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毒親に「あんたを育てた費用を返せ」と3000万円を要求された…払わないとダメなの?

2021年02月13日 09:21  弁護士ドットコム

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「あんたなんか生まなきゃよかった、出産費用返して」「今まで育てるのにかかった費用全部返して」。ネット上には、実の親からこのように言われ、悩んでいる人たちの声がみられます。


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中には、就職したとたん、親に「これまでかかった費用を返してもらうから」と給料の大半を持っていかれているという人も。毎日のように親に「大学費用返せ」と言われ続け、精神的に追い詰められているという人もいます。



弁護士ドットコムにも「母親に、今までにかかった養育費(3000万円)を返せと言われました。一括で返せなければ分割で払えと。支払わなければならないでしょうか」という相談が寄せられています。



親から支払いを求められた場合、支払わなければならないのでしょうか。本田麻奈弥弁護士に聞きました。



●親に「どんな法的な権利に基づく請求なの?」と聞いてみる

ーー相談者のように、親に「今までにかかった養育費(生活費、教育費など)を返して」と言われた場合、子どもはどのように対応すればよいのでしょうか。



親から養育費を返せと言われた場合、当然ですが、子どもの立場としては応じたくない、応じられないと考えるでしょう。その子ども側の思いを法的に理論づけるとしたら、どういった「主張」になるかを考えてみましょう。



まず覚えておいてほしいのは、権利というものは、その権利を行使する側が、権利の存在や中身を主張したり、立証しなければならないということです。



ですから、養育費の返還を求められた時に子ども側が最初にすべきことは、「養育費を返して」という親に対して、その請求の根拠・中身を聞き、明らかにすることです。





「どんな法的な権利に基づく請求なの?」



実は、この質問をすることこそ、請求を受けた子ども側がするべき対応といってもよいかもしれません。



「お金を返せ」という請求の代表例は、借金返済を求めるケースです。しかし、借金返済を求める権利は、ただお金を渡しただけでは足りず、返済の約束がなければ発生しません。



親が子どもの養育費を払う時に、子どもとの間で養育費の返済の約束をするということはまずないでしょう。万が一、未成年の子どもが親に借金返済の約束をさせられていたとしても、その約束が法的に簡単に有効になることはありません。



ーー大学や大学院の学費、塾や習い事などの教育費の返還を求められた場合についても、親が子どもに請求する法的な権利はない、ということでしょうか。



そもそも、親には子どもを扶養する義務があります(民法877条1項【注※】)。親が教育のために経済的な負担をして子どもを育てるのは、こうした扶養義務の実践にほかなりません。





仮に親が自分の生活を犠牲にして教育(たとえば子どもの習い事や高額な私立学校の費用)にお金をつぎ込んだとしても、それは誰かに強制されたのではなく、親が扶養義務を実践するにあたって自分の判断でやったに過ぎません。



ですから、親が扶養義務の一環として費やした教育費を子どもに返せと請求する根拠はありません。



●「養ったから養い返せ」という親の要求にはどうすれば?

ーー生活に困った親が「養い返してほしい」などと言ってきた場合は、どうでしょうか。



実はこの場合、親の請求には一応法的な根拠があります。なぜなら、民法上は、親が子どもを養う義務があるように、成人した子どもにも親を養う義務があるからです(民法877条1項)。



しかし、子どもが親を養う義務は、親が子どもを養う義務よりも、弱いものと考えられています。





親が未成熟な子を扶養する義務の場合、どんなに生活が苦しくても、最低限度、自分と同じくらいの生活水準で生活させる義務(生活保持義務)があると考えられています。



これに対して、成人した子どもが老齢の親を養う義務は、子ども側が自分の社会的地位に合う水準の生活を送ってもなお余力があるときに、その限度で扶養するという義務(生活扶助義務)になります。



この義務の存在や程度(いくら負担するべきか)の中身は、親が子の扶養を受ける必要性や扶養を求められる子ども側の収入状況や生活状況、これまでの扶養の実績といった様々な事情を考慮して決められます。



子ども側にそれなりの収入がある場合、親の資産状況や生活状況次第では、扶養するべき義務が生じることがあるかもしれません。しかし、たとえば、就職したばかりでまだ経済的にも余裕がないような状況では、親に対する扶養義務が生じるとは考え難いところです。  





ーー対応に困ったときはどうすればよいでしょうか。



もし親からの請求に困っていたり、辛い思いをしていたりする場合には、家族間の問題だからとひとりで抱え込まないようにしましょう。



家庭裁判所に調停を申し立てたり、弁護士に相談したりするというリーガルリソース(司法資源)の活用も積極的に検討してほしいと思います。



【注※】 親の扶養義務の根拠を民法820条とする説もありますが、いずれにしても、親が子どもに対して生活保持義務を負っているということは争いがありません。




【取材協力弁護士】
本田 麻奈弥(ほんだ・まなみ)弁護士
2007年弁護士登録、第一東京弁護士会所属。家事、渉外事件などを取り扱い、外国人事件・難民事件にも取り組む。2011年に人権擁護委員会・外国人部会長(第一東京弁護士会)を務め、現在は日弁連の人権擁護委員会第6部会(国際人権問題及び戦後補償問題に関する検討部会)部会長に就任するなどして活動している。
事務所名:いずみ橋法律事務所
事務所URL:http://izumibashi-law.net/index.html