2021年01月22日 19:11 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの対策を強めるため、新型インフルエンザ対策特別措置法と感染症法の改正案が1月22日、閣議決定された。
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政府・与党による改正案には、事業者への休業や時短命令や、従わない場合の罰金、入院を拒否する感染者への懲役刑の導入などが盛り込まれている。
感染者への差別の強まりなどに警戒を強める日弁連は同日、臨時記者会見を開き、「安易な罰則の導入は必要ない」とし、改正案に反対した。
改正案は本通常国会に提出される。政府・与党は2月中の成立、施行を目指しているという。
特措法の改正案では、宣言の出された対象地域で、飲食店などの事業者に対して、都道府県知事が休業、時短営業を命令できる。
また、宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新たに創設する。この措置下でも、知事は、時短などを要請し、正当な理由なしに応じない場合、命令もできる。
命令に従わない事業者には、緊急事態宣言下では50万円以下の過料(行政罰)とし、措置下でも30万円以下の過料とする。
現行の特措法では、宣言下において、休業や時短は、「命令」ではなく「要請」にとどまっていたため、改正案には罰則をともなう強制力がつく。
感染症法の改正案では、感染者が入院拒否などした場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を設定する。こちらは刑事罰である。
一方で、国や地方公共団体は、コロナの影響を受けた事業者への財政上の支援措置を講ずるとも定める。
日弁連の会見では、会長の荒中弁護士による声明が発表され、「安易な罰則の導入は必要ないと言うべきである」と、改正案について、抜本的な見直しがなされない場合、反対する姿勢を明らかにした。
要旨を抜粋する。
「改正案は、感染拡大の予防のために都道府県知事に広範な権限を与えた上、本来保護の対象となるべき感染者や事業者に対し、罰則の威嚇をもってその権利を制約し、義務を課すにもかかわらず、その前提となる基本的人権の擁護や適正手続の補償に欠け、良質で適切な医療の提供及び十分な補償がなされるとは言えない」
会見で、副会長の關本喜文弁護士は、感染の実態や、感染拡大が飲食店など事業者の営業によるものか不明な点が多々あるなか、拙速に導入された罰則が恣意的に運用されるおそれがあるとする。
そのうえで、罰則の導入に反対する理由は主に3点。
・行為類型(構成要件)が不明確
・刑罰の有効性が疑問
・差別偏見を一層助長するおそれ
「感染したことで犯罪者と呼ばれること、この国のシステムからのけものにされるのかということはどうなのか」「感染者の人権を守らなければならない」と呼びかけた。
また、人権擁護委員会委員長の川上詩朗弁護士は、感染への不安は、人間として自然な防衛本能だと指摘。
患者や感染のおそれがある者は、排除されるのではなく、保護される存在として考えるべきだとした。
「ひとつひとつの具体的な不安をひろいあげ、ひとつひとつ解消する取り組みが求められていると思う。
感染の疑いのある人は守られるべき存在で、誰もが安心して医療を受けられるとなれば、不安も解消される。現状、課題として直面しているところだと思います」
日弁連では、人権イベント・シンポジウム「新型コロナウイルスと人権 差別・偏見のない社会を目指して」を2月15日にオンラインで開催する。大学教授らが参加し、改正案の罰則についても議論する。