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どんどん増える電気のクルマ! 「PHEV」って何だ? 第1回 これから増える? 「PHEV」とはどんなクルマなのか

2021年02月09日 08:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日本でも、ガソリンのみで走る新車の販売が禁止に――。ここへきて、クルマの電動化が急速な進展を見せている。次に買うべきはハイブリッド車(HV)か、それとも電気自動車(EV)か……。そんな悩みを抱えている人に知って欲しいのが、「PHEV」というクルマだ。

○PHEVはハイブリッド車の1種

この先、電気自動車(EV)とあわせて選択肢が増えていくと思われるのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)だ。PHEVは「プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ヴィークル」の頭文字をとった略称。「プラグイン」は「充電できる」こと、「ハイブリッド」はエンジンとモーターの両方を使うクルマであることを意味し、「エレクトリック・ヴィークル」は電気自動車であることを表している。

PHEVは外部から充電することができて、EVのようにモーターでも走行できる電動車だが、分類上はハイブリッド車(HV)ということになる。なので、まずはHVについての解説から始めたい。

HVには「マイルドハイブリッド」と「ストロングハイブリッド」がある。ストロングハイブリッドは単に「ハイブリッド」と呼ばれることが多い。

マイルドハイブリッドはエンジン車に近い。走行はエンジンで行い、電力はアイドリングストップからエンジンを再始動する際などに使用する。減速のときにはモーターを使って電力を回収し(これを回生という)、バッテリーに溜める。ここで使うモーターは「ISG」(モーター機能付き発電機)と呼ぶ。エンジン車はもともと、交流発電機として使えるモーターを装備していて、そこで作った電気を12ボルトの鉛酸バッテリーに充電しているが、ISGはこのモーターを改良したものだ。

ISGがモーターにも発電機にも使える理由は、モーターと発電機が同じ機構から成り立っているからだ。電気を流せばモーターとして力を発揮するし、外から力が加われば発電機として電気を作ることができる。

一方のストロングハイブリッドは、ISGよりも本格的なモーターを交流発電機とは別に搭載するクルマだ。もちろんそのモーターも、発電機としての機能を併せ持つ。

発進の際、マイルドハイブリッドだとすぐにエンジンが掛かってしまうが、ストロングハイブリッドはモーターのみで静かに動き出すことができる。さらに加速しようとアクセルペダルを深く踏み込むとエンジンが始動し、その後はモーターとエンジンの両方を使って走る。その結果、燃費がよくなる。

モーターの特徴は、発進のときに大きくて強い力を発揮できることだ。一方のエンジンは、発進ではあまり大きな力を出せず、そこで燃料を余計に消費する。エンジンが苦手なところをモーターで補い、余計な燃料消費をさせないようにしたのがHVだ。また、急加速の際もエンジンは燃料を多く消費するので、そこをモーターが補助することで燃費を抑える。

一言でHVといっても、モーターとエンジンの使い方にはいくつかの種類がある。

走行はモーターのみで行い、エンジンは発電だけに使う方式を「シリーズ式ハイブリッド」と呼ぶ。日産自動車の「e-POWER」がこれにあたる。モーターもエンジンも走行に使う方式は「パラレル式」といって、スバルの「e-BOXER」はこの方式だ。同じように、モーターとエンジンを走行に使いながら、2個目の別のモーターで走行中も発電をできるようにしたのが「シリーズ・パラレル式」といって、トヨタの方式がこれにあたる。

○PHEVの魅力とは

PHEVは、HVが発進のときに行うモーター走行を、EVのように拡大したクルマである。HVより多くのリチウムイオンバッテリーを車載していて、外部から充電することができる。あらかじめ充電しておけば、その電力でモーターを回すことにより、数十キロから100キロ近くをモーターだけで、あたかもEVのように走ることが可能だ。その間は、排出ガスをゼロにできる。

国産車のPHEVには、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」、同「エクリプス クロスPHEV」、トヨタ「プリウスPHV」、同「RAV4 PHV」などがある。

三菱自動車はEV「i-MiEV」の技術を応用してPHEVを作っているが、トヨタはHVの「プリウス」をベースにしているため、車名をあえて「PHV」としている。「プラグイン・ハイブリッド・ヴィークル」の意味で、「エレクトリック」という言葉を省いているのだ。

PHEVの発想は、どのようにして生まれたのか。

EVは、モーター駆動により走行中の排出ガスゼロを実現するが、リチウムイオンバッテリーに充電した電気を使い切ったら走行できないので、それまでに充電しなければならない。1回の充電で走行できる距離は300キロ~400キロというのが現在の水準だ。

そこへいくとPHEVは、モーター(電気)のみの走行距離は数十キロ~100キロくらいであるものの、そこから先はHVとして、エンジン(ガソリン)を使いながら走り続けることができる。充電しにくい状況であっても、エンジン車と同じように、ガソリンを給油しておけば走り続けられるのだ。いわば、EVの充電に対する不安を解消したのがPHEVだ。

PHEVのモーター走行距離はEVの1/4かそれ以下でしかないが、世界的に、多くの人が日常生活でクルマを利用する距離は40キロ前後といわれている。日々の利用を考えれば、PHEVでも走行中の排出ガスをゼロにできる。そのうえPHEVならば、原価が高いとされるリチウムイオンバッテリーの車載量をEVよりも少なくすることが可能なので、新車価格はEVよりも低く設定できる。PHEVの魅力は、EVのような走り方が可能でありながら、EVよりも安い価格設定にあるといえる。

ただし、いずれにしても、EVと同じく、自宅でクルマを充電できることがPHEVの利用条件のひとつになるので、マンションなどの集合住宅に住んでいて、自宅に充電設備を設置できない人にはHVで十分だろう。当然ながら、PHEVはリチウムイオンバッテリーを余計に車載するので、HVよりも車両価格は高くなる。

PHEVを自宅で充電しながら使える人は、月々の電気代がガソリン車の燃料代に比べて半分以下になるはずだ。その差でHVとの価格差を埋める(元を取る)ことは難しいかもしれない。それでも、EVのような走りを日常的に体験できることは、PHEVがもたらす新しい価値だといえるだろう。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)