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両手と顔面の同時移植手術に成功した22歳男性「第二の人生、家族を持ち仕事もしたい」(米)<動画あり>

2021年02月05日 04:11  Techinsight Japan

Techinsight Japan

事故前のジョー・ディメオさんの写真(画像は『NYU Langone Health 2021年2月4日付Facebook「Joe DiMeo’s Face and Double Hand Transplant」』のスクリーンショット)
交通事故により身体の80%に重度の火傷を負った男性が昨年8月、米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターで両手と顔面の同時移植を受けた。同時移植が成功したのは世界初で、男性や医師がこれまでの経過や喜び、今後の抱負などについて語った。『Good Morning America』などが伝えた。

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米ニュージャージー州ユニオン郡クラーク在住のジョー・ディメオさん(Joe DiMeo、22)は2018年7月、夜勤を終えて帰宅途中に居眠りをし、車が横転、炎上する事故を起こした。

この事故でジョーさんは身体の80%にIII度の火傷を負い、ニュージャージー州の病院で約2か月以上、薬による昏睡状態に置かれた。ジョーさんは4か月の入院を強いられ、両手の指先を切断。両耳、唇、瞼を失い、視力にも影響が及んだ。形成手術は20回にも及んだが、両手の機能は戻らず、退院後ジョーさんは両親の家に移り住んだ。

ジョーさんは「医師には『もうこれ以上の手術は難しい』と告げられてね。米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの形成外科トップ、エドゥアルド・D.ロドリゲス医師(Dr. Eduardo D. Rodriguez)に両手と顔面の同時移植を勧められたんだ。そんな手術は聞いたことがなかったから、恐れというよりもワクワクした。『これに懸けてみよう』と手術を決意したんだ」と当時を振り返る。


そしてまだ世界で成功例がなかった同時移植にゴーサインを出したロドリゲス医師は、ジョーさんについて次のように語った。

「ジョーにぴったりのドナーが見つかる確率はたった6%だった。それは干し草の山の中にある一本の針を探すように難しいもので、ニューヨーク州だけでなく全米にドナーの対象を広げた。そして移植希望登録直後、我々はパンデミックに襲われたんだ。ただ移植チームがバラバラになる中で、私はいつも彼のことを念頭に置いていた。若くて、健康で、高い意欲を持つ彼にどうしてもチャンスを与えたかった。だから合間を見ては手術のリハーサルを重ね、いつでも移植ができるように準備をしたんだ。」

一方のジョーさんだが、ドナーを待つ間に貴重な出会いがあったという。それは2016年6月、24歳の時に自殺を図って顔面が崩壊した米カリフォルニア州出身のキャメロン・アンダーウッドさん(Cameron Underwood)で、ロドリゲス医師のもとで2018年に顔面移植手術を受けていた。

ジョーさんは「キャメロンさんと直に会って話すことで“希望”を見出し、『自分もこの手術に懸けてみたい。どんなことがあっても切り抜けてみせる。人生を取り戻したい』という気持ちを一層強くした」と述べており、先駆者のキャメロンさんに背中を押されたことを明かした。

こうして昨年8月、幸運にもデラウェア州でドナーが見つかり、8月12日にジョーさんの手術が行われた。

手術は16人の外科チームと80人の手術室チームにより23時間をかけて行われれ、ジョーさんには両前腕の半分から下と額、眉毛、両耳、鼻、両瞼、唇、皮膚下の頭蓋骨、頬の骨 鼻骨、顎骨の一部などを含むドナーの顔が移植された。

ロドリゲス医師によると、手術は3D技術を駆使した画期的なもので、2018年のキャメロンさんの手術よりも数時間早く終了したそうだ。手術前後にジョーさんのケアにかかわったヘルスワーカーは140人にものぼり、ジョーさんは45日を同病院で過ごした後にリハビリ施設に移った。


手術から5か月半が経ったジョーさんは、自分で着替えや食事ができるほか、飼い犬にボールを投げたりゴルフのスイングやビリヤードなどの練習も始めた。また今のところ拒絶反応はなく、経過は順調という。

ジョーさんは「まずは手を優先して、時間があればリハビリに励んでいるよ。だから予定よりも随分回復が早いんだ」と嬉しそうに笑うと、手術の成功についてこのように話した。

「手術が終わってから、ドナーの家族には手紙を書いたよ。ただ大切な人を亡くしたばかりだから、今すぐどうこうしたいというわけではないんだ。ドナーの家族に感謝したくてね。彼らに第二の人生という贈り物をもらったんだから、途中であきらめることはできないと思っている。」

「私にはやる気と忍耐がある。2年以内には自立して、家族を持ち仕事もしたい。普通のシンプルな人生を送りたいよ。」

「でも実を言うと、まだ新しい顔の実感がわかないんだ。次の目標である車の運転が可能になって、バックミラーで自分の顔を見ることができるようになったら、気持ちも変わるんじゃないかな。」


なおロドリゲス医師はジョーさんを「手術の成功を100%信じ、希望を捨てずに闘ってきた」と称え、「同時移植というのは滅多にあるものではない。手術の成功の確率が非常に低かったにもかかわらず、患者が回復していく姿を見ることは医者冥利に尽きる。チームを誇りに思う」と述べた。

ちなみに世界ではこれまでに顔面移植手術が18例、両手の移植が35例実施されているが、顔面と両手の同時移植は2例のみでどちらも失敗に終わっている。2009年に仏パリで移植を受けた女性は、1か月後に合併症で死亡。2011年の英ボストンでの手術では、両手の移植が上手くいかず、数日後に切除に追い込まれた。



画像は『NYU Langone Health 2021年2月4日付Facebook「Joe DiMeo’s Face and Double Hand Transplant」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)