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名前もパッケージも似すぎ? キンプリ永瀬CM出演の「ヒルマイルド」めぐりバトル勃発

2021年01月29日 11:11  弁護士ドットコム

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「ヒ・ル・マイルド~♪」のフレーズをテレビで聞いたことはあるだろうか。これは健栄製薬(大阪市中央区)が製造販売する乾燥肌治療薬「ヒルマイルド」のCMで、King&Princeの永瀬廉さんが出演したことでも話題となった。


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この「ヒルマイルド」について、処方箋医薬品「ヒルドイド」を販売するマルホ(大阪市北区)は1月21日、商標権侵害と不正競争行為があるとして、販売差し止めを求め大阪地裁に仮処分を申し立てた。



「ヒルマイルド」は「ヒルドイド」と名称が似ているだけでなく、パッケージも同じピンク色だ。そのため、ネットでは「どちらも同じ会社の製品だと思っていた」、「最初薬局でも普通に買えるようになったんだと思った」という声が上がっている。



●美容目的の使用が問題となった「ヒルドイド」

処方箋医薬品「ヒルドイド」はかつて、美容目的にもかかわらず、保険適用で処方されるケースが問題となった。1回の受診で大量に処方された例も確認され、医療費の増加につながるとして、2017年には厚労省で処方を制限するかどうかの議論がおこなわれた。





そんな中、「ヒルドイド」の主成分であるヘパリン類似物質を含む市販薬が販売されるようになった。現在、マツモトキヨシの「ヒルメナイド」シリーズ、「ヒルドイド」を製造販売するマルホとコーセーの合弁会社「マルホファーマ」が販売する「カルテ」などがある。



今回問題となっている「ヒルマイルド」も、2020年6月に販売され、薬局やドラッグストアで手に入るものだ。



●健栄製薬は徹底抗戦の構え

マルホは「ヒルドイドにかかる商標権の侵害および不正競争防止法2条1項1号に定める不正競争行為に該当すると判断した」と主張している。



一方、健栄製薬は、「ヒルマイルド」は商標登録されており、「マルホ株式会社の仮処分申し立ては誠に遺憾であり、弊社の信用と信頼を著しく傷つけ、損なう行為」と徹底抗戦の構えを示している。



はたして、今回の販売差止の訴えは、認められる可能性があるのだろうか。



知的財産権にくわしい冨宅恵弁護士は「裁判所において、『ヒルドイド』と『ヒルマイルド』が類似すると判断される可能性は十分にあるだろう」と話す。詳しく話を聞いた。



●それぞれの商標登録はどうなっている?

——まず、「ヒルドイド」の商標登録について教えてください。



「ヒルドイド」は1955年、アルファベット表記のものが、指定商品を薬剤として商標登録されました。



カタカナ表記のものは1984年、指定商品を化学品、薬剤等として登録され、その後も指定商品が化粧品などにも拡大されているマルホの登録商標です。



そして、マルホは、登録商標「ヒルドイド」を、処方医薬品であるヘパリン類似物質製剤の名称として使用しています。



——では、「ヒルマイルド」の商標登録はどうなっていますか。



「ヒルマイルド」は2019年10月10日、指定商品を薬剤として出願されました。早期審査制度が利用されて、2020年6月30日に商標登録された健栄製薬の登録商標です。





その後、アルファベット表記のものや、指定商品を化粧品とした出願も行われ、登録が認められています。



——「ヒルドイド」は先に商標登録されていますが、「ヒルマイルド」の商標登録も認められているのですね。



商標法では、他人の登録商標と類似する商標を、同一または類似の指定商品を指定して登録することができないと規定されています。



「ヒルドイド」という登録商標が存在する前提で、「ヒルマイルド」の商標登録を認めたということは、審査した審査官は、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」が類似しないと考えたことを示しています。



「ヒルマイルド」の出願は2019年10月10日に行われ、2020年6月29日に「ヒルマイルド」という商品名で、ヘパリン類似物質製剤の販売が開始されました。その後、2020年6月30日に「ヒルマイルド」の商標登録が行われています。



特許庁の判断は販売開始以前に示されており、健栄製薬は、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」との特許庁の類否判断を確認した上で、「ヒルマイルド」という商品名を使用しているという事情がうかがえます。



●裁判所で特許庁と異なる判断がされる可能性も

——「ヒルマイルド」は特許庁の「お墨付き」とも捉えられそうですが、あとから裁判所でダメと判断されることはあるのでしょうか。



裁判所と特許庁では、判断の際に考慮する資料に差があるため、特許庁の審査官が行った判断とは異なる判断が裁判所において行われるという可能性はあります。



裁判所で行われる商標の類比判断は、登録商標と使用されている商標とを、机上で比較するだけでなく、裁判所に提出された証拠に基づいて、具体的な取引の実情をも考慮して行われます。



一方で、特許庁における審査官の審査は、資料や時間的な制限との関係で、取引の実情を検討した上で行うことが事実上できません。



健栄製薬は、特許庁の審査官の判断を経て、「ヒルドイド」という登録商標を侵害しないとの判断のもと「ヒルマイルド」という商品名を使用しているのだと思います。



登録商標と類似すると判断される可能性がある商品名を使用する場合に、事前に商品名を商標出願しておいて、特許庁で商標登録が認められた場合に、その商品名を使用するということは、一般的にも行われていることです。





●商品名「ヒル〇〇〇ド」は似過ぎ?

——ネットでは名称やロゴ、パッケージが紛らわしいという声が複数ありました。



処方医薬品である「ヒルドイド」は、保湿などの効果が認められる医薬品として長年使用されています。



近年においては、ヘパリン類似物質製剤を代表する医薬品であると認識されており、処方箋を得て美容目的で使用するということが社会問題化したほどです。



この結果、多くの人は、「ヒルドイド」という商品名を耳にすると、保湿などの効果が得られる医薬品であると考えるようになっていると判断できます。



健栄製薬も、「ヒルドイド」という商品名が人に与える印象を認識し、それを利用することを意図して、語頭と語尾が同一の「ヒルマイルド」という商品名を使用しているのだと思います。



上記にもあったように、ヘパリン類似物質製剤は複数の会社によって販売されていますが、全く異なる商品名が使用されているものが多いように思います。



マツモトキヨシは、「ヒルドイド」と語頭の「ヒル」、語尾の「イド」が同一である「ヒルメナイド」という商品名を使用しているという事情がありますが、それでも、裁判所において、「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」が類似すると判断される可能性はあると個人的には考えています。




【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://youtube.owacon.moe/c/starlaw>
事務所名:スター綜合法律事務所
事務所URL:http://www.star-law.jp/