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どれを選ぶ? 人気の小型SUVを徹底比較! 第1回 300万円超でも納得感あり! フォルクスワーゲン「Tクロス」

2021年02月05日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日本で買える小型SUVを比較し、各モデルの魅力を探るこの特集。第1弾はフォルクスワーゲン(VW)の「Tクロス」(T-Cross)だ。2020年2月に発売となったTクロスは昨年、日本市場で最も売れた輸入SUVの座に輝いた。その魅力と気になる点を実際に試乗して探ってきた。

○小さくてもドイツ車の上質感

VWが販売しているSUVは「トゥアレグ」「ティグアン」「Tロック」「Tクロス」の4モデル。最も小さいのが2020年2月デビューのTクロスだ。コンパクトハッチバックの「ポロ」をベースとし、同社の生産モジュールである「MQB」を使用して造られたボディは、全長4,115mm、全幅1,760mm、全高1,580mm、ホイールベース2,550mm、車重1,270キロ。全長の割には少し広めの横幅と、機械式駐車場にわずかに入らない高さが少々気になるものの、日本では使いやすいサイズに収まっている。

Tクロスのグレードは、上級モデルの「TSI 1st プラス」337.9万円とベーシックな「TSI 1st」(301.9万円)の2種類。試乗したのは「TSI 1st」の方だ。オレンジのスクエアなボディと16インチのブラック系ホイールがマッチしていて、シンプルながらルックスはいい。

乗り込んでドアを閉めると、「バスンッ」と重厚な音が。欧州車、特にドイツ車であることを乗るたびごとに知らせてくれるこの音は、国産車(特に小型車)がまだまだ追いつけていないところだろう。
○シンプルかつ使いやすいインテリア

上位グレードではオレンジのアクセントカラーを多用しているインテリアだが、「TSI 1st」はシンプルなブラックで統一感がある。どのパーツにも厚みがあり材質の良さも伝わってくるので、チープな感じは全くない。

試乗車のディスプレイ周りは2眼式のアナログメーターと純正の8インチインフォテインメントシステム「Discover Pro」の組み合わせだったのだが、2020年12月以降はこの部分が変わっている。具体的には、ナビゲーションモードまで表示できるフルカラーのデジタルメータークラスターと、eSIM内蔵で常時オンライン接続ができる新世代の「We Connect」を組み合わせた8~9.2インチ画面の3種類から選択できるようになった。使い勝手や視認性は大幅に向上しているはずだ。スマートフォンによるロック&アンロックや貸し出しの際の車速の制限も可能になっているという。

センターコンソールの奥側には、Qi対応のワイヤレスチャージングスペースを用意。その手前には、今や少なくなってきた引き上げるタイプのサイドブレーキレバーが伸びている。横の運転席側にカップホルダーがあるので、長いボトルを差し込んでいると操作時に少し邪魔になるかもしれない。スターターボタンはシフトレバーの視線の先にあるので見つけにくく、ちょっと押しにくいのも気になった。

そんな細かいチェックを入れつつも、運転席からの視界はポロより約100mm高い座面と四角いボディのおかげで見切りがよく、すぐになじむ。リアシートは、開度の広いドアと200mm以上という大きめの足元空間の相乗効果によりアクセス良好。着座位置がフロントよりも少し高いので見晴らしもいい。

リアシートは60:40の分割可倒式で、前方に140mmスライドさせることができる。スライドさせればラゲッジルームの奥行きを630mmから770mmまで広げ、容積を385Lから455Lまで拡大することが可能だ。

長尺物を乗せる場合は片方のシートバックを倒せばいい。どちらも倒せば荷室には最大1,281Lの空間が生まれるので、大きな荷物も積めるはずだ。リアゲートは電動ではないので一連の操作は全て手動となるのだが、モーターの駆動時間が気になる筆者のようなせっかちなユーザーには、こちらの方が実は使いやすかったりする。

○1.0リッター3気筒の動力性能と燃費は

Tクロスのパワートレインは、最高出力116PS(85kW)/5,000~5,500rpm、最大トルク200Nm/2,000~3,000rpmを発生する排気量わずか1.0リッターの直列3気筒直噴ターボエンジン(1.0TSI)に7速DSG(ツインクラッチのトランスミッション)を組み合わせる。

走り出すと、1,500~2,000rpmという回転域を使いながポンポンとシフトアップしていって、思いのほか力強い。緩加速時のアクセルの付き具合がきちんと右足にリンクしてくれるので気持ちがいい。ボディの剛性感と高い遮音性があるので、コンパクトSUV以上のクルマに乗っているかのような「いいクルマ」感が味わえる。

DSGの伝導効率の良さに加え、細くてエアボリュームのある16インチタイヤを履いていることにより、転がり抵抗が低いという点も走りに恩恵をもたらしているのかもしれない。ちなみに、上位グレードは2サイズアップの18インチホイールを装着している。

高速走行中は、小さなボディにもかかわらず直進性がよく、どっしりとした落ち着きがある。これもドイツ車らしい美点のひとつだ。ハリのあるシートは出来が良く、疲れにくい。ロングドライブはTクロスの得意科目のひとつに入るだろう。

欲をいえば、もう少しパワーが欲しいと感じる場面もあった。例えば高回転域を使うワインディングや急加速時だ。アイドリングストップからの復帰で「ブルン」という大きめの振動と音が発生したり、早急なゼロスタート時にDSGが少し引っ掛かるような動きを見せたりするところも気になった。

燃費はWLTCモードのカタログ表記で16.9km/L。試乗では高速と一般道を7:3ぐらいの割合で走ったが、計器上は17.4km/Lを示していた。ちなみに、ゴー・ストップの少ない一般道では16.5km/Lだった。

○300万円オーバーでも納得感あり

MQBの採用により、Tクロスは上位モデルに匹敵する充実の先進安全装備を搭載している。プリクラッシュブレーキ(歩行者検知)や全車速ACC(アダプティブクルーズコントロール)、パークアシスト(駐車支援)、ブラインドスポットディテクション(後方死角検知)などは標準装備となっていて、上位グレードではレーンキープアシストやハイビームアシストまで採用している。この結果、欧州の「ユーロNCAP」(自動車の安全性に関するテスト)で5つ星を獲得しているのだ。

ルックス、走り、ユーティリティ、安全面など、全方位で納得の出来栄えを見せてくれたTクロス。VGJ広報によると、Tクロスを気に入って購入しているのは若いユーザーだけではなく、クルマに長く乗ってきたベテランユーザーには、上質な小型車への回帰という形で人気が出ているそうだ。2020年の登録台数は8,930台で、輸入SUVでは最も売れたモデルとなっているという。300万円オーバーという価格は他モデルに比べ少し高いかもしれないが、そこに問題がなければ間違いなく“買い”の小型SUVである。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)