autosport web編集部では東京都内から鈴鹿サーキットまでアウディRS5 Sportbackを試乗した レーシングカーを彷彿とさせる地を這うようなシルエットに、20インチアルミホイールの隙間からセラミックブレーキが顔を覗かせる『アウディRS5 Sportback』の姿を初めて目にしたとき、これはただの4ドアクーペではないと感じた。
それもそのはず、この車両はアウディのハイパフォーマンスモデルを手掛けるAudi Sport GmbHによって開発された高性能仕様『RSモデル』の車両だからだ。モータースポーツの世界で鍛え、培われてきたアウディスポーツのノウハウが込められた『アウディRS5 Sportback』をautosport web編集部員が試乗した。
* * * * * * * *
2019年8月から販売されている『アウディRS5 Sportback』は『アウディA5 Sportback』をベースに開発されたA5シリーズのトップモデル車両の一台だ。
RS5は2ドアモデルの『アウディRS5 Coupé』と4ドアモデルの『アウディRS5 Sportback』の2種類がラインアップされている。
2017年から2020年シーズンにかけてDTMドイツ・ツーリングカー選手権を戦った『アウディRS5 DTM』のベースとなったことでもモータースポーツファンにも馴染みの深い一台だろう。
寒さが本格化した12月初頭、autosport web編集部員は全日本スーパーフォーミュラ選手権の第5戦&第6戦の取材も兼ねて、東京都新宿区にある編集部から三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットまで『アウディRS5 Sportback』で往復し、そのポテンシャルを体験することにした。
ステアリングを握ると、まず、最高出力450PS/最大トルク61.2kgmを発揮する2.9リッターV6ツインターボエンジンの想像以上のパワフルさに驚かされた。
アクセルを踏み込めば1,810キロの車重をものともせず、楽々と速度を上げていく。アクセル感度を上げれば延々と加速を続けてしまいそうなポテンシャルを感じることができたが、それはできない。
なぜなら、日本の高速道路には制限速度があるからだ。
このときほど、日本という国にアウトバーンが存在しないことを残念と感じたことはなかったが、制限速度内であっても、アウトバーンでの高速運転を前提としたボディ剛性の高さ、静音性の高さ、そして『quattro (フルタイム4WDシステム)』による高い安定性は十分に感じることができた。
また、長距離運転で欠かせない存在となっているクルーズコントロールも高い精度をみせてくれる。
『アウディRS5 Sportback』は、ドライバーが設定した速度を維持するだけではなく、自動的に先行車両との車間距離を保つ『アダプティブクルーズコントロール』を搭載している。
高速道路走行中だと、車線変更で先行車との距離が縮まることが多々あるが、そのような状況でも即座に先行車との車間距離を維持するべく、コンピューターがアクセル開度/ブレーキ開度を調整してくれるのだ。
渋滞が発生し、先行車が停車した場合でも、先行車に合わせて『アダプティブクルーズコントロール』が自動的に停車まで減速している。
この減速も非常にシームレスであり、乗り手に不快感を与えることはない。即時に走行状況を分析するコンピューターと感度の高いセンサー/レーダーを搭載しているからこそなせる技だろう。
さらに『アウディRS5 Sportback』は車内ディスプレイから車両の走行モードを変更できる『アウディドライブセレクト』を搭載している。
この『アウディドライブセレクト』ではオート、コンフォート、ダイナミック、インディビジュアルの4つの走行モードが設定されており、ドライバーが選択したモードに応じて、エンジン/トランスミッション、ステアリング、エギゾーストのセッティングの変更やダンパーの減衰調整などが行われる。
たとえば、ダイナミックモードの場合、ダンパーの減衰は硬めとなり、可変バルブ付きエギゾーストのバルブが開いて、より太く迫力のあるV6サウンドが奏でられるようになるのだ。
ワインディングなどで走りを楽しむ際にはダイナミックモードがおすすめだが、ダンパーの減衰もかなり硬めとなり、乗り心地も路面に対し敏感になる。
街乗りや同乗者がいる場合には脚が柔らかめで、エギゾーストサウンドも控えめのコンフォートモードがおすすめだ。なお、オートモードでは状況に応じて自動でセッティングされ、インディビジュアルモードでは自分好みに細かく設定したデータを呼び出すことができる。
Audi Sport GmbHによって開発された高性能仕様『RSモデル』ということもあり、『アウディRS5 Sportback』のダンパーは基本的に硬めにセッティングされている。それゆえに、高速道路上での乗り心地は快適だが、街乗りの際には路面の凹凸に敏感となることから、乗り手によって好みがわかれるところだろう。
なお、首都高速3号渋谷線や東名高速道路(東京インターチェンジ~御殿場ジャンクション)といった歴史のある高速道路の場合、高架上のジョイントの上を通るたびに発生する縦揺れが大きいことが気になった。
試乗のメインルートとなった新東名高速道路(御殿場ジャンクション~豊田東ジャンクション)では気にならなかったのだが、このような路面を走る場合は、事前に『アウディドライブセレクト』でダンパーの減衰を、より柔らかめに設定しておく必要があるだろうと感じた。
ドライビングシートとナビシートにはアルカンターラ/レザー仕立てのRS専用スポーツシートが採用されている。スポーツ走行にも耐えうるホールド感を持ちつつ、アルカンターラ生地により高級感を演出している。その上、電動サイドボルスターとマッサージ機能を搭載している。
ステアリングは3スポークのレザー生地で、下部中央にはRSモデルのロゴが刻印されている。高性能車両の証ともいえる握りやすさはもちろんのこと、14個のマルチファンクションボタンによりナビ画面の操作、オーディオの操作などがやりやすいデザインだ。
さらに、ステアリングのリム部分にはヒーターが内蔵されており、ハイクラスカーに求められる機能は一通り搭載している。インテリアでも妥協を感じさせない、アウディ/アウディスポーツの姿勢を垣間みることができた。
リヤトランクはゴルフバックも搭載できる奥行きと広さを兼ね備えている。写真のとおり、編集部員3名の4泊5日の荷物と機材バッグも全てトランクに収まった。
車両本体価格は消費税込みで13,020,000円からとなっている。ベースとなった『アウディA5 Sportback』が5,630,000円のため、その価格は単純比較で倍以上となる。
しかし、この価格差を納得させるポテンシャルを確かに持っているクルマであると感じることができた。5日間の試乗で、『アウディRS5 Sportback』に対し『足りない』と感じたことは一度もなかったからだ。
モータースポーツの息吹を感じるハイパワーなエンジンにレスポンスの良いミッション、高級感と機能性を両立したインテリアに、快適なドライビングをアシストする各種コンピューターを搭載した『アウディRS5 Sportback』は状況に応じて乗り手が求める乗り味に変えることができるマルチなポテンシャルを持っている。
今回の試乗では公道での『アウディRS5 Sportback』の姿しか垣間見ることはできなかったが、機会があれば是非サーキットでも走らせてみたい。そう願う一台であった。