなっていくのかも分からない。読んでいても読み終えても気持ちをとらえづける作品だ。
時のループという設定は、偶然なのか第12回GA文庫大賞で同じ金賞となった小田一文『貴サークルは”救世主”に配置されました』にも使われている。主人公は星夜騎士(スターナイト)というペンネームの同人作家だが、即売会で1冊売れれば万々歳という零細ぶり。それがいきなり、100冊完売を達成しなくてはいけない状況に叩き込まれる。
原因は、聖夜騎士を救世主と呼んで近づいてきた時守緋芽という女子高生の存在。実は魔王と戦ってきた戦士で、滅びの運命に挑んでは敗れ、滅亡エンドを迎えてから時を遡り、また挑んでは敗れる繰り返しを続けてきたという。最新のループ時に、星夜騎士こそが世界を救う救世主であるという予言を得て訪ねて来たが、そこに、同人誌を100冊売らなければ魔王によって世界が滅ぼされるという予言が新たにもたらされる。
世界の存亡と同人活動が天秤にかけられるギャップがおかしいが、世界が滅亡してしまうとあっては笑ってもいられない。緋芽が編集者のような立場で、星夜騎士に売れる同人誌を描かせようとする『バクマン。』的な展開が繰り広げられる。
人手が足りないからといって、背景が白いままでは手抜きと思われてしまうとか、認知度を高めるために1日3回、SNSにイラストをアップしてアピールしろとかいった緋芽のアドバイスが実に的確。もっと売れるカップリングにしろとまで言ったが、こればかりは描き手の信念に関わることだから星夜騎士も絶対に譲れない。カップリングは神聖にして冒すべからざるものなのだ。たとえ世界が滅びたとしても!
それでも、やはり滅亡は避けたいところ。同人誌は果たして100冊売れるのか。頑なに守ったカップリングが意味を持ちそうな予感も漂うエンディングから先、星夜騎士が真の救世主として脚光を浴び、1000冊だって売り切る壁サークルへ近づくために何をするかをぜひ見たい。売れる同人誌づくりの参考にもなるし。
今回は金賞が最高だったように、GA文庫大賞はなかなか大賞が出ないコンテストで、第4回の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているか』が初めて獲得してからしばらく、該当作がなかった。それだけに、第11回で7年ぶりとなる大賞を獲得した佐藤真澄『処刑少女の生きる道(バージンロード)』には注目が集まった。
その世界では、日本から転生して来た「迷い人」たちが、純粋概念と呼ばれる異能で大災害をもたらす存在として疎まれていた。そうした迷い人を処刑し続けてきた少女メノウが、アカリという名の迷い人も同様に始末しようとするが、アカリは不死身で殺せなかった。メノウはアカリと連れだって旅をしながら、アカリの異能を打ち破って殺す方法を探す。
巻を重ねる中で、同道する中で育まれるアカリへの心情にメノウが苦悩する姿や、不死に見えるアカリが、密かに繰り出している異能の苛烈さが見えてきて、物語世界に引きずり込まれる。2月10日には第5巻も出て、処刑少女としてメノウが重大な決断を下す。『ダンまち』シリーズと同様に、デビュー作でありながらアニメ化も決定しただけに、これから大ブレイクが期待できそうだ。
(文=タニグチリウイチ)