2021年02月12日 10:21 弁護士ドットコム
従業員の労災を隠す企業もあれば、申請をうながしてくれる企業もあります。
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今回、紹介するのは、「ハチに刺されて労災がおりた」という会社員のケース。当初は「労災にならない」と思っていたそうです。
冬場であれば、「ポットの熱湯が手にかかった」といった場合でも、労災が認められたことがあります。
機械加工の会社で働く高橋さん(仮名)がハチに刺されたのは、昨年8月のことでした。
ーーケガをした状況を教えてください
処理室で作業中に、突然、カサッとした感覚を首元に感じ、手で払おうとしました。直後に鋭い痛みが襲ったので、ハチだと考え、とにかく、体からひっぺがさないといけないと思いました。
首にいる虫をウエス(布)で捕まえてみると、体長3センチほどの女王アリに似た虫でした。あとで調べたところ、「トゲアシオオベッコウ」というハチでした。
すぐに報告した上司が、病院に連れていってくれました。
ーー病院での処置は?
ハチの毒性が弱いことから、患部に軟膏を塗り、抗アレルギー薬を処方されました。
上司も高橋さんも当初、以下のような理由から、「労災にならない」と考えていたそうです。
・高橋さんの仕事が、虫駆除などの業務ではない ・屋外作業ではなく、屋内の作業場で刺された
そこで高橋さんは、約1700円の医療費を自腹で支払いました。
それから数日後、総務から「労災が認められます」と言われた高橋さんは、上司に労災申請の書類記入を頼むとともに、病院で医療費を返してもらったそうです。
会社の掲示板には、ハチに刺された件と、対策として職場の出入り口に網戸を張ったことが、張り出されました。
半年たっても労基署から連絡はありませんが、総務からは「高橋さん個人の負担が必要な場合は、会社にその旨の通知が届く。今回は通知がないため、労災は認定されたということでよい」との説明を受けたそうです。
「私と上司は半日、仕事をストップさせています。痛いし、仕事も止まってしまえば泣きっ面にハチ。安くても労災が認められてよかったです」
今回のケースでは、労災が認められたようだが、どのような場合に、労災が認められるのだろうか。杉山和也弁護士に聞いた。
ーー高橋さんには「労災の申請が認められた」ことがハッキリと通知されていません
一般的には、厚労省から、支給決定通知という書類が届きますが、直接、医療機関に振り込まれた場合や一部支払の場合などは、支給決定通知を発送しない取扱もあるようです。もっとも、担当の労基署に問い合わせれば、回答してくれるはずです。
ーー仕事中、ハチなどの虫に刺されてケガをした場合、労災補償の対象として認定されるためのポイントを教えてください
(1)使用者の指揮命令権に服している間に起きた出来事か、(2)その業務から通常起こりえる事故といえるか、の2点から判断されます。
まず、(1)については、通常は業務中であれば認められますので、休憩中や終業後の事故について、該当性が問題になります。
(2)については、およそ虫に刺されることがあり得ない仕事だといえない限り、認められるのではないでしょうか。
宇宙ロケットなど特に機密性の高い工場での仕事であれば、ハチに刺されることはないでしょうとなります。そうでもなければ、ハチに刺されることがないと言えない仕事はなかなかないと思います。
ーーハチに刺されて労災が認定されるケースは珍しいのでしょうか
私は聞いたことがありません。ただ、沖縄、九州エリアにおいて、農林業や建設業など、屋外での業務中にハブ、マムシに噛まれて怪我をしたことで、認められたというケースはよく聞きます。
ーーほかにどのような労災認定事例があるでしょうか
今のような寒い冬の季節であれば、工事現場の車中で暖をとっている最中に、雪が車の排気口を塞ぎ、一酸化炭素中毒になったという事例で、労災が認められるケースはあります。
あとは、「風で飛ばされた帽子を追いかけ、車にはねられた」「お茶を入れようとしてポットの熱湯が手にかかった」などの事例で労災が認められたことがあります。
【取材協力弁護士】
杉山 和也(すぎやま・かずや)弁護士
労働事件を中心に、中小企業の法務、相続、離婚に注力。特に、解雇・パワハラ・セクハラ問題について取扱多数。「オーダーメイドの法律事務所」として、一人ひとりの依頼者に寄り添いながら、ぴったりの解決方法を提案することをモットーとしている。
事務所名:鳳和虎ノ門法律事務所
事務所URL:http://www.houwatoranomon.com/