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トマトの酸辣湯、塊肉のシンプルポトフ……料理家365人によるとっておきの“スープレシピ”に挑戦!

2021年02月07日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

塊肉のシンプルポトフ

 スープって、懐が広くて、季節を問わず食べたくなる料理だ。寒くなると一段と恋しくなるあのあったかさ。夏の暑い盛りには、クーラーで冷えたからだをやさしくあたためてくれ、バテた体をたっぷりの栄養で立て直してくれる。


 パートナーを選ばない自由さもかっこいい。ごはんにもパンにも合うし、ところ変わればパスタ、中華麺、はたまた米麺と相棒を変え、いたるところで人々の胃と心をつかんで世界中でモテモテだ。もし宇宙人に地球の名物料理をごちそうする機会があったら「鶏ガラにコンソメ、シンプルに塩や醤油、魚醤ベースもございます」なんて、手始めに各国のスープを紹介したいぐらいだ。


 それだけ世界中で親しまれている料理で種類も豊富。なのに、なぜか毎日スープや汁物を作るとなると直面するのが「レパートリー問題」ではないだろうか。私は日々、家族の料理番長を務めているが、いざ自分で作るとなるとどうもマンネリ化してしまうのだ。


関連:トマトの酸辣湯、厚切りベーコンとかぼちゃのスープなどの写真


■365人のスープ・イズムが詰まった一冊


 最近、それを打破してくれる本に出会った。その名は『365日のスープ 365人の「とっておきレシピ」をあつめました(maraconi / KADOKAWA)』。タイトル通り、これは特定の料理家の著書ではない。インスタグラムで「#ごちそうおにぎり」ブームを巻き起こしたTesshiさん(@tmytsm)や、人気ブロガーのMizukiさん(@mizuki_31cafe)ら、総勢365人もの料理家たちからスープレシピを集め、カレンダー形式で365日分のメニューを提案するユニークなコンセプトのレシピ本なのだ。2019年11月に発売されて以来、絶えず重版されているというから、今なお書店に面出しされているのも頷ける。


 ある人は時短でパパッと作れる簡単レシピを、またある人は旬のおいしさを見事に切り取った自慢のスープレシピを提案する。自分では思いつかない食材の組み合わせや、味つけの新鮮さなど、365人分のスープ・イズムがそこかしこで炸裂し、ページをめくる手が止まらない。


“子供たちも食べやすい定番野菜をポタージュスープに。すご~く簡単です♪(5/10 春野菜のコンソメポタージュ @miho.favorite_time)”


“私たち夫婦はお酒が好きなので、週末はパンとしじみのスープで心と体を休めています。(7/20 しじみと豆乳のスープ @quiestla7)”


“家族が風邪を引きかけると作るスープ。喉越しがよく、さめにくいので体が温まります。(12/1 ふわふわ卵のガーリックスープ @yumiyum100)“


 スープで自分や家族を労わる作り手の暮らしまで垣間見えて、こころが温まる。


 私はつねづね、ごはんを食べによその家をシャモジ片手に回るヨネスケさん的ツアーをしてみたいと思っているのだけれど、365人それぞれのアイディアをまとめた本書があれば、あとは材料を手に台所に立つのみでさまざまな「人んち」の料理が味わえることになる。コロナ禍によりホームパーティーも減り、自炊の味にもちょっと飽きてきた今「人んち」のごはんを作るのは、気分転換にもうってつけの手段に思えた。というわけで家族のリクエストも受けつつ、まずは365のレシピから6品を作ってみた。カレンダーの日付と作者のインスタグラムアカウント名を添えて、以下に紹介していこう。


■9/7 トマトの酸辣湯(サンラータン)スープ


 鶏ガラスープと塩、酢、しょうゆだけであまりにも簡単に味つけできる酸辣湯。手軽さのあまり連日作り、2日目はパクチーをオン、ごはんをドボン。3日目はチキンフィレサンドのサイドにし、アメリカンチャイニーズ気分で楽しんだ。


 ギュンと効くお酢の酸味と絹ごし豆腐のつるんとした口当たりは、食欲のない夏にもきっとぴったりだろう。後がけラー油で辛さのパンチを好きに繰り出せるのも、子どもがいる我が家には高ポイントだった。


■10/7 チキンときのこのクリームスープ


 次に作ってみたのは、クリームシチュー一歩手前!という絶妙なゆるさのスープに香ばしくソテーした鶏肉がマッチした、秋のごちそう系メニュー。


 なぜか、秋というと急にセーターから焼き菓子から何から何までざっくりしたものを連想してしまうのだが、主食にざくざくしたビスケットを合わせたらどうかな?と試してみたらベストマッチ! 思わず、カラリと晴れた秋の空に思いを馳せてしまった。


 ホワイトソースいらずなのも嬉しいレシピだ。


■12/23 にんじんとしょうがのスープ


 どうやらにんじんはスープと相性が良いようで、巷にはさまざまなにんじんスープのレシピがある。こちらはちょっと珍しいしょうが入りタイプ。それも一片分のすりおろしが入るため、体がポカポカ温まる。


 オレンジの絞り汁と玉ねぎの甘みが加わるせいか、しょうがの辛さがまったく気にならず、家族の朝ごはんでも好評を得た。スティックブレンダーを使ったら、鍋の中でガーッと攪拌でき、ワンステップ省けたことも書いておこう。


■1/26 厚切りベーコンとかぼちゃのスープ


 にんじん、かぼちゃ、ブロッコリーで結成されたβ-カロテン界のスーパーチームが一皿に介した、栄養抜群のかぼちゃベースのスープ。


 ベーコンの塩気とかぼちゃの甘味からなる甘じょっぱさが大人はもちろん子どもの味蕾にもヒットを放ち、気がつくと家族全員、最後の一滴までパンでぬぐっていた。もしうちに「野菜嫌いの子はいねがー?」とナマハゲが出てきても、即撤収することであろう。


■2/1 塊肉のシンプルポトフ


 塊肉が値下がっているのを見るとつい、デーモン小暮閣下のような笑みを浮かべて「お前もトロトロに煮込んでやろうか?」と買い物カゴに入れてしまうほど、大きいお肉が好きだ。今回はレシピの2人前×2倍量を作るべく、豚バラ肉ブロックを400g用意し、調味料などもきっちり2倍で調理してみた。


 弱火で煮込むこと30~40分ほど。豚バラ肉を調理の20分前に冷蔵庫から出して室温に戻しておいたのも功を奏したか、程よい柔らかさに仕上がった。


 ローリエ、コンソメ、塩こしょうだけの味つけなのに、野菜の甘味と豚バラの脂でコク深く、パンが止まらない。たくさん焼いておいたフォカッチャが吸い込まれるように家族の口に消えていってしまった。


■2/20 ソーセージとキャベツのミルクスープ


 ソーセージとキャベツをサッと炒め、牛乳を注いで弱火でやさしく煮込み、コンソメと胡椒で調味するだけで完成するミルクベースのクイックスープ。まだまだ寒い盛りの2月の朝、キッチンで足元が冷える間もなく完成するのが非常にありがたい。下ごしらえも「キャベツざく切り」の一手だけ。これなら、朝になかなか出てこない「やる気」もさほど必要ないだろう。


 牛乳スープにまるく引き出されたキャベツの甘みに、春はすぐそこだなあと感じたのであった。


 鍋ひとつで手軽に作れ、家にありがちな食材を活かせるのもこのスープ本の良いところ。上記の他にも、常備しているツナ缶で「ツナとじゃがいものクリームスープ」、お酒のアテに買って中途半端に残っていた瓶詰めのウニで「えびとうにの濃厚スープ」、お好み焼きで余っちゃった長いもで「長いものポタージュ」などを作ったが、どれも作者が異なるせいか、同じ本のものとは思えない個性が光っていた。特に朝食のレパートリーに悩むことが多い私は、また明日もこの本を開きたくなるだろう。


■大信トモコ
元Supersnazz、現在はTweezersとRock Juiceで活躍中のベーシスト/ライター/シュフです。趣味の料理本集めで見つけた、役立つ本を紹介します。