2021年01月15日 10:11 弁護士ドットコム
4人の子どもたちに恵まれ、夫が経営する事業に協力して従事してきた夫婦。一見すると、経済的に安定した幸せな家族だったが、実際には家庭内に平穏はなかった。
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夫は不倫に走り、妻子に暴力をふるっていたからだ。当時7、8歳だった長男の手の甲などに火のついたタバコを押しあてたり、長女を真冬のベランダに立たせたりするなどの体罰をおこなったこともあるという。
そんな夫と離婚し、離婚慰謝料などを請求すべく妻は裁判を起こした。
しかし、夫は妻の主張を否認し、不貞行為は「(妻の)誤解による憶測に過ぎない」、妻に対する暴力は「多少」おこなったことを認めつつ故意ではない、子どもたちへの暴力はしつけという意味で、「子供達のためにと思って」おこなったと主張した。
これから紹介するのは、そんな夫婦が争った裁判例(広島高裁岡山支部平成16=2004年6月18日判決)だ。裁判所は、どのように判断したのだろうか。
高裁が認めた事実によれば、夫婦は1973年11月に結婚。夫は結婚当初から夫婦喧嘩をした際に妻に手を上げることがあったという。また、夫は子どもたちに対しても体罰をおこなっていたとされる。
夫は1985年または1986年ごろ、当時7、8歳の長男が近所の子どもたちと火遊びをしていたことから、火遊びの危険性を教えるため、火のついたタバコを長男の手に押しつけた。
また、夫は、ピアノ教師に来てもらっているのに長女が駄々をこねて練習しようとしなかったのを見咎め、長女を真冬のベランダに立たせたという。
ほかにも、夫は、関係ない子どもたちを「連帯責任」と称して叱ることもあったほか、長女が希望した高校への進学も許さず、別の高校へ進学させるなどしていた。
そんな夫の不倫が明るみになったのは、1997年のことだ。夫が経営する事業の顧客である女性に不可解な行動がみられたことから、妻は夫の不倫を疑うようになった。
同じ年の3月に不倫のことなどをめぐり、夫婦で口論に発展したことを機に、妻は一時的に実家に戻った。妻の主張によれば、このとき離婚する決意をしたものの、夫が謝罪して不貞行為を止めることを約束したことから離婚の決意が揺らぎ、冷却期間をおくため一時的に実家に戻ったという。
ところが、しばらく冷却期間を置いた後、自宅に戻ってきた妻に、夫は離婚届を突きつけた。妻はこれに応じなかったが、つらい出来事はその後も続いた。
同じ年の8月、夫は子どもと喧嘩になった際、妻にも頭部外傷の傷害を負わせた。一方、不倫相手の女性に対しては、呼び出して食事をするなどしていた。
11月にも夫婦喧嘩になり、妻が不倫相手の女性に電話したところ、女性は夫と不貞関係であることを認めたため、再び自宅を出た。
その後、夫は開き直ったかのように、妻に離婚届を郵便で送りつけ、事業の経理事務を不倫相手の女性に任せるようになった。また、夫は、月に2、3回は女性を自宅に招き、女性も手作りの夕食を作って夫のところに出向いていた。さらに、夫は社員旅行にも女性を同行させた。
翌年の1998年2月ごろ、妻は岡山家庭裁判所に離婚調停を申し立てた。しかし、同じ年の4月15日に不成立となった。
その翌日、妻は女性の使用する自動車が自宅前に駐車されているのを発見した。妻が車を覗き込んでいると、夫に暴行を加えられ、頭部打撲などの傷害を負った。
妻は離婚や離婚慰謝料などを求め、裁判を起こすに至った。
裁判で、夫は「子供達のためにと思って」体罰をおこなったとし、妻に対する暴力は「多少」おこなったことを認めつつ故意ではないなどとした。また、不貞行為は「(妻の)誤解による憶測に過ぎない」と主張した。
さらに、夫は、婚姻関係が破綻したのは1997年1月ごろだと主張した。このころ、夫婦は新居を建てることについて意見が合わずに対立したり、夫婦喧嘩になったりしていた。
夫はこのことが婚姻関係が破綻した原因だとし、「(妻と夫の)いずれかにその責任があるという問題ではない」などと主張した。
しかし、このような夫の言い分が聞き入れられることはなく、裁判所は、婚姻生活が長く続いたこと、夫婦が協力して多くの資産形成をしてきたことなどを挙げ、夫の主張程度の理由で婚姻が破綻したとは考えにくいと述べた。
そして、「(夫の不貞行為や妻及び子供達に対する暴力等の)一連の言動が本件婚姻破綻の主要因になっていることは明らか」であるとした。
こうして、裁判所は、離婚を認めた上で、夫に離婚慰謝料500万円、弁護士費用50万円の支払いを命じた。
また、「婚姻を破綻させた有責行為は、離婚の成立によってはじめて不法行為として評価されるものである」とし、「離婚に関する損害賠償債務の遅延損害金の起算日は離婚判決確定の日の翌日とするのが相当である」と示した。
なお、一審(岡山地裁平成14=2002年9月25日判決)では、夫に離婚慰謝料として400万円、弁護士費用40万円の支払いを命じ、慰謝料については1997年12月5日から支払済みまでの遅延損害金の支払いを命じていた。
妻は一審で認められた慰謝料や弁護士費用などに不服があるとし、夫はこれに加えて夫婦間の婚姻破綻に関する責任原因についても不服があるとして、それぞれ控訴していた。
(注)本裁判例では、財産分与などについても争点となったが、本記事では触れない。
【監修協力弁護士】
川崎 賢介(かわさき・けんすけ)弁護士
大阪弁護士会所属。全ての依頼者の方々に満足していただくため、求められる以上のリーガルサービスをご提供できるよう心掛けております。
事務所名 :弁護士法人 法律事務所オーセンス
事務所URL:https://www.authense.jp/