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法務省の「難民いじめ」が悪化する? 国連勧告を無視する入管法「改正」に懸念

2021年02月11日 10:01  弁護士ドットコム

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迫害から逃れてきた難民や、日本で結婚して家族がいるなど、さまざまな事情で帰国できない外国人たちが、在留資格を与えられず、法務省・出入国在留管理庁(入管)の施設に長期収容されている。


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国内外の批判が高まる中、法務省は今国会に入管法改正案を提出することを検討しているが、その改正案はむしろ問題をより深刻化させてしまう――。全国の弁護士会がそんな反対の声を上げている。(ジャーナリスト・志葉玲)



●入管法改正というより「改悪」?

法務省・入管による外国人の収容をめぐっては、2年以上の長期収容が常態化するなど、大きな問題となっている。



精神的に追い詰められた収容者たちの自殺未遂が頻発しているうえ、体調が悪化しても適切な医療を受けられなかったり、入管職員による暴力やセクハラがおこなわれるなど、虐待事案も数多く、収容者や支援団体から告発され、国賠訴訟となるケースも少なくない。



2019年6月には、大村入管管理センター(長崎県)で、長期にわたる拘束に抗議するハンガーストライキ中のナイジェリア人男性が餓死するという痛ましい事件も起きた。



国内外の批判を受け、法務省は、法務大臣の私的諮問機関である「収容と送還に関する専門部会」の提言をもとに、収容に関する制度見直しのため、法改正を検討中だ。



具体的には、次のような内容が盛り込まれる見込みだという。




(1)送還を拒否した人に対する刑事罰を与える「退去強制拒否罪」(仮称)の導入
(2)難民認定の複数回申請者を強制送還できるようにする例外規定の新設
(3)入管庁が認めた団体や弁護士らの監理のもとで社会生活を認める「監理措置」制度(仮称)の導入




しかし、これらは、日本の入管行政が抱える本質的な問題を解決するものではなく、むしろ状況を悪化させるものだとして、全国の弁護士会から批判が相次いでいる。



●「裁判を受ける権利」を侵害

どのような批判・反対の声があがっているのだろうか。



まず、(1)「退去強制拒否罪」(仮称)については、各地の弁護士会が反対している。収容者の餓死事件が起きた「大村入国管理センター」のある長崎県では、長崎県弁護士会が刑事罰に反対する声明を発表した。



「退去強制令書の発付を受けた者の中には、日本で生まれ育ったことや日本に居住する家族を有することを理由として在留特別許可を求める者や、難民に該当するにも関わらず難民認定されないため、やむを得ず複数回の難民認定申請を行う者等、正当な権利行使を行おうとする者が含まれる。退去強制拒否罪の創設は、これらの者を処罰対象とする危険性があり、到底容認できないものである」



(長崎県弁護士会)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に基づく刑事罰導入等に反対する声明
https://www.nben.or.jp/archives/2721/



また、九州弁護士連合会も声明を発表している。この中で、入管から退去強制令書を発令された外国人が、不当だとして裁判で争ったケースで「国の敗訴が確定した判決が2016年から2018年までに26件存在する」として「送還忌避罪等(=退去強制拒否罪)の創設は、このような人々の裁判を受ける権利を奪うおそれもある」と指摘されている。



(九州弁護士会連合会)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に強く反対する理事長声明
http://kyubenren.org/seimei/200911seimei.html



●本当に「制度濫用」? 難民条約にも抵触

(2)難民認定の複数回申請者を強制送還できるようにする例外規定の新設については、法務省・入管がくり返し主張してきた「難民認定申請の審査中は強制送還できないことを利用した制度の濫用がある」という"決めつけ"に基づくものと言えるだろう。



この例外規定に対しても、各地の弁護士会が批判している。たとえば、札幌弁護士会は声明の中で、本来保護されるべき難民が難民として認められていないことを問題視している。



「そもそも、日本における難民認定率は2011年以降0.5%以下であり、諸外国に比べて極めて低く、現在の難民認定申請の手続自体が適正に実施されているとはいい難い状況にあることをまずは問題視すべきである。



いま優先して検討すべきことは、難民認定制度の改善であって、不適切な制度のもとで、難民として認定されず、やむを得ず難民認定を複数回申請せざるを得ない者を難民制度の濫用者等とみなして、送還停止効の例外を創設して適用することではない」



(札幌弁護士会)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明
https://satsuben.or.jp/statement/2020/12/07/237/





また、仙台弁護士会も「複数回申請であることなどを理由として安易に送還停止効の例外を認めることは、誰一人として迫害を受けるおそれのある領域に送還してはならないという『ノン・ルフールマンの原則』(難民条約33条1項)に抵触する可能性が極めて高い」として、日本も加盟する難民条約違反を懸念している。



(仙台弁護士会)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明
https://senben.org/archives/8809



茨城県弁護士会も「難民認定申請者が本国に送還された場合、その後の迫害や拷問等により、難民認定申請者の生命・身体等が侵害されるおそれがあり、その結果は言うまでもなく重大である」と危惧している。



(茨城県弁護士会)「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に関する会長声明
https://www.ibaben.or.jp/wp-content/uploads/2020/12/20200824-sokan.pdf



●外国人と弁護士・支援者との関係にも悪影響

(3)入管庁が認めた団体や弁護士らの監理のもとで、社会生活を認めるという「監理措置」制度(仮称)にも、批判的な意見は少なくない。東京弁護士会は、その声明の中で、以下のような問題点を指摘している。



「入管庁が監理人を指定し、報告義務を課すことは、監理人を入管庁の監督下に置くことを意味し、例えば弁護士が監理人となった場合は、守秘義務違反や利益相反の問題を生じさせることになる。



また、弁護士以外の支援者が監理人となる場合も、これまでの自然的情愛に基づく支援者と被支援者の関係性が、入管庁の監督権限を背景に、監理する側とされる側という、支配・被支配の関係性へと変容を迫られる。



監理措置の導入は支援者らの活動のあり方にまで影響を及ぼすことになる」



(東京弁護士会)入管法に「監理措置制度」を導入することに反対する会長声明
https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-597.html



●国連人権委、日本の入管制度を批判



日本の難民鎖国ぶりや長期収容に対しては、国際社会からも厳しい視線が向けられている。



昨年8月には国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が、難民認定申請者2人の長期拘束について「国際人権規約に違反する」とする意見を採択した。



同部会は「拷問禁止委員会や人種差別撤廃委員会等の条約機関から、日本は10年以上にわたり入管収容の長期化や司法審査の欠如などについて繰り返し勧告を受けてきた」「日本では入管収容に関して差別的対応が常態化している」と厳しく批判。



この意見を受けて、日本弁護士連合会(日弁連)も声明を発表して、国際法の遵守を求めている。



「伝えられるところによれば、(入管法の)改正案では、収容期間に上限を設けず、司法審査の機会も確保しないなど、本意見が明確に国際人権法違反であると指摘している点については改善される見込みがない。



当連合会は、日本政府が本意見を真摯に受け止め、個人の救済と入管法改正を含む現在の入管収容制度の見直しに取り組むよう求めるとともに、日本政府が国際社会の一員として国際法を遵守するよう強く要請する」



(日弁連)入管収容について国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を真摯に受け止め、国際法を遵守するよう求める会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/201021.html



法務省・入管は、各地の弁護士会や日弁連、国連の人権関連の各委員会の指摘をしっかりと受け止め、法改正に反映すべきだろう。