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「性的写真を撮れないスマホつくって!」 NPO団体がアップルとグーグルに「要望」準備

2021年01月22日 10:41  弁護士ドットコム

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スマートフォンで「性的な写真」を撮影できないようにしてほしい――。児童ポルノやリベンジポルノなど、デジタル性暴力に関する相談を受けている団体が、米アップルと米グーグルに対して、こんな内容の要望を出そうと準備している。(ライター・玖保樹鈴)


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●性的な画像を撮影させない「AI」を搭載することを望んでいる

自撮りにしろ、盗撮にしろ、スマホで撮った性的な画像は、いったんインターネット上に掲載されてしまうと、完全に消すことはむずかしい。プロバイダに削除してもらっても、ふたたび流出することが少なくないからだ。



こうした状況を受けて、NPO法人「ポルノ被害と性暴力を考える会」(ぱっぷす)は、圧倒的なシェアを占めるアップルとグーグルに対して、スマホの標準機能として、性的な画像を撮影させない人工知能(AI)を搭載することを要望しようとしている。



●クラウドファンディングをスタートさせている

この要望に先立って、ぱっぷすは昨年12月25日、キャンペーンの広告費をあつめるクラウドファンディングを立ち上げた。



クラウドファンディングには、写真家・アーティストの大塚咲さんのアート作品が返礼品となっている(3万円以上)。



大塚さん自身も9年前にAV女優を引退したにもかかわらず、現在も性的な画像がインターネット上で検索できることから、そのことについて異議を唱えている。



ぱっぷす理事の金尻カズナさんは「大塚さんがデジタル性暴力の本質を表現されている、数少ないアーティストの一人であることから、キャンペーンの協力を依頼することになった」と話す。



「表現の自由」などの観点から議論が出てくることも予想されるが、今回のキャンペーンについて、金尻さんと大塚さんに聞いた。



●GAFAに扉を開けてもらうために



――アップルやグーグルにこのような要望を出そうとするのはなぜでしょうか?



金尻:ぱっぷすに寄せられる児童の被害相談のほとんどが、性的な写真の送付要求や盗撮、拡散など、スマホにまつわるものです。自分で撮影した性的な写真を「自画撮り」といいますが、児童に自画撮りをさせて、巧妙に送らせる大人たちがいます。



被害児童は、「そんなことをする子どもだったのか」と失望させてしまうことをおそれて、親に相談できません。性的な写真を送ってしまった自分が悪いのではないかと諦めてしまったケースもあります。



この問題にどう向き合えばよいか、本当に悩み苦しみました。ぱっぷすがロビー活動をして、法律制定につなげられないかも検討しましたが、2014年改正の児童ポルノ禁止法の単純所持ですら、2004年から足掛け10年もかかっています。



法律の制定はとてもハードルが高く、GAFAなど、大手IT企業がイノベーションを生み出す裏で引き起こされている人権侵害について、何ができるのかと悩んでいた矢先にこのアイデアが持ち込まれたのでした。



ちなみに、人工知能(AI)を使って、スマホに性的画像を撮影させないというアイデアは、ぱっぷすの相談員の知人で、イノベーションコンサルタントの谷とも子さんによるものです。



――どうしてクラウドファンディングを立ち上げたのですか?



金尻:アップルやグーグルと話し合いたいと思っても、相手が応じてくれないからです。それがシリコンバレーのIT企業(GAFA)の特徴です。彼らにとっての日本は、あくまで一消費地にしか過ぎないのだと思い知らされました。



私たちの声をアップルとグーグルに届けて、扉を開けてもらうためには、署名を集めるしか手立てがありませんでした。そして、多くの人に知ってもらい、声を届けるためには、広告費や人件費がかかります。どうしても予算が必要です。



そのためにクラウドファンディング立ち上げました。



――いわゆる「デジタルタトゥー」の削除要請は、プロバイダー側に申し立てることが一般的だと思います。



金尻:ネット上に拡散した性的画像記録の削除要請の際に、相談者の身分証明書の提示がなければ、削除に応じないプロバイダもあります。



とくにデジタル性暴力被害者は、ネット上に拡散している性的な映像や画像と本名および住所が関連づけられて、再拡散することを極度におそれます。



一方、性的画像記録を投稿する側は、ほぼ匿名に近い状態で投稿することができます。



そのため、ぱっぷすは、匿名に近いサービスを提供しているプロバイダに対しては、被害者の身分証明書の提示をせずとも削除要請できる制度をもとめています。



また、プロバイダが自ら児童ポルノ・リベンジポルノを発見しても通報義務もありません。



ぱっぷすは、日本政府との意見交換の場で、プロバイダの責務として、意に反して拡散した性的画像記録を発見や通報があれば、関係府省に通告することなどをもとめています。しかし、まだ実現に至っていません。



●人権侵害に加担しないことを目指して

――性的な画像とそうではない画像をAIが見分けることは、技術的にはむずかしくないのでしょうか。もし、むずかしくないのなら、どうして今まで野放しにされてきたんでしょうか?



金尻:現在のスマホは、一世代前のノートパソコンと同程度の機能を有しています。機械学習機能を用いれば、技術的には可能です。アップルとグーグルのエンジニアの頭脳と技術、開拓者精神によって十分実現できるものだと認識しています。



今まで放置されていたのは、この問題に対して、これまで誰も声を挙げてこなかったことがあると思います。しかし近年、撮影技術が確立して、スマホの高機能化によって、野放しにできない問題になったということだと思います。



――「撮影機能を抑制するなんて!自由の侵害だ!」という反発も寄せられそうです。



金尻:このキャンペーンは、スマホの撮影機能を抑制するように見えるかもしれません。しかし、撮影者に対して、児童ポルノ・リベンジポルノなどの人権侵害に加担しないようにスマホが教えてくれる機能ともいえます。



自動車でたとえるならば、交通事故を防ぐために、カメラやセンサーとAI技術を活用してブレーキやハンドルの操作をしてくれる運転支援機能と同じ考えです。



スマホが性的な被害者を生むための道具ではあってはならないと、私たちは考えます。



残念ながら現在のスマホの撮影機能によって、多くの女性、子どもたち、時には男性すらも、被害を訴える「表現・言論の自由」が奪われていることから、このキャンペーンは、これまで被害を受けてきた方の「表現・言論の自由」が守られることにつながり、意識改革を促す抑止力になります。



アートなど、同意のもとで性的画像記録を撮影する必要な場合は、一眼レフカメラなどで撮影すればよいのではないかと思います。



●大塚咲さん「性行為中に写真を撮りたがる男性が多い」



――大塚さんが協力した理由を教えてください。



大塚:ぱっぷすさんは、ネット上にある私の出演作品について、削除依頼を代行してくださっています。その相談をしている際、今回のクラウドファンディングについて知りました。



スマホの普及による性犯罪が増えているのではないかと思います。スマホで女性のスカートの中を盗撮している男性を目撃したことが何度もありますし、性行為中に写真を撮りたがる男性が多いのも知っています。



盗撮だけでなく、同意のない性行為の撮影、児童ポルノの写真や映像による性暴力の記録は、個人が所有するだけでなく、ネット上に故意に流されることがあります。しかも、それによって、利益を得る人間がいるということは、エンターテイメントとして消費する需要があるのです。



別れ話の際に、恋人が撮影した裸の写真をたてに別れさせないようにするなんて話も聞きます。この状況を変えられる方法として、AIで撮れなくすることができると聞いて、気持ちが明るくなりました。



自分の家族が被害に遭う可能性があることを心配していたのもあり、この活動が広まり、現実のものになってほしいと強く願っています。



――デジタルタトゥーについては、「撮影させる側が悪い」など、被害者の自己責任や自制を求める声もあります。大塚さんはどう考えていますか?



大塚:デジタルタトゥーは、ネット上に情報が残るということが問題であり、個人に責任があるとは私には思えません。仕組みが問題なのではないでしょうか。自己防衛してない側が悪いというのも違うと思います。



やられる側が悪いことになるなら、常に強者が正しくなってしまいます。



ネットやSNS、スマホの危険性を教えることや呼びかけは大切ですが、裸が撮れてしまうスマホそのものの仕組みを変えることができたらと思います。



●AV業界の仕組みが「デジタルタトゥー」を加速させている

――大塚さん自身も、いまだに過去の画像が検索できてしまうため、それを削除するための取り組みをしているとうかがっています。



大塚:AVのデジタルタトゥーに関していえば、掲載サイトがあまりに多いことを知らないまま、女性たちが出演していることが問題だと思います。



1本出演したら、大手動画配信サイトだけではなく、ありとあらゆる販売サイトに置かれ、挙句の果てには違法アップロードまでされて、無料素材のように扱われることがあります。そんな説明はメーカーからもプロダクションからも一切ありません。



現状は、本人の意思とは関係なく、知らぬ間にデジタルタトゥーが刻まれています。権利はメーカーとプロダクションにしかなく、出演者には何の権利もないAV業界の仕組みが、デジタルタトゥーを加速させているのではないでしょうか。



――大塚さんがこのクラウドファンディングを通して、伝えたいことは何ですか?



大塚:この活動がより多くのみなさんの心にとまり、AI技術を搭載したスマホが世界中に広まることを願っています。自分の子どもを被害者にも加害者にもさせたくないという気持ちはみんなも同じなのではないでしょうか。



一人ひとりが声をあげることで変わることがあります。それを信じて、どうかご協力をよろしくお願いします。SNSに投稿していただくだけでも、気が付いてくれる方が増えるだけでも未来は変わると思います。



●クラウドファンディング

【AI技術でデジタル性暴力のない世界を!】性的画像を撮影させないスマホが欲しい!
https://camp-fire.jp/projects/view/335757