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「一線越えた」改正特措法、歯止めなく「ゼロコロナ」まで営業制限も…弁護士が警鐘

2021年02月05日 10:11  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルス対策として進められていた新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)と感染症法の改正案が成立し、2月13日から施行される。


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改正特措法では、緊急事態宣言を発令する前でも、実効的な対策を講じられるようにするため、「まん延防止等重点措置」が新設されたことが目を引く。



この措置の下で、都道府県知事は、事業者に対して、営業時間の変更などを命令できるようになる。違反すれば20万円以下の過料となる。また、命令に伴う立ち入り検査も可能となり、拒んだ場合は20万円以下の過料となる。



今回の改正法は1月29日の審議入りから、わずかな期間で成立したが、まん延防止等重点措置については、緊急事態宣言をしなくても権利を制限できる点を懸念する声もある。危機感をあらわにする楊井人文弁護士に聞いた。



●まん延防止等重点措置は「ミニ緊急事態宣言」

——2月3日、改正特措法などがスピード成立しました。



歴史的な日になるかもしれません。ついに一線を越えてしまいました。



——どのような「一線」を越えてしまったのですか。



新設された「まん延防止等重点措置」は、国民の権利制限という面でみると、「緊急事態措置」と実質的な違いがほとんどがありません。その本質は「ミニ緊急事態宣言」です。



たとえば、緊急事態宣言下で出された営業時間の変更命令に違反した場合、「30万円以下の過料」となりますが、まん延防止等重点措置下で同じ違反した場合、「20万円以下の過料」となります。



立ち入り検査を拒否した場合にいたっては、緊急事態宣言下でもまん延防止等重点措置下でも、どちらも同じ「20万円以下の過料」です。



つまり、過料の上限額が違うだけで、従来の「要請」に従わなくても合法的に営業できる状態がなくなり、過料が課せられる可能性のある行為となる点では、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もまったく同じといえます。



そして、その「ミニ緊急事態宣言」の発動要件が極めてあいまいで、政府の主観的判断に委ねてしまっているといっても過言でない点が非常に問題です。



●「まん延防止等重点措置の解除基準、なきに等しい」

——まん延防止等重点措置の発動要件について、改正特措法はどのように定めていますか。



改正特措法は、緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置の発動要件について、次のように定めています。




【緊急事態宣言】
新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(…)が発生したと認めるとき(特措法32条)



【まん延防止等重点措置】
新型インフルエンザ等(…)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき(特措法31条の4第1項)




いずれの要件についても、最終的には政府が一方的に定める「政令」に委ねられていますが、大きな違いが1つあります。



緊急事態宣言には「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」という客観的な要件があります。



ところが、まん延防止等重点措置には、「まん延を防止する」という目的のために「まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」と判断できれば、発動が可能となっており、「特定地域のまん延状態の発生」といった客観的な要件が明記されていません。



——具体的にはどのように違ってくるのでしょうか。



現時点では、今後定められる政令でどのような要件が入るか不明ですが、この規定だと、特定地域にまん延する前から「まん延防止のための集中的対策が必要」と判断さえすれば、実施できるように読めます。



裏を返せば、まん延防止等重点措置の解除は、政府が「まん延防止のための集中的対策が必要なくなった」と判断したときにおこなえばよいことになっており、解除基準は法律上、なきに等しい状態といえます。



日本での「まん延防止のための対策が必要」とみられる状態が続く限り、論理的には「まん延のおそれ」が消滅する「ゼロコロナ」になるまで、国民の権利を制限する緊急事態体制を継続することを許容する法律になっています。




【まん延防止等重点措置の終了】
政府対策本部長は、第一項の規定による公示をした後、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、同項に規定する事態が終了した旨を公示するものとする。(31条の4第4項)




●歯止めの効かない緊急事態体制になるおそれ

——恣意的な運用が懸念されるということですね。



もちろん、たとえ新型コロナの「まん延のおそれ」が残っていても、この強制的な権利制限を伴う緊急事態体制を望まない世論が高まれば、政治的判断で解除することはあるかもしれません。



しかし、逆に言えば、「解除せずそのまま続けてくれ」という世論が支配的である限り、法律上、権利制限を伴う緊急事態体制を継続できるということでもあります。解除するかどうかは、すべては世論次第、政府のさじ加減次第となるわけです。



まん延防止等重点措置下では、「違反すれば罰則」という強制力の伴う命令ができるにもかかわらず、国会の承認決議は必要なく、従来の強制力をともなわない緊急事態宣言でさえ明文化されていた「国会の報告」も法律上明記されませんでした。



つまり、まん延防止等重点措置の発動に対する国会の歯止めは何もない状態です。



さらに、まん延防止等重点措置は「最長6カ月」ですが、何度でも「最長6カ月」の延長を繰り返せます。最長2年、延長は1回だけ最長1年の緊急事態宣言と比べて、期間の歯止めも事実上ありません。



強制力がない改正前の特措法にさえあった歯止めも取っ払われたのです。



●法律家として「警鐘を鳴らし続ける」

——今後について、どのように考えていますか。



この改正特措法により、日本社会は、何カ月後か、何年後かもわからない「ゼロコロナ」になるまで、知事がいつでも強制的に営業制限命令できるという、今までわれわれが経験したのとは次元の異なる緊急事態体制下に入ることになります。



私は、法律家の端くれとして「本当にこれでいいんですか?」と立場を顧みずに、有志とともに警鐘を鳴らしてきました。この流れを止められるとは思っていませんでしたが、やはり忸怩たる思いです。



「あのときなんでパパは黙っていたの、なんでこんな社会を作ったの」と言われないように、今後も濫用されることがないかチェックしつつ、きちんとしたチェック&バランスの歯止め、補償規定を盛り込んだ抜本的な法改正に向けて、有志とともに提言していきたいと思います。




【取材協力弁護士】
楊井 人文(やない・ひとふみ)弁護士
慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)事務局長。「緊急事態宣言に慎重な対応を求める有志の会」発起人として緊急声明に名を連ねた。
事務所名:ベリーベスト法律事務所
事務所URL:https://www.vbest.jp/