2021年01月22日 10:22 弁護士ドットコム
一人暮らしの80歳近い実母が、親族の知らない間に「赤の他人」である30代の男性に1億円以上を生前贈与していたーー。弁護士ドットコムに、息子からの相談が寄せられました。
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相談者によると、母親と相手の男性は「友達」と言いながら、2人で旅行に行ったり、食事をするなどしていたようです。母親は、生前贈与をした理由について「最後の恋、いい夢を見せてもらったから…」と話していたといいます。
相談者は、男性が「母の金目当てで近づいてきたのでは」と疑っています。男性は用意周到に契約書まで作成しており、日付、署名捺印、条件なしで贈与する旨まで書いているそうです。
相談者は「母の身勝手な行動に唖然としてしまいました。黙って引き下がるわけにはいきません」と納得いかない様子です。ちなみに、母親は「頭はしっかりしており、今のところ認知症でもありません」とのことです。
親族に打つ手はないのでしょうか。萱垣建弁護士の解説をお届けします。
ーーこのようなケースの場合、親族は生前贈与を取り消すなど、何か取りうる手段はないのでしょうか。
今回のケースは、契約書がありますから、書面による贈与ということになります。
民法550条は「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる」と規定していますが、その他に解除に関する規定はありません。とすると、この民法550条の反対解釈によって、書面による贈与は、原則として解除ができないことになります。
ですから、親族が、相手の男性からお金を返してもらいなさいと母親を説得できたとしても、母親自身、取り戻すことができないのです(なお、受贈者が、贈与者に受けた恩に背くような著しい背信的行為が認められる場合に撤回(解除)を認めた判例はあります:最高裁昭和53年2月17日)。
ただし、たとえば、結婚すると約束してお金を出させたが、本当は結婚するつもりなどなかったというような場合には、詐欺・錯誤を理由として贈与したお金を取り戻せる可能性はあります。また、今回のケースで、母親が亡くなった場合、その生前贈与を遺留分侵害額請求の対象にすることができる可能性はあります。
(弁護士ドットコムライフ)
【取材協力弁護士】
萱垣 建(かやがき・たてる)弁護士
平成5年登録。弁護士経験25年以上。平成23年度愛知県弁護士会副会長。愛知県弁護士会及び中部弁護士会連合会の委員会の委員長、日本弁護士連合会の委員会の副委員長を経験。わかりやすく、疑問が残らないように説明することがモットー。
事務所名:万朶総合法律事務所