2021年01月30日 09:21 弁護士ドットコム
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための緊急事態宣言がふたたび発令されて、はや三週間が経った。今回の宣言でも、相変わらず、スナックやキャバクラなど「夜の街」が標的となっているが、20時までの営業時間短縮は飲食店全般に要請されている。
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一方で、さまざまな矛盾もある。たとえば、夜のキャバクラは、時短要請の対象となっているが、早い時間帯から営業する「朝キャバ」「昼キャバ」は対象外だ。一般社団法人「日本水商売協会」の甲賀香織代表理事に現状について聞いた。(ライター・渋井哲也)
――ふたたび緊急事態宣言が発令された。昨年と違う点はあるか?
甲賀:昨年の緊急事態宣言時(2020年4月7日~5月31日)でも、一部のアンダーグラウンドな店は営業をつづけていましたが、ほとんどは4月終わりまで閉めていました。その後、ゴールデンウィークを過ぎたころ、いくつかの店が営業を再開しました。
このとき開店したところは大儲けしました。休業店のキャストも流れました。わたしたち協会も問題視して、そうならないように努力していましたが、今回も基本的には同じ流れです。昨年と同じ過ちが繰り返されようとしています。
――感染防止徹底宣言のステッカー「レインボーマーク」が飲食店で普及している。
甲賀:レインボーマークの概念は良かったのですが、運用の仕組みが定まらない状態でスタートしたのが、間違いだと思います。第三者によるチェックが必要です。たとえば、『GoToイート』のときに関連サイトと連動していたように、もともと接点のあるグルメサイトやキャバクラ情報サイトなどを運営する企業に調査を依頼することができたのではないでしょうか。
前回の宣言解除後に、業界では、感染防止対策にお金をかけました。しかし、それによってお客が増えたわけではありません。歌舞伎町の感染者ゼロという日もありましたが、行政・マスコミが取り上げることはありませんでした。となれば、感染対策に手間とお金をかけても意味がないという経営判断になることも理解できます。
――オンライン配信のキャバクラも登場していたが、その後どうなったのか?
甲賀:オンライン配信は、総じてうまくいかなかったですね。お客からすれば、似て非なるもので、キャストたちが生活費を稼ぐのは難しかったようです。もちろん、うまくいった人もいますが、みんなが参入できるかというと、現実的ではなかったということです。
――この間、マッチングアプリでは、パパ活する女性が増えたような印象がある。
甲賀:店の管理体制が崩れた結果、パパ活やギャラ飲みに参入するキャストが増えました。結局、どこかの飲食店を使っているので密であることは変わらないどころか、店舗での営業と違い管理責任が曖昧なので感染対策も杜撰であるケースも多いうえに「感染経路不明」の根源である可能性は大いにあります。
売れっ子のキャバ嬢だった女性も、パパ活やギャラ飲みをはじめています。パパ活やギャラ飲みをする女性のレベルがあがる一方で、ギャラそのものは下がっているようです。
また、以前にも増して「昼職」への転職希望が増えています。一方で、企業側の採用基準は上がっており、実際の面接では「本当は採用していない」と言われることもあるとか。あと、生活保護の相談もありますが、役所の窓口担当者に「今まで稼いでいたんでしょ?」と言われるなど、受給までには厳しい道のりがあります。
――1月7日の菅義偉首相の会見当夜、わたしは新宿・歌舞伎町を歩いたが、新型コロナに慣れてしまったのか、ほとんど人出は減っていないように感じた。
甲賀:本来規制すべきは人の動きです。ならば、すべての店が動きを止める仕組みにすればいいはずですが、行政は「モラル」で締め付けています。一方で、営業をつづける店側は「雇用を守る」という、ある種の正義感があります。そうなると、行政と敵対関係になります。だから、行政には、「モラル」の問題とするのではなく、現場の声を聞いたうえで判断してほしいです。現状を正しく把握しないまま、対策を立ててもうまくいきません。
――緊急事態宣言が発令されても、水商売で働きつづけなければいけない層がいる。
甲賀:もともと諸事情により「目先のお金」を、求めて業界にいらっしゃる方は多いですが、今はまさにほとんどが、生活費をここでしか稼げない切羽詰まった方々です。なぜなら、業界全体で売上が激減した今、給料も激減し、一般的なOLとさほど変わらない給料しかもらえないからです。たとえば、授業料を自分で稼いで学生やシングルマザー、昼職を解雇されてしまった方などです。コロナ禍前に華やかな高級取りだった方々は業界からすでに離れている方は多いです。
――時短要請の標的とされた業界としては、どのように感じているのか?
甲賀:突っ込みどころが満載だと思っています。特に「時短要請」という言葉がしっくりきません。20時までの時短は、業界にとっては、事実上の休業ですから、「休業要請」と言われたほうがすっきりします。
また、1店舗あたり一律6万円の協力金には不公平感があります。納税額に応じた金額の算定、家賃相当分などが妥当と思います。それに、持続化給付金の場合、前年との売上比較でした。協力金もそうしたほうが良いのではないでしょうか。
都の言い分としては、持続化給付金と同じようにすると支払いが遅くなるということでした。しかし、いずれにせよ、支払われるのは夏になるという話もあります。そこまで遅れるのなら、公平なほうがいいでしょう。
――業界内で足並みはそろっていないのか?
甲賀:キャバクラやスナックの中でも小さいところは、休業か時短要請に応じていますが、大型店や家賃の高い地域の店舗は時間要請に応じられません。そんな中で、「朝キャバ」や「昼キャバ」は儲かっています。「20時まで」の時短ならそうなりますよね。
協会としても、感染拡大したときに自分たちが休業というかたちで足並みをそろえることができるとしたら、どんな条件が必要かという話し合いをしていました。店が生き残り、かつ、個人の生活が最低限できる。それが両立できるものがあれば、時短要請に応じない理由はありません。話し合って提案をしようとしていたのですが、その矢先に時短要請となりました。結果として、足並みはそろっていません。
――足並みをそろえるアイデアがあるのか?
重要なキーとなるのは、新宿・歌舞伎町のホスト業界です。ホストは統制がとりやすい。合意が取れれば、大きな流れになります。キャバクラ業界でも「ホストができるのに、私たちができないのは変だ」となりますよ。
そして、歌舞伎町ができれば、六本木や銀座も同調する流れにできます。そして、銀座がならうと全国へ波及すると思います。
しかし、今回の時短要請はあまりにも急でした。そのため、十分な話し合いの場はつくれませんでした。行政から無視されているというか、疎外感すらありますよ。
――今後はどのような取り組みをしていくのか?
感染拡大の流れは長引きそうなので、銀座のママや社長たちが街や業界の今後について話し合おうとする動きがあります。銀座の接待飲食店の関係者には全店舗にお声がけをする予定です。
一方で、ホストクラブの売上は順調にで、空きテナントには、ホストの新店舗が入ったり、ビル一棟、ホストクラブが買ったりしています。クラブやキャバクラなどとの顧客層の違いですね。
しかし、そんな彼らも社会のために一時休業という話し合いに乗ってくれようとしていました。業界イメージ払拭のために彼らなりに社会倫理を優先しようとしているのです。
――現在、取り組みんでいることは?
できるだけ、飛沫や密集、換気には気をつけようとしています。しかし、一般論ではわかりますが、具体的なデータを示してほしいです。これらは同等に危険なのでしょうか。リスクの度合いが存在するのではないでしょうか。
厚生労働省に問い合わせても、換気について感染対策上の数値的指標がないというのです。指標がない以上、風営法の規定上、窓がない私たちは永遠に不利です。ですから、わたしたちは国立保健医療科学院と協力して、80店舗で調査しているところです。