2021年01月28日 11:12 弁護士ドットコム
4人の女性に性的暴行した元大学生(20)に、懲役5年6カ月の実刑判決が言い渡された(大津地裁1月25日)。この判決が「加害者に甘すぎる」とネットで話題になっている。
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朝日新聞(1月26日)によると、元大学生の男性は2019年9月~20年9月にかけ、4人の女子高生に暴行を加えたとして、強制性交等や強制性交等未遂の罪に問われていた。
男性は「(少年法の対象となる)未成年のうちにレイプをいっぱいして20歳になったらやめようと思っていた」などと供述したという。
強制性交等罪は、2017年の刑法改正で法定刑の下限が懲役3年から懲役5年まで引き上げられた。男性は「懲役5年6カ月」のため、法定刑の下限に近い刑が言い渡されたということだ。
しかし、4人もの女性に性的暴行した上、「未成年のうちに」と犯行を繰り返す姿勢は、とても悪質なものだ。はたしてこの被告人のいうように、20歳未満に犯した罪は少年法の適用により、罪が軽くなるのだろうか。
少年事件にくわしい中原潤一弁護士は「成人の刑事裁判では原則として少年法が適用されることはありませんので、今回の事件で、少年法が適用されて求刑や量刑が低くなっているということはありません」と断言する。一体どういうことだろうか。
「この被告人は少年法の適用を勘違いしています。
『20歳になったらやめようと思っていた』ということですが、仮に20歳になる前にやめたとしても、20歳未満の時にした犯行によって逮捕され、少年審判を待っている間に20歳の誕生日を迎えたら、成人と同じ刑事裁判を受けることになります。
もちろん、20歳未満の時にした犯行が、20歳を超えてから発覚した場合も同様です」
では、犯行時に少年であったことは、求刑や量刑を低くする理由になるのだろうか。
中原弁護士は「結論から言えばありえる」としつつ、今回の事件については「それが理由で低くなっているわけではないでしょう」と話す。
「量刑(刑の重さ)は、まず、したことに対する責任(犯情)を考えて刑の幅を決めます。
同じような事案の量刑傾向の中で、たとえば10年を超える重い部類なのか、5年~10年の中程度の部類なのか、5年以下の軽い部類なのか、どの類型に属するのかを考えます。
この刑の幅を考える際には、行為それ自体を考えます。ですから、『少年であったこと』はこの幅を決める際には考慮されないことが多いです。
ただ、犯罪に至った動機経緯が成人ではありえないその少年の未熟さに起因する場合には考慮されることがありますが、今回の事件の犯行動機では考慮されないでしょう」
「刑の幅を決めた次に、したことに対する責任以外の事情(一般情状)を考慮します。
ここで、犯行時に少年であったことは考慮されることがあります。ただ、考慮されると言っても、他の事情とあわせて考えて、10年以上でどこに位置付けるか、5年~10年でどこに位置付けるか、5年以下でどこに位置付けるかというものです。
すでに犯情を検討して設定された幅の中での議論ですので、『少年であったこと』で本来10年以上であった刑が5年になるということはありません。
たとえば、『少年であったこと』は、設定された5年~10年の幅の中で、成人とは異なり未熟な考えによる犯行で、30代以上の成熟した大人と比べて柔軟性があり更生の可能性も高いということを理由に、他の事情もあわせて半年から一年程度刑を軽くする事情になるとは言えますが、逆に言えばその程度しか考慮されません」
つまり、少年であったことにより刑が軽くなることはあるが、あくまで先に決められた刑の幅のなかで軽くなるものであり、そこを越えて大幅に軽くなることはないということだ。
今回の事件の「5年6カ月」という量刑については、どう考えられるのだろうか。
「4人に対する強制性交等や強制性交等未遂の罪ということですが、その内訳がわからないので何とも言えません。
たとえば、1人に対する強制性交等と3人に対する強制性交等未遂であるならば、量刑傾向に照らしても妥当と言えると思います。また、強制性交等罪はいろいろな態様があり、膣性交は口腔性交に比べて犯情が重いと考えられています。
性交に至るまでの暴行・脅迫の程度、性的自由の侵害の程度などは様々なものがあり、一概に今回の事件が軽いとは言えません。
むしろ、検察官の6年という求刑、裁判所の5年6カ月という判決から考えれば、他の事案と比較して、そこまで悪質と言えるような態様ではなかった可能性はあると思います」
今回の被告人は、おそらく少年法を誤った形で理解していたのだろう。中原弁護士は「このような事件を発生させないために、少年法について正しい発信をしていかなければならない」と話す。
「少年法の適用の問題ではなく、少年法を誤った形で理解してしまった被告人に原因があると言えます。さらに言えば、あたかも少年だと軽く済むような誤った報道・発信をしているメディアなどにも責任があると思います。
この被告人がそのような誤解をしていなければ、被害者は被害に遭わなかった可能性があるのですから」
【取材協力弁護士】
中原 潤一(なかはら・じゅんいち)弁護士
埼玉弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件を数多く手がけており、身体拘束からの早期釈放や裁判員裁判・公判弁護活動などを得意としている。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:http://luminous-law.com/