2021年01月31日 08:01 リアルサウンド
2008年より連載がスタートした末次由紀『ちはやふる』。競技かるたに青春をかける高校生を瑞々しく描いている。アニメ化、実写映画化もされ大きく話題となり、「競技かるた」の普及にも貢献した作品として知られている。
競技かるたに取り組むそのひたむきな姿、言動は、キャラクターたちと同世代の高校生はもちろんのこと、社会人の心をも打つ。そんな『ちはやふる』に登場する、がんばり続ける元気を与えてくれる名言をご紹介したい。
■「“天才”より畳の上で努力し続けられるやつがいい」(第3巻)
高校でのかるた部創設のために、部員集めに奔走する綾瀬千早と千早の幼なじみ真島太一。
2人が部員として勧誘したうちのひとりが成績学年2位の駒野勉だ。しかし、最初は全く興味を示さない。なにせ、学年トップが真島。イケメンで、友達もいて、成績も良い。おまけにかるたまでできる。学年トップがかるたをしている間に、自分はもっと勉強をして……と思うだろうし、キラキラしているように見える太一が妬ましい、という気持ちもあっただろう。
興味があるならかるた部に入らないかと言う真島に駒野は「そんな才能ない」と突き放す。そこで真島が発したセリフが「仲間にするならかるたの“天才”より畳の上で努力し続けられるやつがいい」だ。
幼なじみの千早や、千早にかるたを教えた綿谷新は才能がある、と真島は思っている。しかし実際は、真島は努力して這い上がってくタイプだ。努力の辛さも努力が続けられる人の強さも知っている。
時には折れることがあっても、努力を続けてきた真島だからこそ言える言葉だ。
■「たいていのチャンスのドアにはノブが無い」(23巻)
高校3年生になり、教師を目指すことを決めた千早だが、専門教科が決まらない。そんな千早を見て、進路指導の深作先生(古典教師)がつぶやいた言葉だ。
「高校から大学への進学はノブのあるドアを選べる最後の機会だと思いまして」
「たいていのチャンスのドアにはノブが無い。自分からは開けられない。誰かが開けてくれたときに、迷わず飛び込んでいけるかどうか。そこで力を出せるかどうか」
チャンスはいつだって一瞬だ。それを逃せば、同じチャンスがやってくるとは限らない。チャンスを掴むために咄嗟に手が伸ばすことができるのは、準備ができている人だけ。自分が望んでいたチャンスを掴むためには、常に準備を怠ってはならないということだろう。
しかし、来るか分からない機会のために、頑張り続けるのは辛い道のりだ。だからこそ、本当のチャンスを掴める人は少ないのかもしれない。
■「20年経って振り返ったらいまの35の身体さえスーパーカーに見えると思うの」(37巻)
名人・クイーン戦東西挑戦者決定戦を前に、千早はかつてクイーン位を4連覇している猪熊遥に練習をつけてもらうことになる。聴力が良く、「感じの良さ」を武器としているのは千早との共通点だ。そんな遥は、競技かるたを続けつつ、今は二児の母親でもある。子どもが持つおもちゃの車を見ながら呟く。
「大学とか独身のころの自分っていま考えればこういうスーパーカーに乗ってたようなものよね。燃費も考えずどこまでも速く飛ばして」
「20年経って振り返ったらいまの35の身体さえスーパーカーに見えると思うの」
高校3年生で、“いま”スーパーカーに乗っている千早への応援の言葉だ。思いっきり気にせず走りなさい、というメッセージ。でも、35歳の自分へのメッセージでもある。
「もう年だから」と足を止めてしまうのは簡単だ。でも、“いま”の自分が一番若くて、一番頑張ることができる瞬間なのだ。年齢を理由に諦めるな、という強いメッセージが込められている気がする。
■努力を続けるのも、負けるのも辛いけれど
競技かるた日本一を目指し続けるには、絶え間ない努力が必要だ。しかし、どんなに努力をしたとしても負けることはある。努力をした分だけ、負けは悔しい。辛いけれど、悔しいからまた努力をすることができる。
前を向き続けるのは並大抵のことではない。そんなふうに頑張ることはできない、という人もいるかもしれない。一度立ち止まってしまってもいいのだ。また走り出そうとした瞬間が、新たなスタートとなるのだから。
(文=ふくだりょうこ)