2021年02月08日 10:32 弁護士ドットコム
自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」をめぐる事件で、東京高裁がウェブデザイナーの男性に罰金10万円の支払いを命じる逆転有罪判決を言い渡してから2月7日で丸1年を迎えた。
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これはコインハイブを設置した男性が、不正指令電磁的記録保管の罪(通称ウイルス罪)に問われたものだ。
弁護側は、最高裁に上告している。審理は通常書面でおこなわれ、上告理由等がないと判断された場合は上告が棄却されるが、高裁判決を見直す場合や当事者の話を聞く場合などは口頭弁論が開かれ判決が言い渡される。
今後、最高裁で口頭弁論が開かれるかどうかが当面のポイントとなる。
コインハイブの一斉摘発が明るみに出たのは、2018年6月のことだった。警察庁によると、2018年中に28件21人が検挙されている(2019年3月8日衆院法務委員会)。
ウェブデザイナーの男性の弁護人をつとめる平野敬弁護士は、男性の他に4人からコインハイブにまつわる相談を受けていた。4人はいずれも公訴時効(3年)が成立し、不起訴が確定したという(公訴時効は犯罪行為が終わったときから進行する)。
この不起訴処分について、平野弁護士は「ウェブデザイナーの男性の事件が影響しているのは明らか」と指摘する。
「この事件が話題となる前に、すでに略式手続などで処分を受けた人は複数います。
検察としては、以前はコインハイブが不正指令電磁的記録にあたることは明らかだと考えていたものの、男性が正式裁判を請求して審理が進み、世論や学界でも議論が深まるにつれて、必ずしも楽勝とは言えないと判断を軌道修正したのではないでしょうか」
最高裁の審理には、数年かかる場合もある。最近では、芸術家のろくでなし子さんの事件が、上告から3年の月日を経て棄却された。平野弁護士も「長期戦を想定している」と話す。
もし棄却されれば、逆転有罪の高裁判決が確定となる。コインハイブのサービスは2019年3月に終了しているため、今後コインハイブをめぐる「不正指令電磁的記録保管罪」の解釈について法廷で争われることはないだろう。
平野弁護士は「今後の産業発展のためにも、最高裁において充実した審理がなされるよう望みます」と話す。
「不正指令電磁的記録に関する罪については教科書の記載も薄く、判例や学説の蓄積も乏しく、理論・実務とも非常に未熟です。何が違法なプログラムで何が合法なのか、明確な判断基準がないと、技術者は安心して開発がおこなえません」