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野性爆弾・くっきー!が考える「誠実さ」とは? 「真面目なだけの絵は、たぶん描いたことがない」

2021年01月11日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

くっきー!

 芸人としてのみならず、ミュージシャンやアーティストとしての活動も話題となっている野性爆弾・くっきー!による絵本『口だけ紳士と6つの太陽』が現在、好評発売中だ。


 5年ぶりとなる絵本は、誠実さをテーマにしたちょっとグロくてファンタジックなストーリー。日本ロリータ協会会長の青木美沙子の実写と自身のイラストを融合させるという新たな挑戦によって作り出された絵も注目のポイントとなっている。


 今作について「物語も絵も思いつきで描いた」と説明するくっきー!。どこまでが真意かわからない飄々とした語りぶりの中に、芸人という芯の部分を大事にした作品づくりへの想いが垣間見えるインタビューとなった。(タカモトアキ)


構想に2年くらいかかった(ということに)

――5年ぶりに絵本を描いたきっかけを教えてください。


くっきー!:もともと、絵と実写が融合しとるようなものを描きたいなと思ってたんです。映画『ロジャー・ラビット』を観た時にシビれたというか、マイケル・ジョーダンとラビットのアニメが合わさってるのが楽しいなと思っていて。そうしたら、ヨシモトブックスからちょうど本出しません?って声をかけられたんで、やりたいものがあるからやりますって。タイミングが合ったってことですね。


――物語の構想もすでにあったのですか?


くっきー!:それがピクリともなかったんですよ。どうしようかなと考えてる時に、女の子が口の中に入っていくイメージがふわっと浮かんで。それええなぁと思って、なんとなくタイトルを付けて書いていったんです。オチも決めきらんまま書き始めたんで、思いつきの羅列っていう感じですね。って言うと、あんまり聞こえはよくないですけど(笑)。


――昔話や童話にあるような道徳的教訓が入っていたので、かなり考えらて書かれたのかなと思っていました。


くっきー!:でしょ? ぽかったでしょ?


――ぽい?(笑)


くっきー!:そうそう。意識して書いたわけではなく、どういうオチにしようかっていうところで教訓に逃げた感じというか。ええこと書いておけば、みんな納得してくれるかなと。まぁ、思いつきにしてはよくできたなと思いますわ。(ストーリーの)完成はマジでめちゃくちゃ早かったんですよ。本作りましょう言うて打ち合わせして、こんな本にしますっていう話からストーリーを考えてくださいって言われて、大体(執筆期間が)1カ月くらいあったんですかね。けど、締め切り間近までやりませんやん?


――その気持ちはよくわかります。


くっきー!:でしょう? だから、締め切りの前日、前々日……2日くらいで考えたと思います。……よくないですよね、取材的にこの答え。構想に2年くらいかかったということにしてもらえると助かりますわ。


――(笑)。この本の教訓によると、嘘はよくないことなのでは?


くっきー!:あぁ、そうでした。地獄行きになりますねぇ(笑)。


――以前にも『野性昔ばなし』『野性昔ばなし THE ワールド』と2冊の絵本を出されていますが、そもそも昔話や童話はお好きですか?


くっきー!:僕、活字の本はピクリとも読まなくて。どっちかって言うと苦手で、小さい頃の記憶にあったのがこういう昔話とか童話やったってことなんやと思います。どちらかと言うと漫画で育ってきたので、絵がある本のほうが好きなんかもしれないですね。一番印象に残ってるんは、『特攻の拓』。あと、『ビー・バップ・ハイスクール』ですから。


――2冊とも漫画ですね。童話や絵本で印象に残っている1冊はありますか?


くっきー!:ちょっとジャンルがよくわからないんですけど……『ふしぎな島のフローネ』は?


――それは『世界名作劇場』で放送されていたアニメですね。


くっきー!:そうかぁ。じゃあ、『不思議の国のアリス』でどうですか? 映画で観たんですけど、それは印象に残ってます。


「誠実さ」を考えるきっかけに


――いろいろと挙げていただいて、ありがとうございます。物語のテーマは「誠実であるかどうか」だと思うのですが、くっきー!さんの思う誠実さってどんなものですか。


くっきー!:人に怒られないような振る舞いをするのがいちばんなんでしょうけど、人間って絶対、誰かに怒られるものじゃないですか。そういう時に、ちゃんと謝れてるかどうかは大事ですけどねぇ……誠実。……誠実か……ほんまになんなんでしょうね? ほんまに誠実な人なんて0人やと思いますし、誠実でありすぎるのもよくないと思うんですよ。行きすぎてるって、なんかだるいですやん? 例えば、『グラップラー刃牙』のジャック・ハンマーなんて、筋トレしすぎてカリガリになった時期もありましたし。まぁ、僕の中でも模索中っていうか、この本を読んで誠実ってなんだろうかって、各々考えてもらえたらいいですね。


――実写と絵の合成以外では、どんなところにこだわりましたか?


くっきー!:中身については思いつきで描きたいものを描いたところがあるんですけど、本の装丁はすげぇこだわりました。本ってバーコードが入りますやん? あれ、めっちゃだせぇな、嫌やなと思って、帯に入れるか、パッケージにしてシールで貼るかとかいろいろと付けない案を考えたんです。けど、どうしても付けなダメやってなったんで、カバーを取っ払った表紙にこだわろうということになりました。


――なるほど。カバーを外した表紙のほうが豪華な作りになっているのは、そういう意図だったんですね。


くっきー!:そうです。本来見せたかったのは、カバーを取った表紙。これやったら飾れますやん? 本とかCDでかっこいいヤツって飾りたくなりますやん? 最近、『そんなコト考えた事なかったクイズ! トリニクって何の肉!?』(ABCテレビ・テレビ朝日系)っていう番組でよく出題として出てるんですけど、洋書がバーっと並んでいるところで収録してるんですよ。それを見てかっこええなと思って、洋書っぽい本にしたかったんで満足のいく装丁になりました。あとね、ほんまはもっとぶっとい本にしたかったんです。ぶっといのってかっこいいじゃないですか。でも、あたしの絵を描く限界がこの厚みでした。


――ということは、絵の制作に結構時間がかかったということでしょうか。


くっきー!:それも締め切り間近から始める感じやったんです。1カ月くらい期間をもらいましたけど、結局、5日くらいで描いたんじゃないですかね? あたし、集中力がえぐいんですよ。1日に大体5枚……は言い過ぎですけど、3枚は確実に描いてました。今回、アクリル絵の具を使ったんですけど、すぐ乾いてまいよるんです。足りへんかったらかなわんから多めにビュビュって出すんですけど、絵具がもったいないから1枚、背景を塗ったら、同じ色を使うところ(ほかの場面)を塗るという流れ作業で描いていきましたね。


5年前と比べて変わった死への意識

――絵と実写を合成するという新しい試みで、苦労したのはどんなところですか?


くっきー!:実写を当てはめられるように描いていったんですけど、抱き抱えられる城を描くのがむずくて。青木さんが持っているような感じを出したかったので、角度をどうするか、すごく悩みながら描きました。バックドロップしているところは、青木さんの腰のあたりに台を置いて撮影したんです。


――5年前と今、ご自身の書く物語、描いた絵に自分なりの変化は感じますか?


くっきー!:個人的には変わってないと思います。画力が上がってるかどうかは、自分ではわからないですし……けど、軸は変わってないんじゃないですかね? 映画とかも全然観ぃひんし、インプットもあんまりしない。基本、よそさまのものにあんまり興味はないんですよ。もちろん何かに影響されて今があるとは思うんですけど、これを観たからこういう絵を描こうと思うことはないですね。ただ、5年前は、死を平気で描いてたところがあったんです。けど、今回はしっかりと子供目線にしたかったんで読み聞かせができるようにQRコードで読み聞かせしてる音声もつけましたし、お母さんが子供に読んであげる本やということを意識して死の表現はだいぶ抑えました。


――何かしら心境の変化があったんでしょうか。


くっきー!:若い頃より、死ぬということをリアルに考える歳になってきたのはあるんかなぁ。死ぬ、ということに違った意識を持つようになったんかもしれないですね。


ボケない絵は描かない

――現在、アーティストとしての活躍も目覚ましいですが、くっきー!さんにとって絵のお仕事はどういうものですか?


くっきー!:一応、お笑いの延長線上にあるものやと考えてますけどね。よそさまにはどんなふうに見えているのかはわからないですけど、ボケない絵は描かないっていう軸はあります。真面目なだけの絵は、たぶん描いたことがない。何かしら必ずボケてると思います。やから、こういう絵本でも自分の色は出すようにはしてます。だって、あたしがただただ風景を描いても、誰も興味ねぇでしょ? 無知は武器やと思って、その都度、面白いなと思うものを描いてるだけですね。


――では今後、本として描いてみたい題材や絵はありますか?


くっきー!:(自分の本を)いっぱい並べたいんですよ。だから、シリーズもんを。絵をメインとしたハリー・ポッターみたいなシリーズもんを作りたい。……いいですね、ハリー・ポッター。クニー・ポッターを作ろう。そうしよう。


――ご自身の邦裕という名前にかけて、クニー・ポッターですか。ひょっとして、今思いつきました?


くっきー!:そうです。早速、ヨシモトブックスの人に言いますわ。そうや、映像もやりたいんですよ。今までもちょこちょこは撮ってるんですけど、絵より映像のほうがリアルやからかな? どうしてもグロくて気持ち悪い感じになっちゃうんで、いい塩梅のもんが作れたらええなって。……ギャルと一緒にやったらええんかな? 撮りたいものを撮りつつ、ギャルに編集に立ち会ってもらって「ここ、ピンクのほうがいいんじゃね?」とか「この血飛沫、ラメ入れたほうがよくね?」とかアドバイスもらって、ポップチューンに変えてもらえたら。あるじゃないですか、ギャル特有の感性って。そういうのを注入してもらって、ギャルとポップな映画を作ってみたいですね。


■書籍情報
『口だけ紳士と6つの太陽』
価格:2000円(税抜)
発行:ヨシモトブックス
発売:株式会社ワニブックス