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兵庫県職員が業務ミス、約300万円を個人で賠償 弁護士は「訓告処分を受けているのに半額請求はやりすぎ」

2021年02月09日 14:50  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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仕事中のミスで大きな損害が生じた場合、加害者個人がどのくらい賠償する必要があるだろうか――。兵庫県庁の貯水槽で排水弁の閉め忘れがあり、約600万円の水道代が余計にかかったことが2月9日までに分かった。点検を担当した50代の男性職員がこのうち約300万円を負担したという。

県によると、閉め忘れがあったのは2019年10月。委託業者の年1回の点検後に閉め忘れがあり、水道使用量の増加を不思議に思った水道局から連絡があるまで約1か月間にわたり気付かなかった。

報償責任の原理は「利益があるところには損害が生じる」


点検に立ち会った男性職員が「あとは私が行う」などと委託業者を帰したにもかかわらず、排水弁を閉め忘れていたことから、県は男性職員の責任が重いと判断。昨年11月に男性職員を訓告処分にし、さらに他府県の判例や顧問弁護士の意見を踏まえて、職員個人に損害額の半額を賠償請求した。男性職員は同年内に支払いを完了したという。

県は再発防止策として「点検担当の職員を一人増員して履行確認を強化するとともに、閉め忘れを防止するために分かりやすい表示を掲示します」などとしている。

損害は大きかったものの、わざとではない業務中のうっかりミスを職員個人に賠償させるのはどうなのか。はてなブックマークでは「300万円を職員個人に賠償請求って、ちょっと個人の負担が高額すぎやしない?」「個人が払う必要ないよね?」などと疑問の声が多数挙がった。

東京法律事務所の今泉義竜弁護士は「金額としてはあまりに大きい。報道からすべてが分かるわけではないが、それほど重大な過失かなという気がします」と印象を話す。

「ミスは人間誰もがし得るものです。業務上、起こり得るミスであれば、賠償請求は原則できません」

「報償責任」の原理とは、使用者が労働者を雇って利益を上げている場合、労働者による損害を負担すべきという考え方だ。今泉弁護士は「利益があるところには損害が生じるという考え方」と説明し、労働者のミスについて賠償請求することでは基本的にはできないとする。

「多額の賠償は認められないし、すべきでもない」

一般的には法律上のルールでは、故意(わざと)、過失(うっかり)にかかわらず、他人に損害を与えた場合は、生じた損害を賠償しなければならない。だが、使用者と労働者の関係においては「故意」「重大な過失」を除いてこれが当てはまらないという。

「職員の横領や重大な過失の場合は、損害の一部を賠償請求できます。ただ、その場合でも全額を請求することはできません」

過失の程度が重大な場合、大きさによって負担する金額は変わってくる。今泉弁護士は「今回のように悪意もなく、たまたま生じたミスであれば、多額の賠償は認められないし、すべきでもない」と話す。また、適当な負担割合に関しては「なかなか難しい」としながらも、

「今回は訓告処分も受けているので、賠償請求するとしても損害額の10分の1程度のレベルだと思います。いずれにしても、半額はやりすぎでしょう」

使用者は、労働者のミスは起こり得ることを前提として仕事を任せるものだ。ミスを防ぐための体制は十分だったと言えるだろうか。今泉弁護士は、組織側の責任を指摘する。

「職員1人に担当させたり、1か月間にわたりミスに気付かなかったりなど組織的なチェック体制がずさんだったと言わざるを得ない部分もあります。組織がより責任を負うことが適当でしょう」

とコメントした。