音楽は月額定額制で聴き放題のサブスクリプションサービスが普及している昨今。もはやCDを買う人もめっきり減ってしまった。しかし、一方で「アナログ回帰ブーム」も来ている。中古販売店でカセットテープが"値上がり"しているというのだ。
カセットテープは1970~90年代に流行。大きく分類すると「ノーマル」「ハイポジ」「メタル」の3種類があり、特に価格が高騰しているのが高音質で知られる「メタルテープ」だ。2000年頃に生産終了し、現在入手困難になっている。
ハードオフ名古屋覚王山店では中古未開封の「SONY METAL MASTER90」が8800円、「MAXELL METAL VERTEX90 」が1万7600円など、高額で販売されている。同店舗の店長・大西裕二さんは、「生産終了後、徐々に値段が上がっていっています」と話す。
若い人にも人気「バンドやっている人だとデモテープ配布用やレコーディング用に」
上昇幅については、「おそらく当時1000円程度でも、今や10倍になっているものもあり、プレミア価格になっていますね。ハイポジも当時から比べたら価格が倍になっているものもあります」と説明。
同店舗では以前から中古のカセットテープを取り扱っており、「前から人気があるのかなとは思っていましたが、去年末ごろからより買取・販売数は多くなりました」という。
メインの購買層は50~70代。「おうち時間の増加もあり、『昔聞いていた音楽を録音したい』『当時は買えなかったけど今は買える』と高音質のメタルテープを選ぶ人が多いですね」と、「やるならいい音で録音したい」という人が購入するという。
「一方、若い人も購入されます。バンドをやっている人だと無料のデモテープ配布用だとノーマルを、レコーディング用だとメタルテープを買われますね。オーディオはこだわると止まらないので、テープもいいやつを使いたいとなりますから」
大西さんはカセットテープの再注目に「オーディオ関係でカセットテープが取り上げられたのがすごく嬉しい。メタルテープはもう製造されていないので、録音する方は一音一音気持ちを込めて使っていただけたら」と語った。
「買ったけどもったいなくて使えない」となってしまう人も
「ここ10年くらいアナログ回帰の流れがありますね」と話すのは、東急ハンズ渋谷店に店舗を構える中古ラジカセ・ブランクカセットテープ専門店「DESIGN UNDERGROUND SHIBUYA-BASE」の松崎順一さん。全米レコード協会によると2020年上半期、レコードの売上はCDを上回った。
「デジタル化が進んで音楽をサブスクやネット配信で聴く人が増える一方で、アナログ回帰という二極化が起こっています。まずレコードを聴く人が増え、カセットテープはここ4~5年でじわじわと求められるようになりましたね」
近年、カニエ・ウエストやビリー・アイリッシュを始めとした海外の大物アーティストがカセットテープでアルバムをリリースしている。そのため "カセットテープで音楽を聴く"というスタイルを楽しむ若者も増えているようだ。
一方、同店でブランクのカセットテープを購入するのは40~50代がメイン。取り扱う"中古テープ"には「実際に使用済み」のものと「未使用・未開封品」のものがある。相場が高騰しているのはやはり、メタル・ハイポジなど高性能の未使用カセットテープだ。
「5年ほど前にリサイクルショップで2000~3000円だったものが今は5万円になっていたりします。1万円以上のテープを購入する人は若者から年配までいますが、『買ったけどもったいなくて使えない』とコレクションとなる人が多いですね。僕も1万5000円の未開封メタルテープがあったら怖くて開封できません(笑)」
未開封メタルテープはコレクション、もしくは将来さらに値上がりする可能性もあるため投機的商品として取り扱う人も少なくはない。しかし、松崎さんは「僕としてそういう流れは好ましくないなと思っています」と話す。
「やっぱりカセットテープは気軽にどんどん使って欲しいので、中古のメタルテープも50円から数百円で販売しています。新品テープも取り扱っています。僕がカセット好きなので、ネットよりも安く販売しています」
ネットだとコンディションも分からないものもあるが、SHIBUYA BASEではその場でチェックすることもできる。レアなテープもあるため「選ぶ楽しさもある」と好評のようだ。松崎さんは、
「カセットテープが盛り上がってきているのは嬉しいです。ただ新品に関しては異常に値段がつり上がって、違う方向に行っているように見受けられるので『そうじゃないんだよ』『僕のお店では適正価格で買えるんだよ』とお知らせして、本来のカセットテープならではの楽しさを味わってほしいです」
と語った。